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コロナ感染対策下の2020年第23回上海国際映画祭が7月25日に開幕〜貢献する“日本映画週間”

2020年08月01日 | エンタメの日記
7月25日から唐突に「第23回上海国際映画祭」が始まりました。上海国際映画祭は毎年6月中旬に開催されますが、今年はコロナウィルスの影響で6月の段階では映画館自体が中国全土で一律休業中だったため、上海映画祭も当然のように延期となりました。しかも、「延期」と告知するのみで、具体的な代替スケジュールが示されなかったので、今年の上海映画祭はないものと思われていました。
ところが、7月16日になって突然、「7月25日から上海映画祭を開催します」と公式発表があり、その2日後にはチケットが一斉発売されました。

中国では1月24日頃、コロナウィルス流行のため全国の映画館が閉鎖され、休業期間は6ヶ月近く続きました。

〜2020年の中国映画館の営業状況〜
1月24日頃 コロナウィルス流行のため全国の映画館を閉鎖。旧正月映画は公開延期に。
3月末頃 一部の地域で映画館再開の動きがあったが、フライング扱いとなり再び閉鎖。
7月16日 国家電影局が感染の広がっていない「低リスク地域」は7月20日から映画館を再開してよいと宣言。
7月16日 上海国際映画祭を7月25日から開幕することを告知。
7月18日 上海国際映画祭チケット発売。
7月20日 「低リスク地域」の映画館の営業を再開。
7月25日 上海国際映画祭開幕(8月2日まで開催)。

このように、唐突に映画館が再開し、唐突に上海映画祭が始まりました。


なお、ベネツィア映画祭も2020年9月2日から予定通り開催すると宣言しており、公式ポスターが公開されました。
東京国際映画祭も10月31日~11月9日に開催する方向で進んでいます。公式サイト:https://2020.tiff-jp.net/ja/
さらに、東京国際映画祭併設のコンテンツ商談展示会「TIFFCOM」も開催される予定です。海外からバイヤーは参加できるのでしょうか・・・。

7月20日に中国全土の映画館が再開しましたが、客入りは芳しくありません。最大の理由は、話題の新作が公開されないためです。
中国も北米と同じく、莫大な制作費を投じて派手な大作を制作する傾向が強く、映画館がフル稼働した状態でヒットしなければコストを回収できないことが予め計算できます。
7月現在も、コロナ感染対策とされる「総座席の30%までしか観客を入場させてはならない」という「30%ルール」の遵守が義務付けられています。
いくら観客が待っているといっても、赤字になると分っていながら新作の公開に踏み切ることはできず、結局、記念すべき映画館再開日7月20日に公開された新作映画は『第一次的離別』(A First Farewell/はじめての別れ)という作品のみでした。

『第一次的離別』(A First Farewell/はじめての別れ) リナ・ワン監督。2018年の第31回東京国際映画祭「アジアの未来」上映作品でもあります。


新疆ウイグル自治区の豊かな自然が広がる地域で撮影された映画で、ウイグル族の少年が幼なじみや家族との小さな別れを通じて自然の中で成長していく・・・という作品です。
日本を含め海外の映画祭で上映され、いくつもの賞を受賞しています。しかし、半年の休業期間を経てやっと再開された中国のシネコンスクリーンを飾るには、あまり適した作品ではなかったかもしれません。
リナ・ワン監督は、ウイグル自治区で育った漢民族の若い美人監督です。新疆ウイグルの美しい風景、素朴な人々の表情は素晴らしいのですが、「漢民族の監督が撮った少数民族の映画」であり、ドキュメンタリーなのかドラマなのか判別し難い部分があり、やや消化しにくい映画でした。
海外の映画評論家や識者から好まれる中国映画は、現実の中国で暮らす観衆にはウケない傾向があります。これは中国に限らずどの国でも、海外の映画祭で評価された作品が必ずしも自国の観客に好まれるとは限りません。

他にも旧作が何作品か上映され、中国映画『誤殺』など再評価された旧作もあるのですが、全体的な興業成績は振るわず、映画館に活気は戻っていません。
そもそも、「定員の30%」というルールは厳しいものがあります。せめて50%に制限が緩和されれば違ってくるのではと思います。

上海衡山電影院。クラシックな造りの映画館です。コロナ対策でドアが開放されたままになっていています。向かいに公園があるせいか蚊が多く、映画に集中できません。


上海国際映画祭は今年で23回目を迎え、中国では最も規模が大きく成熟した国際映画祭です。
上海映画祭では日本映画は非常に人気が高く、「日本映画週間」の出品は上海映画祭を支えてきたといっても過言ではないと思います。初期の頃から毎年積極的に新作を出品し、日本国内の一般公開よりも先に上海映画祭で上映する作品もあります。
今年はコロナウィルスの影響でスケジュールがずれた影響もありますが、『ぐらんぶる』『海辺の映画館』などが日本での一般公開よりも先の上映となりました。
上映作品は例年より少なく約300作品でしたが、そのうちの約50作品を日本映画が占めています。
新作の注目作は『コンフィデンスマンJP プリンセス編』『水曜日が消えた』『劇場』などです。名作系は、『砂の器』『楢山節考』『切腹』などの松竹映画、北野武監督作品などが出品されました。
アニメは『プロメア劇場版』『この世界の(さらにいくつもの)片隅に』(168分バージョン)のほか、『千年女優』など今敏監督作品が人気です。
『しとやかな獣』(川島雄三監督)、『刺青』(増村保造監督)といった1960年代の邦画も出品され、「見たい人いるのかな?」と思うのですが、どういうわけだか一瞬でチケットが売り切れるのです。
実際、月曜日の21:00〜23:23というスケジュールで『砂の器』(1974年版)が上映され、20代、30代の中国人の観客で劇場がいっぱいになります。上映が終わると、海外の映画祭の習慣に倣って拍手が起きます。上海映画祭には本当に映画が好きな人が劇場に集まります。

上海映画祭のチケットは指定のスマホアプリで発売され、発売開始から10分でほぼすべての作品のチケットが完売します。感覚的にいうと、めぼしい作品は1分以内に完売します。
「上海映画祭で映画を見る」という行為自体がブランド化しており、どの作品でもいいからとりあえずチケットを買うという衝動買いも確かにあります。
でも、根本的には、みんな「宝探し」がしたくてチケットを買っているのだと思います。
未公開の新作であったり極端に古い作品は、参考になる劇評コメントがありません。そんな未知の映画のチケットを買うのは「宝探し」のような楽しみがあります。
インターネットの発達によって、あらゆるものが一瞬で比較できるようになりました。何をするにも、まずはスマホで評価を確認することが当たり前になっている中、他人の評価を参考にせず行動できる機会は稀少になっています。上海映画祭は、宝探しにチャレンジできる貴重な時間を私たちにもたらしてくれます。

コロナ感染対策下の2020年第23回上海国際映画祭。入口で移動履歴をチェックする「健康コード」の提示。サーモグラフィー、マスク着用必須。基本的には政府の共通ルールに則っています。


コメント (6)
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