上海阿姐のgooブログ

FC2ブログ「全民娯楽時代の到来~上海からアジア娯楽日記」の続きのブログです。

中国初の“18禁映画”『怒りの海を越えて(涉过愤怒的海)』~中国映画の中の日本という留学先~

2023年12月28日 | エンタメの日記
曹保平監督の中国映画『怒りの海を越えて(涉过愤怒的海)』が撮影完了から約4年を経てついに劇場公開されました。中国映画には18禁(R-18指定)、15禁(R-15指定)といった鑑賞年齢を制限するレイティングシステムはありませんが、この映画は半分宣伝の意味も込めて、「18歳以下の観衆は慎重に判断して観るように」というコピーを大きく掲げており、中国初の“18禁映画”と言われています。
日本留学中の中国人学生とその家族にまつわる物語で、中国と日本(東京、京都)で撮影が行われています。

映画『涉过愤怒海』(渉過憤怒的海) 直訳:怒りの海を越えて 英語タイトル:Across the Furious Sea
監督:曹保平 原作同名小説作者:老晃  公開日:2023年11月25日中国公開  撮影:2019年~年内に撮影完了
主演:黄渤(ホアン・ボー)、周迅(ジョウ・シュン)、周依然、張宥浩 時間:144分 興行収入:5.48億元(約110億円、2023年12月末現在)


色々な意味で興味深く、非常に面白い映画なので、ぜひ日本でも公開してほしいです。

~あらすじ~
漁師の金隕石(ジン・ユエンシー)は漁に出ている最中、離婚した妻から連絡を受ける。日本留学中の娘(金麗娜/愛称:シャオナー)が失踪して何日も連絡が取れないのだという。金(ジン)は娘の安否を確認するため東京に向かう。そこで娘の級友から同じ中国人留学生の交際相手・李苗苗(リー・ミャオミャオ)に連れ出されたのではと聞き出す。金はミャオミャオの消息を掴み留学先の京都大学に向かう。大学寮(京都大学吉田寮)で本人と接触することに成功するが逃げられてしまう。
時を同じくして、金は娘が17ヶ所刺された姿でホテルで遺体となって発見されたと連絡を受ける。
東京で娘の遺体と対面した金は、自らの手でミャオミャオに復讐することを誓い、再び海を渡る---。

主人公 金隕石(ジン・ユエンシー) 危険を犯すことを厭わない気性の荒い漁師。娘の復讐に燃えて何度も海を渡る。
本役を演じる黄渤(ホアン・ボー)は中国映画界を代表する人気俳優の一人。ヒットメーカーで、コメディから戦争ものまで幅広いジャンルの作品に出演しています。


容疑者の男子学生・ミャオミャオの母親役を演じる周迅(ジョウ・シュン)。周迅は中国を代表するベテラン映画女優。
高級住宅街の豪邸に住んでいるが、金に襲撃される。金に対し「私があなたの立場なら私でもミャオミャオを殺す」と言いながら、息子を逃がすことを企てる。


金の娘・シャオナー。東京の日本語学校に留学している。コンビニ、ホテルのベッドメイク、居酒屋、メイドカフェなど多くのアルバイトを掛け持ちしている。
シャオナーを演じるのは1996年生まれの女優・周依然(チョウ・イーラン)。重慶出身、四川音楽学院古典舞踊専攻。大学卒業後に演技の道に進む。本作の撮影終了後、多くの現代もの青春ドラマに出演している。


容疑者の男子学生・ミャオミャオ。京都大学に留学中。コスプレの趣味を持つ中国富裕層の留学生。
ミャオミャオを演じるのは1995年生まれ、身長179cmの俳優・張宥浩(チャン・ヨウハオ)。中央戯劇学院卒業、四川省出身。


日本留学と中国人学生を結びつける要素の一つとしてコスプレが重要な役割を果たします。
シャオナーとミャオミャオが接近したきっかけの一つが『BLEACH』のコスプレです。
シャオナーは井上織姫のコスプレをしており、ミャオミャオは『BLEACH』の敵キャラ、ウルキオラ・シファーのコスプレをしています。ウルキオラは虚無を体現するキャラクター。『BLEACH』は中国では「死神」というタイトルで知られており、比喩的な意味合いがあります。

■商業映画としてのエンタメ性 
ダークな人間ドラマですが、「一人娘を異国で殺された父親が復讐のために容疑者を追って何度も海を渡る」という復讐アクションとしての側面があります。基本は家族ドラマなのですが、船上で水上警察に発砲されたり、大量の魚が空から降ってきたり、地下鉄ホームから線路に飛び降りて電車に向かって逃走したり、商業映画らしい派手で刺激的なシーンが少なくありません。
また、常識的な善人はほとんど登場しません。


■日本と中国の対比
日本ロケのパートが全体の4分1くらいを占めており、日本語のセリフも多いです。
日本ロケは、神田駅周辺、秋葉原、京都大学吉田寮、関西地方の私鉄駅、商店街、居酒屋、コンビニ、神社仏閣、日本家屋など、ノスタルジックで生活感溢れる空間が意図的に選ばれています。
一方、中国でのシーンはガランとした豪邸、巨大なコンベンションセンター、ひたすら長い橋など現代的でやや無機質な風景がドライに描かれており、その土地と海の広さは絶望感が漂っています。
監督は日本を凄惨な事件の舞台にしておきながら、日本的なものを礼賛していると見ることもできます。
この映画は2019年に撮影が完了しており、作中では2018年の物語として進行します。日本ロケもコロナの前に完了しています。


■中国人留学生にとっての日本
この映画は日本留学中の中国人男女の出会いによって物語が始まります。
コロナの影響を受けてもなお、中国人の海外留学は増加傾向にあり、距離的にも文化的にも近く、安全で費用も手頃な日本は留学先として根強い人気があります。
実際には、日本に留学している中国人の大半は「大卒」または「院卒」以上の学歴を得るために留学しています。
一方で、英米と比べれば費用が手頃で、アルバイトを含め職を得やすい日本には、新たな居場所を求めて留学してくる人もいます。親にとっても子どもにとっても、扱いに困る家族と距離を取って生きるためには、日本は都合のよい場所といえます。
留学生・シャオナーは、たくさんのアルバイトをかけ持ちしながらも、東京の自由と孤独に適応しています。しかし、ミャオミャオと出会ったことによりレールが歪んでいきます。一方、ミャオミャオは富裕層の子息で、安全に遊べる日本で気の向くままに生きている様子が伺えます。


出演者は若手から大物、ベテランまで演技が上手いです。
端役の演技も絶妙で、日本のコンビニの店長、駅員さん、ホテルの受付、日本語学校の先生などが味のある演技を見せています。
阿部力が日本に帰化した中国人という設定で、中国語と日本語バイリンガルの日本側の刑事(役名:島津)を演じています。
中国版ポスターには阿部力の名前は主演陣として列記されておらず、脇役という扱いなのかもしれません。それにしては出番が多く、主役である黄渤と対峙する場面も多いです。日本語が分からない金(ジン)に日本語と中国語で交互に話しかけるという奇妙なシチュエーションもあり、やや不思議な役柄でした。しかし、この映画自体、登場人物が全体的にエキセントリックなので、島津刑事という異質なキャラクターも一つのピースとして上手くはまっていたと思います。

144分、約2時間半の尺がある作品ですが、2時間くらい経ったあたりで少し飽きてきました。
復讐アクションの側面を持つため、追跡シーンに時間を割きすぎと感じる部分があります。
しかし、ラストに近づくに連れて意外な展開になります。冒頭から一貫して「娘の仇討ちに燃える父親」の視点で物語が描かれますが、あるタイミングで視点が変わることにより、いびつな真相が明かされていきます。
最後まで観ると、退屈だと思ったシーンにもすべて意味があったと思える作りになっています。
多くの伏線、隠喩が込められていたことに後から気付くので、「もう一度観たい」と思わせる良作です。★をつけるとしたら、5点満点のうち4.5をつけたいと思います。
コメント    この記事についてブログを書く
  • Twitterでシェアする
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする
« JO1初の上海ライブ(12/8)上... | トップ | 日・中・韓 3つのバージョン... »
最新の画像もっと見る

コメントを投稿

エンタメの日記」カテゴリの最新記事