上海阿姐のgooブログ

FC2ブログ「全民娯楽時代の到来~上海からアジア娯楽日記」の続きのブログです。

中国語ミュージカル「人間失格」上海大劇院にて上演~白挙綱×劉令飛の太宰&大庭葉蔵

2021年12月30日 | エンタメの日記
12月10月から19日まで上海大劇院にて中国語ミュージカル「人間失格」が上演されました。
太宰治の「人間失格」をもとにした中国語オリジナルミュージカルです。太宰治は死後50年が経過しており著作権は切れていることもあり、一種の二次創作のようなミュージカルとなっています。
「人間失格」の中のストーリーと並行して、小説の主人公・大庭葉蔵と作者である太宰治が対峙する形で舞台が進行します。

主役の大庭葉蔵と太宰治の二役を、歌手の白挙綱(バイ・ジューガン)とミュージカル俳優の劉令飛(リウ・リンフェイ)が役替わり・ダブルキャストで演じました。私が観たのは、白挙綱が大庭葉蔵役で、劉令飛が太宰治役の回でした。


中国語ミュージカル「人間失格」
公演日:2021年12月10月~19日(全12公演) 会場:上海大劇院 チケット:1080元/880元/680元/480元/280元/280元
主演:白挙綱、劉令飛
制作: 染空間(RAN SPACE MUSICAL)、プロデューサー:梁一氷
脚本:文雅、章明珠
監督・振付:長谷川寧(日本人)
中国人監督&演出総監:許翀烨
照明:陳焯華
作曲:フランク・ワイルドホーン(Frank Wildhorn)
編曲・音楽指導:Kim Scharnberg
音楽総監:孫钰涿
舞台美術:Leslie Travers





ダブル主演 白挙綱(バイ・ジューガン) 1993年11月2日生まれ 四川省出身。


白挙綱は中国の男性ボーカルサバイバル番組「快楽男声 2013」(Super Boy)で最終順位3位となり一躍有名になりました。
湖南テレビの「快楽男声」は何度も開催されていますが、2013年度はカリスマ的な人気を誇るアーティストに成長した華晨宇(ホア・チェンユー)を輩出したシーズンです。番組として大成功し、“華晨宇の同期”であることはいまでも白挙綱の肩書の一つとなっています。

この種のオーディション番組で発掘されたタレントは、俳優に転向してしまうケースが多いですが、白挙綱は歌手活動にこだわり、ライブ活動を続けていました。派手な顔立ちではないのですが、アイドル性があり熱心な女性固定ファンがついています。「人間失格」は初のミュージカルですが好演していました。客席を埋めているリピート客の多くが白挙綱のファンだと思います。

劉令飛(Liam Liu)  1985年11月15日生まれ 上海音楽院演劇科卒業。


劉令飛(Liam Liu)は中国ミュージカル界のスター俳優です。CATS、ジキルとハイド、スリル・ミーなど数々の中国語ミュージカルで主役を演じています。身長は180㎝以上ありそうです。ルックス、歌唱力、演技力、経験など総合的にみて中国ミュージカル界のトップスターです。
体格、顔立ち、年齢が近いせいか、劉令飛の演じた太宰治のビジュアルは、映画「人間失格 太宰治と3人の女たち」で小栗旬が演じた太宰のイメージと重なる部分がありました。

ミュージカル「人間失格」のストーリー紹介は次のように書かれています。
--------------------------------------------------------
太宰治:日本無頼派文学の代表的作家。「人間失格」は太宰自身の半生を投影した自伝的小説。主人公の人生を通して、太宰の一生と思想を表現している。
大庭葉蔵:小説「人間失格」の主人公。大庭葉蔵は太宰の魂と生命が注ぎ込まれた存在であり、自我の追求を渇望しているのに仮面を被り続けている。
太宰治は大庭葉蔵の創造主であり、大庭葉蔵は太宰治の文学世界の分身である。
「僕たちは自分。僕たちは互いの相手。僕たちが交差し重なり合うことでお互いが補完され完全になる。」


ミュージカルを観た後に読み返してみると、この紹介文は本作を非常に簡潔かつ正確に表しています。

太宰治は創作と人生に苦悩しつつ作品世界の支配者として表現されており、創作物である大庭葉蔵は弱く繊細で、周りの人間と太宰に振り回されています。
一方で、太宰も大庭葉蔵も、2021年を生きる中国人の観客にとって理解・共感しうるキャラクターになっています。
前半は小説「人間失格」のエピソードに比較的忠実で、東京を舞台に「電気ブラン」まで出てくるのですが、作品の後半に入ると、精神世界における二人の対話が繰り広げられます
「人間失格」というタイトルのオリジナルミュージカルなわけですが、なんというか、全体的に『エヴァンゲリオン』っぽかったです。

また、太宰治と父親・出身家庭との確執や摩擦が妙に強調されており、少し違和感がありました。
しかし、そんな違和感を忘れるほど、役者の歌・ダンスのパフォーマンスのレベルが高く、振付、舞台美術、照明等の演出が素晴らしかったです。

「人間失格」を制作した「染空間」(RAN SPACE MUSICAL)は、2018年に東野圭吾の「白夜行」の中国語版ミュージカルも制作するなど、中国のミュージカル界で実績のあるカンパニーです。
ミュージカル「人間失格」は、原作(原案)太宰治、脚本・作詞は中国人が担い、作曲はフランク・ワイルドホーン、監督・振付は日本人クリエイター・長谷川寧、舞台美術はイギリスのLeslie Traversと、各国の人材を起用しています。中国の舞台器材の新しさもあり、非常にクオリティの高い作品でした。



女性キャラクターはツネ子とヨシ子が同じくらいの比重で登場します。ヨシ子を演じた徐夢迪がものすごく歌がうまかったです。
メインキャラクターは主役の太宰治と大庭葉蔵、ツネ子とヨシ子、堀木正雄ですが、その他20名近くの演者がモブ・アンサンブルを務めます。アンサンブルのダンスと歌が非常に上手く、演者は全員若く、背が高くスタイル抜群で、中国ミュージカルのレベルの高さを感じさせました。



会場の上海大劇院は人民広場にあり、客席は3層構造で1631席。満席でした。客層は主に20代から30代前半の女性です。




開演は19:30で時間どおりに始まったのですが、終演は23時を過ぎていました。途中で20分の休憩をはさみ、公演時間は約180分。劇場は上海の中心地である人民広場にありますが、コロナの影響もあり23時を過ぎると人通りはまばらでした。
コメント (2)
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

「時代少年団」火力全開コンサート配信延期~「THE9」有観客ライブを開くことなく活動終了

2021年12月06日 | エンタメの日記
日本や韓国ではグループアイドルが次々と結成され大変な盛り上がりを見せていますが、中国ではグループアイドルの活動は非常に難しい状況にあります。
理由の一つはもちろんコロナウィルス流行の影響ですが、中国政府による政策的な規制の影響や中国芸能の構造的な問題もあり、グループアイドルの活動はいっそう難しくなっています。
政策的な規制の一つとして、2021年5月以降、中国では課金を伴うファン投票によりグループデビューを目指す形式のオーデイション番組(いわゆるPRODUCE 101系の番組)は禁止されています。当局が明文で批判したことにより、オーデション番組自体が社会悪のように扱われるようになってしまいました。よって、歴代のオーデション番組からデビューしたグループも、なんとなく後ろめたい存在となり、グループ活動に間接的な影響を及ぼしています。

中国にはもともとグループアイドルは少なく、オーディション番組により結成されたグループを除くと「時代少年団」くらいしかありません。
「時代少年団」は2019年にデビューした7人組のボーイズグループです。「TFBOYS」の後輩グループで、現在中国で活躍する唯一といってもいい正統派アイドルグループです。
時代少年団(Teens in Times、TNT) 2019年11月23日デビュー。
メンバー:馬嘉祺、丁程鑫、宋亜軒、劉耀文、張真源、厳浩翔、賀峻霖の7名。
最近リリースされた楽曲「哪吒」のキービジュアル


馬嘉祺、丁程鑫が2002年生まれで、今年大学受験を終えました。その他の5人は2004年生まれという若いグループです。
「時代少年団」の7名はTFBOYSの所属する事務所の第二世代のアイドルで、「TF家族」(練習生)としてデビュー前から多くの熱心なファンがついています。
時代少年団は現在「中国を代表するボーイズグループ」というポジションにあるはずなのですが、そんな彼らもグループ活動はかなり難航しています。時代少年団が2019年11月にデビューしてから、中国ではほどなくしてコロナが流行し始めました。有観客でのライブ開催は難しく、2020年11月のデビュー1周年記念コンサートも、二転三転した結果、最終的には無観客での配信ライブとなりました。
2021年に入ってからは、7月末に南京で「時代少年団・火力全開コンサート」を有観客で開催するはずでしたが、ちょうど南京でコロナの感染者が出たために中止となりました。何度も延期を繰り返した後、「火力全開コンサート」は結局有観客ライブを諦めてオンラインライブとすることが決まりました。その後、ファンの情報追跡によると、2021年の9月末頃に無観客の状態で、ある地方のスタジオでライブ収録を終えたと言われています。
そのファン待望の「時代少年団・火力全開コンサート」が、2021年12月3日18時からbilibili動画で有料会員向けに独占配信されることになりました。


数週間前から予告編動画も配信され、ファンは動画サイトの会員費も支払い、配信日を待つのみという状況の中、なんと前日になって配信延期が発表されたのです。配信延期が発表されたのは配信予定日の前日の夜です。
びっくりしました。収録済みのライブを配信するだけなのに、まさか前日になって配信が延期になるとは・・・。
配信延期になった理由は明らかにされていません。
ファンの推測では、時代少年代の所属事務所と配信プラットフォーム(bilibili動画)との間で何らからの意見不一致が生じたのか?事務所側が直前になって引き下げたのか?それとも政策上の規制に触れる部分があったのか・・・?などと言われていますが、本当の理由はわかりません。
有料会員向け配信ではありますが、新規会員割引が適用されると1ヶ月=9元(約150円)で、それほど高い金額ではありません。しかし、仲間同士でライブ鑑賞会を企画していたファンも多く、前日の夜になっていきなり延期が発表されたので、交通費や移動コスト、場所代などが無駄となったという人も少なくないはずです。何よりファンにとっては期待が裏切られたダメージが大きいです。
しかも、グループでのコンサートは配信すらままならないのに、メンバー個別ではしょっちゅうテレビ番組に出演しているし、商業イベント的なステージにはグループでも参加しています。
グループとしての作品、パフォーマンス、公演をないがしろにされると、彼らをグループアイドルとして応援しているファンは騙されているような気分になり、不満を抱かざるを得ません。

THE9卒業
中国ガールズグループ「THE9」(THE NINE)が2021年12月5日にデジタルEP「THE NINE」をリリースし、期間限定グループとしての活動を終えました。
THE9;劉雨昕、虞書欣、徐佳琪(Kiki)、喻言、謝可寅(Shaking)、安崎(アンチー)趙小棠、孔雪儿、陸柯燃
全体的にスレンダーで長身、大人っぽくかっこいいルックスのガールズグループでした。ユニセクシャルという点からみれば、KPOPを超える一面もありました。


デジタルEP「THE NINE」2021年12月5日リリース。3曲入り、価格は9元(日本円で約15円)。QQ音楽、酷狗音楽、酷我音楽などのアプリでダウンロード可。
収録曲:1.馭舞者 2.Devil's song 3.我們啊
発売から約24時間のアプリ「QQ音楽」でのダウンロード枚数は約6万枚。


THE9はコロナの影響をもろに受けたグループでした。
日本では第1回目の緊急事態宣言が発令されていた2020年春に、中国ではオーディション番組「青春有你2」(Youth with You 2)を敢行し、そこから生まれたグループがTHE9です。活動期間が18ヶ月だったので、デビュー日から起算すると2021年11月30日が18ヶ月目にあたります。12月5日にリリースされたEP「THE NINE」がグループとしての最後の作品になります。
結局、デビューから卒業(解散)まで、コロナの影響により一度もオフラインでのコンサートができませんでした。
本当は2021年11月27日と28日の2日間、蘇州で「卒業コンサート」を開催する予定でしたが、中国各地でコロナが再発しているため「動態的ゼロコロナ」を採用する中国ではコンサートを中止せざるを得ませんでした。
本来予定されていたTHE9 卒業コンサートのポスター


「THE9」が誕生したのは、まだコロナのワクチンも開発されておらず、世界的にはマスクすら不足していた時期です。そんな中、オーディション番組を制作しデビューまでこぎつけました。
しかし、コロナの影響が長引き、中国芸能界の体質的な問題や政策上の規制もあり、グループとしての活動は充実していたとはいえず、ファンにとってはもどかしく不満が残るものだったかもしれません。

中国の政策的なファンダム規制
2021年に入り、中国芸能界は当局の政策とネット世論により様々な規制を受けています。その一つがファンダム(ファン活動)の規制で、具体的にいうと芸能人に関するネット上での「ランキング活動」が禁止されました。
中国人はランキングに夢中になりやすいです。ですが、それは日本人も韓国人も同じで、むしろ自分の応援するアイドルがランキングで1位または上位を取るために応援するのは当たり前のことです。
ただし、中国アイドルのファン活動はお金と直結しやすく、誰がいくらお金を出したかが見えやすいシステムでした(もちろん本名ではなく、ネット上でのID名でしか分かりません)。そして、「なんでこんなにお金があるのだろう」と不思議になるほどお金を持っている若い子が多いです。感覚的いうと、人民元30万元(日本円500万円くらい)をアイドル応援のためにポンと出せる人はいくらでもいると感じます。恐らく、日本や韓国、海外にもこのような「お金を出せる人」はいると思います。ただ、中国の場合は、お金を出す人の存在が見えやすく、お金を多く出せる人が他のファンを刺激し、ファンダムを過熱化させる存在になりやすいです。そして客観的にみると、ファンダムを通じて、極端な貧富の差とランキングを左右することで満足感を得ようとする中毒的な病態が浮き彫りになっています。

2021年の中国芸能に関する政策上の規制やネット世論による粛清は本当に過激で、短期的にみれば市場破壊を引き起こしていると思います。
規制しすぎると競争が成り立たなくなり、アイドルも競争のないところにブームは生まれません。一方で、生き残ったごく少数のアイドルに人気が一局集中すると、それはそれでいびつな状態になります。

時代少年団が広告キャラクターを務める米国スポーツシューズメーカーSKECHERS。去年まではWayV(威神V)が広告キャラクターでしたが「時代少年団」に変更されました。
コメント (2)
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする