上海阿姐のgooブログ

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台湾ドラマ『時をかける愛』(原題『想見你』)映画版の公開

2022年12月30日 | エンタメの日記
台湾ドラマ『時をかける愛』(原題『想見你』)の映画版が12月24日に中国で公開されました。ドラマ本編は2019年11月に台湾で放送され、中華圏全域で大ヒットしました。ドラマ終了後に映画版の制作が決まり、2021年11月には映画の撮影は終了していましたが、長い間劇場公開日決まらず、2022年12月24日になってやっと公開されました。

映画『想見你』(Someday or One Day /『時をかける愛』)時間:107分  制作:三鳳有限公司
中国大陸公開日:2022年12月24日 台湾公開日:2022年12月30日  監督:黄天仁 監修:林孝謙
主演:柯佳嬿(アリス・クー)、許光漢(グレッグ・ハン)、施柏宇(パトリック・シー)、金世佳(中国の俳優、映画版のみ出演。「河神2」「猟罪図鑑」などに出ている俳優です)


ドラマ版の主要キャスト3名が映画版でも続投し、ドラマとは異なる時間軸の物語が描かれています。
映画版では2017年と2014年の二つの時空を、柯佳嬿(アリス・クー)が演じる黄雨萱、陳韻如、許光漢(グレッグ・ハン)が演じる李子維、王詮勝の4人がタイムスリップします。
ドラマと同様にタイムスリップの設定が非常に複雑で、どうやってエンディングの時間軸に行き着いたのか頭を悩まされます。
ドラマでは、1998年の台南の田園地帯を舞台にしたレトロでノスタルジックな映像が魅力でしたが、映画版では2014年、2017年の台北と上海が舞台なので、現代の風景とさほど変わりません。ドラマでは懐かしさを感じさせる淡い色彩の映像が特徴的でしたが、映画版はやや商業的な作りになっています。

台湾ドラマ『想見你』(時をかける愛)はもともと1話90分、全13話のドラマです。
それを中国では26話に分けて放送(配信)しました。しかも、中国放送版は一部の内容がカットされています。
主に削除されたのは王詮勝(本人)の高校時代のエピソードで、高校生として過ごした部分が丸ごとカットされているので、男子生徒同士のキスシーンもないし、自殺の経緯も明確にされていません。
他にもいわゆるきわどいシーンが多数カットされており、高校生の性的な行為、自傷・自殺、動物虐待に関するシーンがカットされています。これらが削除された結果、純粋なタイムスリップ恋愛ミステリードラマに仕上がっており、それはそれで本筋は繫がっているのですが、本来このドラマの核心の一つであった思春期における自分との衝突や葛藤が十分に表現されていません。

正直、この時期に映画『想見你』が中国で公開されるとは思いませんでした。
映画版は中国大陸の映画配給会社「WANDA」(万達)が出資しているため、台湾と中国で同時(若しくは中国が先)に公開する必要があったためでしょうか、新作映画の公開に適しているとはいえない時期に公開されました。
12月7日に「ゼロコロナ政策」の廃止が宣言されてから現在にいたるまで、中国ではものすごい勢いでコロナが流行っています。僅か1~2週間の間に、めぼしい都市では人口の70%近くが一気に感染しました。疫学的に信じがたい事象ですが本当なのです。
映画『想見你』は12月24日に中国全土で公開されました。比較的早期に感染した人はこの時期に陰性になっていますが、多くの人がまだ自宅で休養しています。映画館に足を運べた観客もみんな咳をしています。
厳しいゼロコロナ政策が行き詰まった末に、あっという間の大量感染、わけが分からないうちに何となく陰性、そんな状況の中、いくらクリスマスに公開されても感情移入しにくいと思います。

映画『想見你』(時をかける愛)は2023年1月下旬に韓国でも公開される予定です。また、来年Netflixドラマとして韓国版が制作されるそうです。
韓国では意外に台湾ドラマ、台湾映画が評価されており、台湾映画やドラマにあこがれて台湾を旅行する韓国人も少なくないと言われています。
ジェイ・チョウ(周傑倫)が主演・監督した映画「不能説的秘密」(『言えない秘密』)(2007年公開)は韓国で異常に高く評価されており、よく韓国芸能人が好きな映画として名前を挙げており、韓国版も制作されています。
コメント (4)
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中国社会派推理ドラマ『ロング・ナイト 沈黙的真相』日本語吹替版にて放送中

2022年12月20日 | エンタメの日記
2020年に中国で配信されたウェブドラマ『沈黙的真相』が日本語吹替版としてNHK BS4Kで放送されています(12月18日(日)スタート)。中国ドラマが字幕版ではなく日本語吹替版で放送されるケースは珍しいのではと思います。
NHK公式サイト:https://www.nhk.jp/p/longnight/ts/WV35VJR211/

中国ウェブドラマ『沈黙的真相』(沈黙の真相) 中国語タイトル『沉默的真相』 英語タイトル『The Long Night』
日本語タイトル『ロング・ナイト 沈黙的真相』日本語吹替版2022年12月18日からNHK BS4Kで放送
中国放送開始日:2020年9月16日 配信プラットフォーム:iQIYI(愛奇芸)「迷霧劇場」独占配信 全12話   
監督:陳奕甫 脚本:劉国慶 原作:紫金陳(小説『長夜難明』) ドラマ撮影地:重慶
主演:廖凡、白宇、譚卓 特別主演:寧理、黄尭、趙陽、田小潔


『沈黙的真相』は2020年に中国三大配信サイトの一つiQIYI(愛奇芸)で配信されたドラマです。iQIYIは推理ドラマに力を入れており、2020年から「迷霧劇場」という一種のドラマレーベルを立ち上げ、良質な短編推理ドラマを多く生み出しています。「迷霧劇場」の代表作は『バッド・キッズ 隠秘之罪』(隠秘的角落、2020年)です。
2020年から2022年12月現在まで「迷霧劇場」では10作品が配信されています。



2020年の作品:十日遊戯、隐秘的角落(バッドキッズ)、非常目撃、在劫難逃(元EXOのルハンが出ている)、沈黙的真相
2021年の作品:八角亭謎霧、致命願望、誰是凶手(趙麗穎、肖央、董子健主演)
2022年の作品:淘金(チェン・カイコー監督の息子でイケメンの陳飛宇が出演して話題に)、回来的女児

『沈黙的真相』の原作小説は『バッド・キッズ』の原作小説と同じ作者・紫金陳の作品です。
ただし、ドラマ化するにあたり、原作小説にかなり改編が加えられています。

『沈黙的真相』は2010年の「現在」を生きる人物たちと、2003年の時代の物語が並行して展開されます。さらに、事件の発端である2000年のホウ・グイピン(侯貴平)死亡事件の真相を追いかけていくので、三つの時間軸・舞台が出てきます。
最初の方は誰がドラマの主人公なのかよく分からないかもしれません
このドラマの「主演」は敏腕刑事イエン・リアン役を演じるベテラン俳優廖凡なのですが、「主人公」は白宇(バイ・ユー)が演じる検察官ジアン・ヤンだと思います。検察官ジアン・ヤンという人物を軸にして、刑事イエン・リアンを含む様々な人々が、何重にも蓋をされた真実に迫っていく物語です。

~『沈黙的真相』2010年(現代)の時間軸~ 舞台:江潭(ジアンタン)市

「江潭市」はドラマのために設定された架空の都市です。かなり大きな都市で、省都レベルの都市であると思われます。
刑事弁護士である男性ジャン・チャオが地下鉄駅で爆発騒動を起こして警察に捕まる場面から始まります。

イエン・リアン=厳良(严良):難事件の解決に定評のある寡黙な男性刑事。地下鉄爆発騒動事件の捜査のために招集される。


レン・ユエティン=任玥婷(任玥婷):イエン・リアンの下でチームを束ねる女性刑事。


ジャン・シアオチェン=張暁倩(张晓倩):地元の大手新聞「江潭晩報」の若い女性記者。


ジャン・チャオ=張超(张超):地下鉄爆発騒ぎを起こして逮捕される刑事弁護士。元大学教授。
ジアン・ヤン=江陽(江阳):スーツケースの中から死体で発見される元検察官。
リー・ジン=李静(李静):ジャン・チャオの妻。美人。書店を経営している。物語の発端を作った一人。


~『沈黙的真相』2003年の時間軸~ 舞台:平康(ピンカン)県

撮影は重慶で行われていますが、平康(ピンカン)県も架空の町です。ドラマの主人公である若き検察官ジアン・ヤンは、大学を卒業後すぐに平康(ピンカン)県に赴任します。
中国の行政区分では、直轄市を除外すると「省」の下に「市」があり、「市」の下に「県」が置かれています。つまり、中国では都市である「市」に対して、「県」は相対的に小さい田舎の地域となります。近年は「県」が統合されて「市」に編入されることも多いです。

ジアン・ヤン=江陽(江阳):白宇(バイユー)が演じる若き検察官。優秀な若手として嘱望されていた。


ウー・アイクー=呉愛可(吴爱可):ジアン・ヤンの恋人。ジアン・ヤンは彼女を追って平康県にやってくる。父親は検察院の副検察長。
ジャン・チャオ=張超(张超)。ジアン・ヤン、リー・ジン、ホウ・グイピンが卒業した江華大学政治法律学部の教授。彼らの恩師。
チェン・ミンジャン=陳明章(陈明章):平康県の法医学者。平康県はそれほど大きな町ではないこともあり、ほとんどの事件の検死を担っている。


ジュー・ウェイ=朱偉(朱伟):正義感が強く行動力のある刑事。「平康県の良心」として市民からの信望も厚い。


リー・ジン=李静(李静):ジアン・ヤンの法学部時代の同級生として登場する。

~『沈黙的真相』2000年の時間軸~ 舞台:苗高(ミャオガオ)郷

法学部の学生であるホウ・グイピン(侯貴平)は支援教師に志願し、苗高郷(ミャオガオシャン)という田舎の山村に赴きます。これも架空の地名です。「郷」とされる地域は、田舎の農村または山岳地帯が多いです。貧しさのため進学を諦め工場に就職する生徒が多い中、ホウ・グイピンは学校に住み込んで献身的に勉強を教えます。

ホウ・グイピン=侯貴平(侯贵平):ジアン・ヤン、リー・ジンの大学の同級生。自身は貧村の出身。支援教師として僻地「苗高郷」に赴き事件に巻き込まれる。


リー・ジェングオ=李建国(李建国):平康県の警官。
ユエ・ジュン=岳軍(岳军):平康県、苗高郷を縄張りにする地元のチンピラ。

2000年、2003年、2010年の時間軸が交互に描かれるので、分かりにくいところがあるかもしれません。
時間的には僅か10年の期間なのですが、中国の地方都市が飛躍的に発展した時期であるため’、それぞれの時代を比べると別世界のようにみえます。
また、都会である「江潭(ジアンタン)市」、地方の町「平康(ピンカン)県」、農村地帯「苗高(ミャオガオ)郷」という三つの舞台を描くことで、物質的な条件の優劣だけではなく、精神面やモラルの地域格差も浮き彫りにされています。
白宇(バイユー)が演じる若き検察官は、最初はあまりインパクトのある人物ではありません。後半になるにつれて、バラバラに見えた登場人物たちを一つに繋ぐ力となり、ドラマが進むにつれて彼が「主人公」であることが分かってきます。
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安全化された”危険遊戯” 中国二つのミュージカル「スリル・ミー」

2022年12月06日 | エンタメの日記
オフブロードウェイから始まり、韓国、日本でもロングラン公演を続けてきた人気ミュージカル「スリル・ミー」。現在上海では同じ敷地内にある二つの劇場で中国語版「スリル・ミー」が上演されています。

中国“大劇場版”「スリル・ミー」。上海共舞台(2022年11月17日~12月11日)「彼」王培傑、趙偉鋼、鍾嘉誠。「私」冒海飛、鍾舜傲、張澤。


「スリル・ミー」は1924年にアメリカで実際に起きた事件をモチーフにした作品で、登場人物は「私」(ネイサン)と「彼」(リチャード)の二人のみ、それにピアノ生演奏という独特の形式で演じられる緊迫感のある舞台です。

ここ数年、上海ではミュージカルが非常に流行っています。正規の劇場は数に限りがあるので、ビルや商業施設の中のスペースを改造し、客席数150席前後の舞台と客席が一体になった「常駐劇場」を作り、一つの演目を長期的に上演しています。この種の劇場は人民広場にある「亜洲ビル」と「大世界」という商業施設に集中しています。

「大世界」は上海租界時代からある歴史のある建物です。2003年に閉鎖されるまでは室内遊園地でした。歴史的建造物として保存されることが決まってから大修繕を経て2017年に営業再開したものの、「大世界」という巨大な施設をどう活用すればよいものか迷走していました。現在「大世界」には「イマーシブ式ミュージカル」の常設劇場が7つ設置されており、毎日一定の集客ができています。近年の上海ミュージカルブームが「大世界」を救ったといえます。
1階はオープン形式のステージと飲食スペースになっており、歌、漫才、手品、雑技などのステージパフォーマンスがありますが、チケット制ではないので集客力のある演目を常に揃えるのは難しく、割といつも閑散としています。



「大世界」4階にある「イマーシブ式スリル・ミー」の劇場。4階に劇場が集中しています。




この「イマーシブ式スリル・ミー」の常設劇場は座席数約140席、2021年9月から現在まで常時公演を続けています。ロックダウンの時期を除くと、1年中、ほぼ毎日「スリル・ミー」を上演しています。巨大な柱が二つあるため「全席死角」と言われています。(参考過去記事


「イマーシブ式」とは別に、普通の劇場で上演する本来の「スリル・ミー」もあり、2022年11月17日から12月11日の日程で上演されています。会場は「大世界」の一角にある「共舞台」です。
共舞台 1927年開業の歴史のある劇場。何度も改築されていますがクラシックな雰囲気を留めています。1階席と2階席合わせて800席くらいでサイズ的には大きな映画館というかんじです。






中国版「スリル・ミー」の初演は2016年です。その後、2020年~2021年に再演され、2021年9月からは「イマーシブ式スリル・ミー」も始まりました。

私が最初に「スリル・ミー」を観たのは「韓国版初演キャスト」と言われるチェ・ジェウン×キム・ムヨルペアの公演で、韓国語・日本語字幕付で2012年に天王洲銀河劇場で観ました。
この公演にすごく衝撃を受け、「スリル・ミー」の原型として刷り込まれています。
韓国キャストによる当初の公演には、俳優同士がむやみに接触するような演出はありませんでした。
登場人物である「私」と「彼」は同性愛の関係性よりも、支配欲やエゴイズムにより繋がっている同類のような存在で、反社会性に傾倒する人物の構成要素の一つとして同性愛があり、それほど強調されていませんでした。

その後、2016年に中国初上陸「スリル・ミー」を観たのですが、そのときの中国版「スリル・ミー」は「耽美ミュージカル」になっていました。
どういうわけだか観客が「耽美的な演出」に対してものすごく期待を寄せていて、その期待が芝居の最中でも「キャー」という歓声になって溢れ出していました。びっくりしました。ショックでした。
それから4年の歳月を経て、2020年に「スリル・ミー」が再演されたときには、中国ミュージカルの舞台演出力も向上し、観客のマナーも大幅に良くなっていたのではと思います。
中国版「スリル・ミー」は2016年の初演から現在まで、演出が何度も変わっています。
直近にも大きな変更があり、イマーシブ版、大劇場版ともに台詞、歌詞、演出にかなり大きな変更が加えられました。

中国は言論・表現に対する規制が厳しいです。「社会道徳的にこうあるべき」とされる姿に反する人間を描くことは、推奨されないというか、実質的に禁止することが可能です。今回変更を余儀なくされたのは、「スリル・ミー」の中で描かれる反社会的な要素です。
一つは、同性愛的表現で、俳優同士の体の接触は最小限に減らされました。特に性的な関係性を連想させる動作はきれいにカットされました。
もう一つは犯罪行為にまつわる表現です。耽美要素がカットされたことよりも、犯罪行為に関する改変の方が作品全体に与える影響が遥かに大きいです。
具体的にいうと、事件の中心である「子どもを誘拐して殺す」という表現に規制がかかりました。犯罪行為の対象が「子ども」であることがほとんど分からないようにぼかされ、犯行シーンの手順を表す演出も変わり、歌詞は不自然に変更されました。同時に、「彼」が弟に対して殺意を抱いているという表現もぼかされたため、「彼」は一体何をやりたいのかよく分からなくなってしまい、「彼」という役の難易度がすごく上がってしまったと思います。さらに、「私」も「彼」も犯罪行為に対してそれなりに反省を示しており、「二人はサイコパスではなく、若かったせいで道を踏み外しただけ」という、道徳的に許容されうる解釈に書き換えられていました。

この解釈変更にはショックを受けました。「スリル・ミー」の根本が崩れ、作品として辻褄が合わなくなります。
この演出変更が入った後、11月下旬に「イマーシブ式」の方の「スリル・ミー」を観ました。

「イマーシブ式」は休演日はあるものの、基本的に毎日公演があります。週末は1日2公演です。そのため、舞台経験が比較的浅い俳優もキャスティングされています。「イマーシブ式」の場合、舞台装置の制限があるので、歌詞を変えてしまうと、演技で犯行のいきさつを表現することは至難の業です。私が11月下旬に観たときのキャストは経験不足のためか、演出改変に対応しきれておらず、はっきりいって破綻していました。 
すごい美形で歌唱力も悪くないのですが、一つの作品として辻褄が合っていないのです。俳優の責任ではありませんが・・・・。

中国版「スリル・ミー」の中国語タイトルは「危険遊戯」ですが、今回の台詞・演出改変で反社会的な要素がことごとく削除されたので、「危険遊戯」ではなく「安全遊戯」になってしまったと言われています。
11月下旬に「イマーシブ版」を観たときは「これはもうダメかも」と思いました。中国版「スリル・ミー」をこれ以上続けることは無理だと思いました。
もうこれで最後かもしれない、と思ったので、その数日後に大劇場版「スリル・ミー」を観に行きました。

2022年の大劇場版「スリル・ミー」は、「彼」に3名、「私」に3名の俳優がキャスティングされており、基本的には3つの固定ペアで24公演を回します。その中には、相手役を入替える「限定ペア公演」が5公演(4パータン)あります。
「私」と「彼」を演じる6名の俳優は、いずれも人気と経験とルックスを兼ね揃えた実力のあるキャストです。

「彼」趙偉鋼×「私」鍾嘉誠という限定ペア公演を観ました。鍾嘉誠は「彼」より「私」の方が合っていると思いました。


この限定ペアの中国大劇場版「スリル・ミー」はすごくよかったです。
脚本・演出は「イマーシブ版」とほぼ同じく、反社会性をカットする改変が加えられています。ですが、「大劇場版」は役者の経験値が高く、演技力・歌唱力でカバーできる部分が大きいこと、また、ライティングを上手く使うことでぼかされた演出を上手く繋ぎ合わせていました。
表現規制によりここまで大きなダメージを受けながら、なんとか作品をまとめてきた俳優と演出陣はすごいとしか言いようがありません。初演から「私」を演じている冒海飛は監督も担っています。演出陣の執念でここまでまとめたのではと思います。

共舞台の1階には2021年版の中国版「スリル・ミー」のサイン入りポスターが飾られています。
劉令飛、冒海飛、王培傑、鍾舜傲、趙偉鋼、張澤、叶麒聖、鍾嘉誠。


2021年は大劇場、イマーシブともに中国版「スリル・ミー」が一番面白かった時期なのではと思います。この頃にもっと観ておけばよかったです。
「安全遊戯」になってしまった中国版「スリル・ミー」が今後も続くのかは分かりません。私は2016年の公演にちょっと失望したので、2020年の再演を観ませんでした。そのことを後悔しています。エンタメは、一度失望したくらいで観るのをやめてはいけないのだと反省しています。
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外資との合作で復活する台湾ドラマ~Netflix台湾ドラマ『ふたりの私』

2022年12月01日 | エンタメの日記
台湾ドラマといえば元祖F4『流星花園』やジョセフ・チェンの『イタズラなキス』などいわゆるアイドルドラマ(台湾偶像劇)の印象が強いですが、近年は多くの良質な社会派推理ドラマを作り出しています。2000年代の台湾は"華流”中華芸能の中心的な存在でしたが、やがて中国大陸芸能が成長するに伴い台湾の人材は流出し、資金と人材はどんどん「中国ドラマ」に集中し、「台湾ドラマ」の存在感は薄れていきました。そんな状況が続いていた中、近年台湾ドラマ界が米国資本と合作することによって、流れが変わってきています。台湾ドラマに対する認識を変えたドラマの一つが、2019年3月に放送された『悪との距離』です。

台湾ドラマ『悪との距離』(原題:我們與惡的距離) 2019年3月初放送 全10話 監督:林君陽 脚本:呂蒔媛
出演:賈靜雯(アリッサ・チア)、吳慷仁(ウー・カンジェン)、温昇豪(ジェームス・ウー)、周采詩、曽沛慈


無差別大量殺人犯の加害者家族と被害者家族を双方の視点から描く社会派ヒューマンドラマ。中華圏で大ヒットし、台湾ドラマが再評価されるきっかけを作りました。
殺人犯の息子・兄を持つ家族の苦しみと葛藤、被害者家族の後悔と喪失感、SNSによる二次被害などの社会問題をリアルに描いています。このドラマの核心は「なぜ無差別大量殺人を犯したのか」という犯罪者の心理を弁護士を通じて追求することにあります。緊迫した前半に比べて、後半はややホームドラマの比重が高まります。

『悪との距離』は米HBOが出資した「HBO Asiaオリジナルドラマ」ですが、台湾のテレビ局「公共電視」(PTS)が監修し、台湾公共電視で初放送されています。その後、Netflixなど他社プラットフォームや世界各国のチャンネルで放送・配信されています。

HBOの出資により初めて制作された台湾ドラマは2017年の『通霊少女』(The Teenage Psychic)でした。『通霊少女』は短い話数でテンポよく展開するハイクオリティのドラマに仕上がり、その成功を経て、HBOは更に多くの資金を『悪との距離』に投入したと言われています。

『時をかける愛』(原題:『想見你』)2019年11月17日放送開始 全13話
主演:柯佳嬿(アリス・クー)、許光漢(グレッグ・ハン)、施柏宇(パトリック・シー)


カセットテープから流れる流行曲「Last Dance」に導かれ、主人公二人が1998年と2019年をタイムスリップするドラマで、米FOXとの合作により制作。
ぱっと見は、タイムスリップ+魂入れ替りもののファンタジー恋愛ドラマに見えるのですが、タイムスリップの設定がものすごく複雑で、高校時代に起きた事件の真相を解き明かすまでの過程が非常によくできており、中華圏全域で大ヒットしました。許光漢は本作により一気にメジャー俳優になりました。
ドラマのオリジナルキャストでの映画版も制作されており、現在公開待ちの状態です。映画版は中国大陸の映画会社「万達グループ」(ワンダ)の出資により制作されているため「中国映画」として公開される予定です。

Netflixも同時期に台湾ドラマ制作への出資を開始しています。
Netflix初のオリジナル台湾ドラマ『罪夢者』を2019年10月に配信スタートさせてから、『極道千金』(恋するマフィア娘)、『彼岸之嫁』(彼岸の花嫁)などを公開しています。しかし、これら初期の作品はいまひとつ評判が振るいませんでした。その理由は、Netflix側がドラマ制作面に参与したものの、文化的なギャップを埋められず、視聴者から見ると違和感のある作品になってしまったためと言われています。その反省を経て、その後のNetflix台湾ドラマでは、クリエイティブ面での権限を大幅に台湾制作チームに委譲するように方向転換したそうです。そこで制作されたのが『次の被害者』です。

『次の被害者』(原題『誰是被害者』 英語タイトル:The Victims' Game)
Netflixオリジナル台湾ドラマ。2020年4月30日配信開始、主演:張孝全、許瑋寧、王識賢、林心如 全8話


ホテルの一室で発見された身元不明の焼死体を調べる鑑識官は、捜査の過程で事件に行方不明の娘が関わっていることに気付く。焼死体の真相を追う中で、台湾社会の底辺と闇が緻密に描き出されるドラマで台湾で高く評価されました。よくできていますがかなり暗いドラマです。

さらに、2021年には『華燈初上 -夜を生きる女たち』がヒットしました。
Netflixオリジナル台湾ドラマ『華燈初上 -夜を生きる女たち』2021年11月26日配信スタート。現在第3シーズンまで制作され、主演の林心如(ルビー・リン)は制作にも携わっている。


1980年代の台北で活況を呈した「日式クラブ」街で働く女性たちを主人公とするドラマです。推理ドラマの要素もあります。
1980年代、日系企業の台湾進出など台湾と日本との往来が急増し、台北には日本人ビジネスマンを接待する「日式クラブ」が大量にありました。「日式クラブ」街は時代の流れとともに廃れていったものの、まだ台湾の人々の記憶の中にはっきりと残っているノスタルジックな存在です。

そして、2022年10月からNetflixで配信開始したのが『ふたりの私』です。
これまで観たことのあるNetflixオリジナル台湾ドラマの中で一番面白いと思いました。
台湾ドラマ『ふたりの私』原題『她和她的她』(彼女と彼女の彼女) 全10話 2022年10月28日配信開始 
主演:許瑋寧(ティファニー・スー)、李程彬、賈靜雯、吳慷仁


敏腕女性ヘッドハンターとして知られるヒロインは人々から崇められているが、誰からも距離を置き、恋人とも正面から向き合えずにいる。ライバルから汚い手段で陥れられたヒロインは交通事故を起こしてしまう。目覚めたときは、病院でも台北の高級マンションでもなく、田舎にある実家にいた。そしてそこには、もういないはずの家族がいた・・・。

パラレルワールドで失われた記憶をたどり、性的暴行の真相とそのトラウマを解いていくドラマです。パラレルワールド、記憶喪失、人物のすり替えといった非現実な展開が、実は心理面とすべてリンクしているという、見事な展開のドラマです。
ヒロインの恋人を演じる李程彬が一人二役で、まったくタイプの異なる男性像を演じています。現実世界ではスマートなビジネスマン、パラレルワールドでは地元に根付いた品位に欠ける刑事の役を演じています。李程彬は1987年生まれ、鍛えられた184cmの長身に小顔のイケメン俳優です。出てきたばかりの頃はエディ・ポンに似ていると言われていました。

『ふたりの私』は本当に洗練されているドラマで無駄が一切なく、台湾土着の要素をかなり排除しています。欧米人が見たら、舞台が台湾なのか韓国なのか日本なのか分からないかもしれません。
Netflixオリジナル台湾ドラマとして、2023年には宮部みゆき原作の『模倣犯』がドラマ化される予定です。全体的に推理・犯罪ドラマに偏っており、今後もこのジャンルに力を入れていくように思われます。Netflixとしてはいつか台湾との合作で『イカゲーム』のような世界的ヒット作を生み出すことを目指しているのかもしれません。ドラマとしてのクオリティは格段に上がったのですが、どの作品も同じような顔ぶれの俳優が主要キャストを担っている印象があります。
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