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中国で映画「オッペンハイマー」公開~世界から1ヶ月と10日遅れての公開

2023年09月09日 | エンタメの日記
8月30日に中国で映画「オッペンハイマー」が公開されました。世界公開が7月21日なので、約1ヶ月と10日遅れての公開です。
中国語タイトル『奥本海黙』(オッペンハイマーの当て字。中国語の発音をカタカナで表すと”アオベンハイモー”)
中国劇場公開版:180分 中国にはR指定制度がないのでベッドシーンの一部がカットされたと言われていますが、原版も180分なのでカットシーンは僅かなのかもしれません。


監督:クリストファー・ノーラン 主演:キリアン・マーフィー 原作:『オッペンハイマー「原爆の父」と呼ばれた男の栄光と悲劇』
米国公開:2023年7月21日 2D IMAX

中国公開は8月30日ですが、香港、台湾、シンガポール、マレーシアなど主なアジア諸国では7月21日に公開されていたので、ノーラン監督や主演のキリアン・マーフィーのファンは、待ちきれなくて香港まで観に行ったという人も少なくありませんでした。

久しぶりに中国の映画館で映画としての意義のある知的な作品を観たような気がします。
中国の商業映画は2時間かけて楽しむ遊園地のアトラクションのような作品がほとんどなので、頭を使って真剣に考えながら見る映画は久しぶりです。

「オッペンハイマー」は物理学者・オッペンハイマーの半生を描く伝記小説を原作とする映画です。
日本では「原爆の父」というキーワードと映画「バービー」とのミーム画像SNS問題のせいで、「オッペンハイマー」自体が誤解されているような気がします。
物理学者・オッペンハイマーは終戦後「原爆の父」と呼ばれ時代の寵児となりますが、その後はレッドパージに乗じて国家権力から執拗に苦しめられる運命が待っており、「原爆の父」という呼び名はオッペンハイマー自身にとっては皮肉的な意味を持ちます。
また、映画「バービー」とのミーム画像SNS問題ですが、もしこのミーム画像が出た時点で日本で「オッペンハイマー」が公開済みで、「オッペンハイマー」本編を鑑賞済みの人が一定数いれば、受け止め方も少し違っていたかもしれません。
「オッペンハイマー」を上映しないことが核兵器反対の表明につながるという内容のものでもなく、むしろ逆だと思います。

中国では8月30日に公開され、公開から10日で約3億元(約60億円)、累計動員数約700万人という興行成績となっています。。
最近の米国映画の中では健闘しているといえます。「バービー」の中国興行収入が2.5億元なので、「バービー」を超えています。

「オッペンハイマー」は日本以外のアジア諸国ではほぼ公開されており、いずれも高い評価と堅調な興行収入を上げています。
3時間もの尺がある真面目な映画を観るために映画館に足を運ぶ人たちが世界にはまだこんなに沢山いるのかと思うと、救われる気分です。

中国でも30代を中心とするいわゆる知的な人たちが主な客層となっています。
歴史的な背景からすると「オッペンハイマー」で描かれている出来事は中国とほとんど関わりがありません。
前半は反ファシズムのもとに集まった欧米の科学者たちの原爆開発、後半は1950年代の米国レッドパージが主に描かれ、中国との直接的な関わりはなく、いまの30代前後の中国人にとって感情移入しやすい内容ではありません。
にもかかわらず、中国では700万人も動員しておりすごいなと思います。
もっとも、本作の監督・クリストファー・ノーランは中国で非常に人気がある監督です。2014年公開の『インターステラー』(星际穿越)をきっかけに熱心なノーランファンが沢山います。
「オッペンハイマー」を観にきた中国人はノーラン監督のファン、主演のキリアン・マーフィーのファン、または「オッペンハイマー」は世界的に高く評価されている映画だから、という理由で観に来ているものと思われます。

一方、日本にとっては歴史的に深い関係があります。
日本人ならば原爆投下までの経緯に激しい緊張感を抱くはずで、この映画に最も感情移入できるのは日本人かもしれません。
歴史的にほとんど関わりのないアジアの20代、30代の人々が沢山観ているのに、日本人が観なくてどうするんだ、せっかくの素晴らしい作品がもったいないと思います。
映画「オッペンハイマー」は伝記小説をもとにした写実的な作品でほとんどのシーンが会話劇です。
ロバート・オッペンハイマーという男性の視点から描かれており、当初原爆は日本に落とすために研究開発を始めたわけではなく、ドイツより先に完成させることが目的でした。
全体的なトーンは反戦的です。
広島・長崎の原爆は空から自然に落ちてきたわけではなく、落とされたものです。
映画「オッペンハイマー」を観ると、なぜ、いかにして原爆が落とされたのかがよく分かり、歴史教育的な意味があります。
なお、IMAX 2Dとして公開されていますが、敢えてIMAXスクリーンで観る必要はないように思います。
むしろ、デジタル版ではなくて、当時の時代の質感をより表現できる「35mmフィルム版」のオッペンハイマーを観るために、わざわざ香港まで行ったという話を聞くくらいです。

上海北外灘 地下鉄12号線国際客運中心
コメント
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