最近中国で公開される映画は「初回上映」がブームになっています。
映画は木曜日か金曜日に封切られることが多いですが、日付が変わる夜0時0分に各地の映画館で「初回上映」が行われ、多くの観客を集めています。以前は、先行上映はあっても夜の0時0分に全国規模で一斉公開する習慣はありませんでした。ここ最近は、大作映画は初日の0時0分の上映(中国語では“零点首映”)が当たり前になってきています。
7月17日(金)に人気小説家郭敬明の映画「小時代3」(Tiny Times3)が公開されました。(小時代1と2については、過去ログをご参照ください)
7月17日0時0分の「小時代3」初回上映は、750万元(約1億2千万円)の興行収入を上げたと報道されています。これは「トランスフォーマー4」に次ぎ歴代2位の記録です。
中国でも、若い人たちはSNSで自慢できるようなこと、SNS上の仲間から注目されやすいことを好んでやる傾向があるので、初回上映はかっこうのネタです。また、平日の深夜0時に、学生や社会人が映画館に大勢詰め掛けるというのは、若年層の自家用車の保有率が上がっていることも影響していると思います。
■小時代3:刺金時代(2014年7月17日公開)
■左:マクドナルドMc Cafeと「小時代3」のコラボ。 右:パソコンメーカーLenovoとのコラボCM。
「小時代3」は、前作以上に埋め込み広告のオンパレードでした。そして、これでもかというほど、衣装を交換します。作品で使用された衣装の総数は7000着を超えるそうです。冒頭で主人公たち女性4人が出張と遊びでローマに行くのですが、これもFENDIなどのブランドとローマ旅行を宣伝するためのような数分間です。
基本的に舞台は上海で、実在のスポットが多く登場します。登場人物はほぼ全員美女・美男設定ですが、パート3では新たにイケメンが2人投入されました。
韓国ドラマ「美男<イケメン>バンド」でドラムを叩いていたイ・ヒョンジェが出演しています。
主人公の中米ハーフの従兄弟・Neilを演じるイ・ヒョンジェ。微妙な中国語が役柄に非常にマッチしていました。ローマのコレクションでモデルとして登場するシーンは強烈なインパクトがあります。
主人公の異母兄弟「顧準」を演じる台湾のモデル兼俳優の任佑明(任言恺と記名されることもあり)。本作では演技らしい演技はありませんが186cmの長身が目を引きます。
私は初日7月17日の19時30分の回を観にいったのですが、カルト映画ファンの集いのような独特の雰囲気がありました。
映画「小時代」のアンチは多いです。良識のある大人は、この映画のことを「全編広告の軽薄なご都合主義映画」と批判します。ある映画情報サイトでは「小時代」の評価は10点満点中4.2点という異様な低さを記録しています。
しかし、パート3ともなると、そんな批判や非難を知りつつなおも劇場に足を運ぶ、ある意味強い意志を持った観客ばかりです。パート3も、1分に1回はツッコミどころがあり、劇場でツッコミながら賑やかに映画鑑賞するのはすごく楽しかったです。話はツッコミどころ満載ですが、映像の物質的な美しさと豪華さは圧倒的で、脚本のセンスはいいです。2時間以上の尺がありますが、展開が速く全然眠くなりません。
そして、エンディングにはEXOを脱退したクリスが挿入歌で登場するというサプライズもあり、さすが「小時代」、期待を裏切りません!!
映画「小時代」は次回作パート4で完結と発表されています。(もともとパート3で完結の予定でしたが)
パート4は来年の旧正月公開予定で、EXOを脱退したクリスも出演するのではと噂されています。
しかし「小時代」のイケメン枠は既にいっぱいいっぱいなので(レギュラーキャラの中にイケメン設定がすでに7人いる)、この中にどうやってクリスを突っ込んでくるのか楽しみです・・・。
「小時代3」の興行成績は、初日に1.1億元(約18億円)、公開3日で約3億元(約50億円)を超えたと発表されました。
初日に映画館に足を運ぶのはお祭りであって、映画から人生の糧になる何かを得たいなどと考えている人はほぼいません。純粋な娯楽であり、一種の消費なのです。しかし、公開から僅か3日を過ぎた頃から早くも客足が下降しはじめたと言われています。公開から1週間が経つと、もう新鮮味、話題性が薄れています。いまは何事も消費サイクルが早いですが、「小時代3」は消費サイクルの早さという面でも新記録かもしれません。客が数人しかいない映画館で「小時代」を見ると、スクリーンの向こうの華やかな世界は白々しく映り、薄ら寒い気持ちになります。それでも、最終的な興行収入は5億元(約80億円)を達成すると予想されています。
7月24日からは、郭敬明と並ぶ人気小説家である韓寒(ハン・ハン)が初監督を務める「後会無期」(中国語表記:后会无期/英語名:Continent)が公開されました。
「後会無期」というタイトルは、直訳すると「次はもうない」という意味です。中国語の「後会有期」(また次がある)という慣用句の中の「有」を「無」に変えたものです。「後会有期」は、卒業、転職、転居など別離の場で「またいつか会えるでしょう。」という意味で気軽に使われる言葉です。しかし、別れるときは「また次がある」と思っていても、もう「次」などはなかった・・・という現実をこの作品はテーマにしています。
出演:馮紹峰(フォン・シャオフォン。大陸の人気俳優。2011年中国ドラマ「宮」でヤン・ミーとともに一躍スターに。)、陳柏霖(チェン・ボーリン。台湾俳優)、鍾漢良(香港俳優。ここ10年ほど主に大陸のドラマ・映画界で活躍している)、王珞丹(中国の人気女優)、袁泉(中国のベテラン女優)、陳喬恩(台湾ドラマ女優。「ハートに命中100%」でブレイク)
【あらすじ】
中国の最も東にある小さな島「東極島」に生まれ育った浩漢(馮紹峰)は、職を転々としながら暮らしている。島の若い者としては廃れた故郷を復興させたいと願っているが、実際には何もできない。ある日、島に派遣されていた教師(チェン・ボーリン)が、西の果ての学校に転勤することになり、浩漢は車を走らせてもう一人の仲間と3人で教師を送っていくことにする。その旅の途中で幼馴染の女性(陳喬恩)、長年の文通相手(袁泉)、コールガール(王珞丹)、バイカー(鍾漢良)などと出会うというロードムービー。
ストーリーや展開にそれほど斬新なところはないのですが、寂れた島、砂漠で見上げる衛星の打ち上げなど映像が素晴らしいです。役者の演技、音楽などもよく、いい映画でした。特に主役の馮紹峰がすごく上手いです。蛙のシーンは最近の中国映画の中では名シーンとして語り継がれるのではと思います。映画情報サイトでも10点満点中8.3点と高い評価を得ており、興行成績も伸びています。
「後会無期」は「小時代」と正反対で、地味でさびしい風景ばかり出てきます。
廃墟のような小島、寂れたモーテル、無人のガソリンスタンド、砂漠・・・・。
ですが、見た目は地味だけれど、制作側は本当はものすごくお金を持っているのを感じます。役者は知名度と実力を兼ね揃えた売れっ子ばかりで、映像処理などのバックスタッフは韓国の制作チームを起用しています。音楽は小林武史です。ただし、「岩井俊二の映画音楽も手がけた小林武史を起用」と宣伝されていた割には、主題歌、エンディング、挿入歌、いずれも小林武史の曲ではなく、あまり目立っていません。最後のピアノ曲はすごくいい曲でした。主題歌は韓寒が作詞・作曲でG.E.M紫棋という今話題の中国女性歌手が歌っており、エンディングは朴樹という大陸の男性歌手の曲です。
本当はすごくお金があるのに、敢えて寂れた雰囲気の映画を作っています。朴訥とした映像の後ろ側で、人民元が燃えているのが透けて見えるようです。
「後会無期」は中国で制作された映画ですが、台湾映画のような雰囲気です。もし日本で公開されることがあるとすれば、「小時代」よりは「後会無期」の方が観客の嗜好に合うかもしれません。
「後会無期」は「小時代」よりはずっとリアルな描写の作品ですが、これがいまの中国を反映しているかというと、そういうわけでもないです。ただ、作者である韓寒(ハン・ハン)の世界観や作風がよく表れており、中国観衆から高い評価を得ていることからみると、「後会無期」のような作風の作品がいま求められているといえます。
「小時代3」は非現実的な夢物語ですが、とどまるところを知らない物質面での追求と商業主義は、むしろ中国の現実をより反映しているように思います。
映画は木曜日か金曜日に封切られることが多いですが、日付が変わる夜0時0分に各地の映画館で「初回上映」が行われ、多くの観客を集めています。以前は、先行上映はあっても夜の0時0分に全国規模で一斉公開する習慣はありませんでした。ここ最近は、大作映画は初日の0時0分の上映(中国語では“零点首映”)が当たり前になってきています。
7月17日(金)に人気小説家郭敬明の映画「小時代3」(Tiny Times3)が公開されました。(小時代1と2については、過去ログをご参照ください)
7月17日0時0分の「小時代3」初回上映は、750万元(約1億2千万円)の興行収入を上げたと報道されています。これは「トランスフォーマー4」に次ぎ歴代2位の記録です。
中国でも、若い人たちはSNSで自慢できるようなこと、SNS上の仲間から注目されやすいことを好んでやる傾向があるので、初回上映はかっこうのネタです。また、平日の深夜0時に、学生や社会人が映画館に大勢詰め掛けるというのは、若年層の自家用車の保有率が上がっていることも影響していると思います。
■小時代3:刺金時代(2014年7月17日公開)
■左:マクドナルドMc Cafeと「小時代3」のコラボ。 右:パソコンメーカーLenovoとのコラボCM。
「小時代3」は、前作以上に埋め込み広告のオンパレードでした。そして、これでもかというほど、衣装を交換します。作品で使用された衣装の総数は7000着を超えるそうです。冒頭で主人公たち女性4人が出張と遊びでローマに行くのですが、これもFENDIなどのブランドとローマ旅行を宣伝するためのような数分間です。
基本的に舞台は上海で、実在のスポットが多く登場します。登場人物はほぼ全員美女・美男設定ですが、パート3では新たにイケメンが2人投入されました。
韓国ドラマ「美男<イケメン>バンド」でドラムを叩いていたイ・ヒョンジェが出演しています。
主人公の中米ハーフの従兄弟・Neilを演じるイ・ヒョンジェ。微妙な中国語が役柄に非常にマッチしていました。ローマのコレクションでモデルとして登場するシーンは強烈なインパクトがあります。
主人公の異母兄弟「顧準」を演じる台湾のモデル兼俳優の任佑明(任言恺と記名されることもあり)。本作では演技らしい演技はありませんが186cmの長身が目を引きます。
私は初日7月17日の19時30分の回を観にいったのですが、カルト映画ファンの集いのような独特の雰囲気がありました。
映画「小時代」のアンチは多いです。良識のある大人は、この映画のことを「全編広告の軽薄なご都合主義映画」と批判します。ある映画情報サイトでは「小時代」の評価は10点満点中4.2点という異様な低さを記録しています。
しかし、パート3ともなると、そんな批判や非難を知りつつなおも劇場に足を運ぶ、ある意味強い意志を持った観客ばかりです。パート3も、1分に1回はツッコミどころがあり、劇場でツッコミながら賑やかに映画鑑賞するのはすごく楽しかったです。話はツッコミどころ満載ですが、映像の物質的な美しさと豪華さは圧倒的で、脚本のセンスはいいです。2時間以上の尺がありますが、展開が速く全然眠くなりません。
そして、エンディングにはEXOを脱退したクリスが挿入歌で登場するというサプライズもあり、さすが「小時代」、期待を裏切りません!!
映画「小時代」は次回作パート4で完結と発表されています。(もともとパート3で完結の予定でしたが)
パート4は来年の旧正月公開予定で、EXOを脱退したクリスも出演するのではと噂されています。
しかし「小時代」のイケメン枠は既にいっぱいいっぱいなので(レギュラーキャラの中にイケメン設定がすでに7人いる)、この中にどうやってクリスを突っ込んでくるのか楽しみです・・・。
「小時代3」の興行成績は、初日に1.1億元(約18億円)、公開3日で約3億元(約50億円)を超えたと発表されました。
初日に映画館に足を運ぶのはお祭りであって、映画から人生の糧になる何かを得たいなどと考えている人はほぼいません。純粋な娯楽であり、一種の消費なのです。しかし、公開から僅か3日を過ぎた頃から早くも客足が下降しはじめたと言われています。公開から1週間が経つと、もう新鮮味、話題性が薄れています。いまは何事も消費サイクルが早いですが、「小時代3」は消費サイクルの早さという面でも新記録かもしれません。客が数人しかいない映画館で「小時代」を見ると、スクリーンの向こうの華やかな世界は白々しく映り、薄ら寒い気持ちになります。それでも、最終的な興行収入は5億元(約80億円)を達成すると予想されています。
7月24日からは、郭敬明と並ぶ人気小説家である韓寒(ハン・ハン)が初監督を務める「後会無期」(中国語表記:后会无期/英語名:Continent)が公開されました。
「後会無期」というタイトルは、直訳すると「次はもうない」という意味です。中国語の「後会有期」(また次がある)という慣用句の中の「有」を「無」に変えたものです。「後会有期」は、卒業、転職、転居など別離の場で「またいつか会えるでしょう。」という意味で気軽に使われる言葉です。しかし、別れるときは「また次がある」と思っていても、もう「次」などはなかった・・・という現実をこの作品はテーマにしています。
出演:馮紹峰(フォン・シャオフォン。大陸の人気俳優。2011年中国ドラマ「宮」でヤン・ミーとともに一躍スターに。)、陳柏霖(チェン・ボーリン。台湾俳優)、鍾漢良(香港俳優。ここ10年ほど主に大陸のドラマ・映画界で活躍している)、王珞丹(中国の人気女優)、袁泉(中国のベテラン女優)、陳喬恩(台湾ドラマ女優。「ハートに命中100%」でブレイク)
【あらすじ】
中国の最も東にある小さな島「東極島」に生まれ育った浩漢(馮紹峰)は、職を転々としながら暮らしている。島の若い者としては廃れた故郷を復興させたいと願っているが、実際には何もできない。ある日、島に派遣されていた教師(チェン・ボーリン)が、西の果ての学校に転勤することになり、浩漢は車を走らせてもう一人の仲間と3人で教師を送っていくことにする。その旅の途中で幼馴染の女性(陳喬恩)、長年の文通相手(袁泉)、コールガール(王珞丹)、バイカー(鍾漢良)などと出会うというロードムービー。
ストーリーや展開にそれほど斬新なところはないのですが、寂れた島、砂漠で見上げる衛星の打ち上げなど映像が素晴らしいです。役者の演技、音楽などもよく、いい映画でした。特に主役の馮紹峰がすごく上手いです。蛙のシーンは最近の中国映画の中では名シーンとして語り継がれるのではと思います。映画情報サイトでも10点満点中8.3点と高い評価を得ており、興行成績も伸びています。
「後会無期」は「小時代」と正反対で、地味でさびしい風景ばかり出てきます。
廃墟のような小島、寂れたモーテル、無人のガソリンスタンド、砂漠・・・・。
ですが、見た目は地味だけれど、制作側は本当はものすごくお金を持っているのを感じます。役者は知名度と実力を兼ね揃えた売れっ子ばかりで、映像処理などのバックスタッフは韓国の制作チームを起用しています。音楽は小林武史です。ただし、「岩井俊二の映画音楽も手がけた小林武史を起用」と宣伝されていた割には、主題歌、エンディング、挿入歌、いずれも小林武史の曲ではなく、あまり目立っていません。最後のピアノ曲はすごくいい曲でした。主題歌は韓寒が作詞・作曲でG.E.M紫棋という今話題の中国女性歌手が歌っており、エンディングは朴樹という大陸の男性歌手の曲です。
本当はすごくお金があるのに、敢えて寂れた雰囲気の映画を作っています。朴訥とした映像の後ろ側で、人民元が燃えているのが透けて見えるようです。
「後会無期」は中国で制作された映画ですが、台湾映画のような雰囲気です。もし日本で公開されることがあるとすれば、「小時代」よりは「後会無期」の方が観客の嗜好に合うかもしれません。
「後会無期」は「小時代」よりはずっとリアルな描写の作品ですが、これがいまの中国を反映しているかというと、そういうわけでもないです。ただ、作者である韓寒(ハン・ハン)の世界観や作風がよく表れており、中国観衆から高い評価を得ていることからみると、「後会無期」のような作風の作品がいま求められているといえます。
「小時代3」は非現実的な夢物語ですが、とどまるところを知らない物質面での追求と商業主義は、むしろ中国の現実をより反映しているように思います。