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コロナを乗り越えて存続する上海SNH48~SNH48専用劇場オープンから10年

2024年01月16日 | エンタメの日記
いまから約10年前の2013年8月、SNH48グループの専用劇場「SNH48星夢劇院」(SNH48シアター)が上海虹口区嘉興路にオープンしました。
「SNH48」はAKBグループの上海版として2012年4月に発足したプロジェクトです。当時AKBグループはジャカルタ、バンコクなど海外展開を進めており、上海SNH48は中堅人気メンバーだった宮澤佐江らを中心に立ち上げる予定でした。
しかし、中国当局のレギュレーションは複雑で、日本人メンバーはほとんどまともに舞台に立つことができないまま、上海での活動を諦めざるを得ませんでした。一方、上海現地で行われたオーディションにはルックスレベルの高い中国人の女の子が多く集まり、中国人メンバーのみで公演をスタートさせていきます。

その後紆余曲折あり、2016年には諸事情により「SNH48」は日本側のAKB運営会社(AKS)と決別することになります。
これ以降、SNH48は中国の独自運営になり、中国運営会社が自前で用意した楽曲・振り付けによる「オリジナルセットリスト」で公演を行っています。

専用劇場での公演が始まってから10年、多くの出来事があり、SNH48は何度も浮き沈みを経験しています。
2024年現在、中国特有の様々な規制、3年間続いた厳しいコロナ感染対策を経てもなお、SNH48は生き残っています。

現在の「SNH48星夢劇院」。劇場の外観はオープン当初とあまり変わっていません。




AKBと決別して「オリジナルセットリスト」を導入したあたりから、本来のコンセプトであった元気さ、明るさ、親しみやすさといった要素は薄れ、どちらかというとクールなパフォーマンスが増えていきます。簡単にいうとKPOP化しています。
メンバー、観客(女性客)、作り手ともに普通にKPOPが好きなので、楽曲面でもビジュアル面でもKPOPの影響が強くみられます。

日本側のAKBと決別したとはいえ、「AKBモデル」である劇場公演、握手会、総選挙、リクエストアワーなどの活動メニューはほぼ踏襲しており、いまでも夏の「総選挙」がSNH48の最大のイベントとなっています。
中国では2021年に課金投票を伴うオーディション番組が当局の批判を受け実質的に禁止されたため、SNH48も「総選挙」という名称の使用をやめました。2022年以降は「SNH48グループ年度青春盛典」という名称に変えていますが、実質的には「総選挙」です。

2023年度の「総選挙」の結果
1位(金賞)袁一琦(ユエン・イーチー)SNH48チームH 7期生(2016年9月15デビュー) 2000年3月19日生まれ 身長170~172.5cm? 四川省出身
  

2位(銀賞)王奕(ワン・イー)SNH48チームH 8期生(2017年9月8日デビュー) 2001年6月6日生まれ 身長172~173cm?江蘇省出身
  

3位(銅賞)宋昕冉(ソン・シンラン)SNH48チームX 4期生(2015年1月31日デビュー) 1997年7月8日生まれ 身長166cm(公式) 山東省出身
  

4位 周詩雨(ジョウ・シーユー) SNH48チームN 9期生(2018年2月3日デビュー) 1998年4月11日生まれ 身長168cm? 江蘇省出身
  

直近の総選挙では上位7名のうち6名が165cm以上あり、すらりとしたスタイルのかっこいいタイプが人気上位を占めています。TOP16に入るメンバーの大半が在籍年数6年以上のベテランで完璧なチャイナメイクをマスターしています。

現在SNH48グループ全体で200名近くが在籍していますが、閉じられた固有のプラットフォーム上で活動しており、その中で注目を集め、ファンを定着させるのは容易なことではありません。
中国当局は芸能に対して様々な規制を課しており、資金的にもSNH48の中でやれることは限られています。
そんな中、現在SNH48を支えているのが「CP」という要素です。
「CP」はカップリングの略ですが「ペア」と理解した方がいいかもしれません。仲の良いメンバー同士が「CP」として振る舞い、デュエットパフォーマンスをすることで人気を伸ばすというものです。
SNH48オリジナルの企画として「最佳拍档」(「パートナー」)という、ペアを組んでパフォーマンスを競い合うイベントもあり、「CP」を成功させることは人気確立の鍵ともいえます。
近年のCPの成功例の一つが、直近の総選挙で2位になった王奕(ワン・イー)と4位周詩雨(ジョウ・シーユー)のCP「詩情画奕」です。現在最有力CPで、宝塚の男役と娘役のようなパフォーマンスを頻繁に披露しています。

2024年1月13日(土)成都で行われた第10回金曲賞(リクエストアワー)「双人舞」で第2位を獲得。


今回の金曲賞では卒業間近の劉姝賢とその盟友・胡暁慧が組むCP「奶包」に敗れましたが、昨年は「詩情画奕」が優勝しています。



優勝者の特典として制作されたMV「失憶」(Unaware)。ハンガリーのブダベストで撮影されました。


MVのストーリー:深い絆で結ばれている二人ですが、周詩雨は記憶を失い、自分がどういう記憶を失ったかも認識できていない。ブタベストの街中で2人は再び出会い、過去の二人と現在の二人の姿が交錯する。増えていく写真と折り鶴、無限にループする出会いと忘却、そして絵葉書に記されたメッセージ・・・という韓国映画のテイストが漂う耽美的なMVです。

2023年1月の第9回金曲省 1位「失憶」 左:周詩雨(ジョウ・シーユー)右:王奕(ワン・イー)


このMVはSNH48シアターで公演開始前によく放映されています。
中国ではBLドラマは禁止されてるのにこれはいいのか?と何ともいえない気持ちになります。SNH48は名前こそ有名ですが、閉じられた環境の中で活動しており、活動自体の露出度は高くないので咎められることもないようです。

王奕(ワン・イー)は恵まれたルックスの持ち主ですが、デビュー当初は人気がありませんでした。
最初は普通のかわいいアイドルで、公演にも真面目に取り組んでいましたが、微妙に愛想がなかったためデビューしてから3年くらいはほとんど人気が出ませんでした。
ところが、周詩雨とのCPで「男役」にキャラ変更したことで、爆発的に人気が上昇しました。
「CP」のパフォーマンスでは、メンバー二人の関係性を擬似恋愛的なものに設定することで、きわどいポーズや動作をすることが可能になります。それが「CP」の強みです。
中国は表現に対する規制が厳しいので、刺激的で目新しいものにファンは飢えており、その飢えを満たす一つの手段が「CP」なのです。
「男役」といっても本気で男性の役柄を演じるわけではなく、女の子がKPOPボーイズアイドルのコスプレをしているような雰囲気に近く、女性ファン受けがいいです。SNHの「男役」のヘアスタイルは概ねロングのストレートで茶、金、青、緑などのカラーが入っています。
SNHのファンにはLGBT指向を持つ人も少なくありませんが、それよりも腐女子が多く、SNHの「CP」パフォーマンスは腐女子がBLに求める耽美性を女性に転換して表現するようなかんじで、独特のジャンルのエンタメを作り上げていると思います。

もちろん固定の「CP」を持たないメンバーもたくさんおり、普通にアイドルをやっている子も多いですが、握手会がしょっちゅうあるわけではないので、可愛い正統派は差別化するのが難しいです。
「男役」に走りすぎると男性ファンが離れるのでリスクもありますが、すでにSNH48のファンの6割以上が女性なので、女性に好かれる属性を持っているのは有利です。

最新の総選挙の「神7」上位7名。EP「NUMBER ONE」のジャケット。7名のうち6名が身長165以上。KPOPのコスプレのような雰囲気。


SNH48が存続することができたもう一つ重要なポイントは、「口袋48」というメンバーとファンが直接交流できる専用アプリをかなり早い段階で導入していたことです。
「口袋48」は現在KPOP界で広く使われている「Weverse」に近い機能を持つアプリですが、「口袋48」がリリースされたのは2015年で、Weverseよりも遥かに早いです。
SNH48をみる限り、中国のIT、映像、ビジュアル制作力は相当高いレベルにあり、オリジナルセットリストの楽曲や衣装のセンスはかなり良いです。
メンバーの平均年齢が上がり、新人定着率が低いなど様々な問題はあるものの、どんな衣装も着こなすスタイルのよいメンバーがまだ現役で多数活動しています。
そして、SNHの「CP」パフォーマンスは、日本のアイドル界にもKPOPにも例のない独特のエンタメなのではと思います。
中国の現状を踏まえると、専用劇場で毎週公演ができているというだけで奇跡のようなもので、SNH専用劇場はエンタメの持つ魔法のような熱量と儚さが交差する場所です。
公演後、ミニバンで宿舎に帰るメンバーを見送るために待っているファン。ミニバンに乗り込むときに写真を撮れます。


虹口区の再開発が進んでおり、劇場以外の住居、店舗はほとんど封鎖され住民もほとんど退去しました。
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