上海阿姐のgooブログ

FC2ブログ「全民娯楽時代の到来~上海からアジア娯楽日記」の続きのブログです。

楊紫(ヤン・ズー)主演の中国ドラマ『長相思』大ヒット〜4人のイケメン+逞しいヒロインの2023年夏ドラマ

2023年07月30日 | エンタメの日記
7月24日からテンセントビデオで配信スタートした中国ドラマ『長相思』が大ヒットしています。
中国ドラマ『長相思』 英語タイトル『Lost You Forever』 2023年7月24日配信開始 放送:テンセントビデオ独占配信
主演:楊紫(ヤン・ズー)、張晩意、鄧為、檀健次、王弘毅  監督:秦榛、楊歓  原作:桐華(「宮廷女官 若曦(ジャクギ)」の原作者としても有名な女性作家)


中国には日本の民放のような四半期ごとの「クール」という概念はありません。かといって、Netflixのように全話一挙放送されるわけでもありません。
中国ドラマはテンセントビデオ(腾讯视频)、iQIYI、Youkuという中国三大配信サイトが主体となって放送・制作しており、これらの配信サイトはNetflixなどと同様に有料会員を獲得することで収益を確保しようとしています。
そのため、中国ドラマの放送のタイミングは配信サイトの課金戦略と大きな関係があります。

最近の中国ドラマは40話前後の作品が多いですが、これを配信サイトでは約2ヶ月かけて放送します。
よくあるパターンは、公開初日に有料会員向けに1話~4話、非会員向けに1話~2話を公開します。翌日からは有料会員向けには2話ずつ、非会員向けには1話ずつ更新していきます。
公開日から約1週間で、有料会員向けには第15話、非会員向けには第7話あたりまで更新され、配信スタートから1週間でそのドラマが面白いのか大体分かります。スタートダッシュが勝負です。
2週目からは更新ペースが落ちますが、有料会員は先行更新されるので、どうしても続きが早く観たい視聴者は課金する(有料会員になる)ことになります。
最終話までの更新が完了すると、冒頭の1〜3話しか無料視聴できなくなります。約2ヶ月で40話を見終えるのは難しいので、最後まで観たければ課金を余儀なくされます。
なお、無料視聴では広告カットができず、冒頭に約120秒の広告が入り、途中にも何度かCMが挟まります。

配信サイトの目的は有料会員を増やすことです。しかし、中国配信サイトは1ヶ月、3ヶ月、半年、1年という単位で会員登録できるので、観たい作品があるときだけ1ヶ月だけ有料会員になる人も多いです。
とはいえ、1ヶ月は視聴者にとってもあっという間に過ぎてしまうので、ひとつヒットドラマを生み出すことで、視聴者に少なくとも3ヶ月(四半期)有料会員を継続させたいというのが配信サイト側の狙いです。
そのため、40話のドラマを2~3ヶ月かけて配信するというサイクルが一般的になっています。

もし2ヶ月に1本ずつ観たいドラマがコンスタントに配信されるのならば、年会会員になってもよいと思うかもしれません。会員費は1ヶ月:20元(約400円)、3ヶ月:50元(約1000円)、1年:198元(約4000円)など年間会員になると割安になります。ただ、映像プラットフォームにとって年間有料会員を維持し続けるのは容易なことではなく、コンテンツを供給し続けることに相当のプレッシャーがかかっています。

テンセントビデオの有料会員料金体系(2023年7月現在/通貨単位:人民元、1元=約20円)


どのドラマをいつ配信スタートするかのスケジューリングは有料会員を確保するうえで非常に重要な戦略です。配信サイトは多くのドラマをストックしており、社会の空気も読みながら配信開始のタイミングを常に見計らっています。
1年の中で、夏休みと冬休み(正月休み)はプラットフォームが特に力を入れる季節です。毎年7月は力作ドラマが投入される傾向がありますが、2023年7月24日に始まった『長相思』は期待どおりの評価と人気を獲得しています。

~ドラマ『長相思』の世界観~
『長相思』は中国古代神話系コスチュームドラマで、中国古書「山海経」が世界観のベースとなっています。
人間、神族、妖族(普段はいずれも人間の姿で暮らしている)が共存する混沌とした世界は西炎、辰荣、皓翎の三つの国の統治によりバランスをとっています。登場人物は種族同士、国同士の争いに翻弄されながら、愛情、友情を育みつつ運命と戦っていきます。

ドラマ『長相思』の中心となって作品を引っ張っているのがヒロインを演じる楊紫(ヤン・ズー)です。
楊紫は子役出身で演技力に定評のある人気女優です。毎年何本ものドラマに出ている超売れっ子です。1992年生まれ、身長167cm、北京出身。

ヒロイン:玟小六(ウェン・シャオリュー)/小夭(シャオヤオ)
皓翎国の姫君という生まれながら、男の姿になり薬師として下界で生きている。孤児や帰る場所を失った兵士を養いながら忙しく賑やかに暮らしているが、神族であることの孤独から逃れることはできない。


ヒロインを演じる楊紫(ヤン・ズー)は、さっぱりとした意思の強い役柄を演じることが多く、女性からの支持が非常に厚い女優です。
『長相思』でも、孤独を抱えながらも持ち前の明るさ、冴えた頭脳と情の深さで多くの人々を惹き付けるヒロインを見事に演じています。
女性視聴者から愛されるキャラのヒロインの周りを4人のイケメンがぐるぐるします。ヒロインをめぐる美形の男たちを新進イケメン俳優たちが演じています。

相手役 男1:玱玹、”お兄ちゃん”
ヒロインと兄妹として育った西炎国の正統な後継者。幼き日のヒロインとお互いを守ると誓い合ったのに離れ離れになってしまう。ヒロインを探し続けているが、姿が変わっているためすれ違ってしまう。
主人公にあたるこの役を張晩意(チャン・ワンイー)という人気上昇中のイケメン俳優が演じています。1994年生まれ、北京電影学院出身、身長176cm。冷淡な印象を与える顔立ちですが所作がきれいなスタイルのよい俳優。


相手役 男2:塗山璟/叶十七(シューチー)
乞食の姿で大怪我を負っていたところヒロインに命を救われる。実は美形の名家の子息。身元の分からない自分を助けてくれたヒロインに心打たれ、献身的に付き従う。独特の霊力を持っている。
ドラマ『長月燼明』『重紫』などで人気上昇中の新手のイケメン若手俳優・鄧為(ダン・ウェイ)が演じています。1995年生まれ、身長183cm、中央戯劇学院出身。真顔だとやや固い雰囲気ですが、笑ったときの顔が非常にきれいでギャップが魅力。


相手役 男3:相柳(シャンリウ)
白衣白髪の妖族の王。辰栄国の軍師としても恐れられている。西炎国とは敵対関係にある。辰栄国の領域に入りこんだヒロインを拘束して鞭打ちにするという出会いだが、いつしかヒロインの孤独を理解できる唯一の存在となる。
ドラマ『猟罪図鑑~見えない肖像画~』のヒットで人気俳優となった檀健次(タン・ジェンツ)が演じています。白衣白髪が非常によく似合い好評です。檀健次は中国人俳優としては背が高い方ではありませんが、妖族の王という役柄がうまくハマっています。


相手役 男4:赤水豊隆
四大名家のひとつ赤水家の跡継ぎ。大らかで心がひろい。ヒロインの結婚相手とされる。この役を演じている王弘毅は1999年生まれ、身長183cmの若手俳優。ドラマ『且試天下』にも出ています。


中国ドラマには新しいイケメン俳優が次から次へと出てきます。彼らの多くは難関芸術大学である北京電影学院や中央戯劇学院で学んでおり、入学できる時点でルックス面で相当厳しい競争をかいくぐっています。毎年新たな人材が次々と投入されるので、大学卒業後の競争はさらに厳しいです。

本作を配信している「テンセントビデオ」(腾讯视频)は中国IT巨頭・テンセント傘下のプラットフォームですが、海外向け(特に東南アジア)には「WeTV」という名前でアプリを展開しており、『長相思』はWeTVでも7月24日から配信されています。
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映画「スラムダンク」中国で応援上映続々開催~有志企画型の応援上映

2023年07月19日 | エンタメの日記
映画は静かに観賞するものとされていますが、一方で「応援上演」という楽しみ方が広まっています。応援上映では発声、手拍子、掛け声、サイリウム使用がOKで、オタクの絶妙な掛け声に感動するライブエンタメです。私が初めて日本で応援上演を観たのは2017年「HiGH&LOW」劇場版2でしたが、その頃には「応援上演」はかなり定着していたように思います。

中国でも「応援上映」が流行り始めており、そのきっかけを作ったのが映画版スラムダンク『THE FIRST SLAM DUNK』です。
映画「スラムダンク」は2023年4月20日に中国で劇場公開され、それ以来、中国全体でカウントすると100回近く「応援上映」が行われているのではと思います。

上海大光明電影院で行われた「湘北VS山王工業の千人対抗応援上映」。


左側の客席は「湘北応援席」右側の客席は「山王工業応援席」とされており、ひいきのチームを応援しながら映画を鑑賞します。
鳴り物を鳴らしながら試合の展開に合わせて「ディーフェンス!!ディーフェンス!!」「いいぞいいぞ河田、いいぞいいぞ河田!」など観客が賑やかに発声するので、試合シーンのセリフはほとんど聞こえません。セリフが聞こえなくても中国語字幕があるので話の展開は分かります。


配布された応援グッズ。ファンアートです。実際に手にしてみると明らかにファンアートであることが分かるものです。


中国の「応援上映」は配給元や劇場が主催するのではなく、有志の企画により開催されます
なぜ有志が「応援上映」開催することができるかというと、中国では個人が比較的簡単にスクリーンを貸し切ることができるからです。チケット購入アプリに「スクリーン貸切」を申し込む機能がついているくらいです。
中国では2013年以降シネコンが急増し、2018年に国の政策として「映画スクリーンの建設加速」が実施されたこともあり、10年間でスクリーンの数が10倍に増加し、中国全土には8万以上のスクリーンがあり、いまも増え続けています。
しかし、劇場に観客をどんどん呼べるようなヒット作が常時あるわけではなく、映画スクリーン自体は全体的に供給過剰の状態にあります。このことが、個人がスクリーンを貸し切るハードルを大きく引き下げています。
日本の場合、全国のスクリーン数は2022年時点で3,634と発表されており、人口に対してスクリーン数は少なく、スクリーンがフル稼働している状態なのではと思います。
また、中国の映画チケット料金は日本のように一律ではなく、劇場、作品、時間帯によってチケットの値段はバラバラです。
貸切りのための値段も統一料金があるわけではなく、劇場側が採算が取れると判断するラインの金額で貸し切りが可能となります。
劇場側は、はっきりいってスクリーンが余っているので、貸し切りに協力的で色々な便宜をはかってくれます。

上海影城で開催された「宮城リョータ千人応援上映」。1000席規模のスクリーンを貸切り、ホールの天井モニターに応援上映の映像が映し出されました。


「宮城リョータ応援上映」なので、客席は、沖縄、神奈川、広島、カリフォルニアにエリア分けされています。


これらのイラストは公式の素材ではなく、有志提供のファンアートです。


これまでも、中国ではファンがスクリーンを貸し切って上映会を企画することはちょくちょくありました。
例えば、2022年に映画『花束みたいな恋をした』が中国公開されたときは、菅田将暉のファングループがスクリーンを貸し切ってファン交流上演会を企画していました。
映画スラムダンクの「応援上映」は文字通り応援上演で、映画の中の試合展開に合わせてチームや選手を応援します。
例えば「宮城リョータ千人応援上映」では、湘北高校の宮城リョータを応援するものです。5月22日は人気キャラクター三井寿の誕生日だったので、各地で「三井寿誕生祝い応援上映」が開催されました。

「応援上映」は個人・有志が企画するもので、中国ローカルのSNSアプリ(Weibo、小紅書、抖音)などで情報を告知し、参加希望者はWeChatグループに招待され、WeChat内のミニプログラムでチケット購入し、WeChatペイ(スマホ決済)で支払うという流れが一般的です。

大規模な応援上映では、1000席規模のスクリーンを使用するので、劇場をほぼ丸ごと貸し切るような形になります。
劇場の空きスペースではグッズの交換会が行われています。






これは有志が同人グッズ(ファンアート)を作って劇場に持ち込んでいるのですが、販売しているわけではありません。無料で配布するか、交換しています。何と交換するかというと、ファンアート同士の交換です。
「グッズとグッズとの交換」という非常に原始的な物々交換によってファン同士の交流が行われているのです。(自作のグッズでなくても、他人が作ったグッズでも交換に出していいです)
中国の有志による「応援上映」は、手探りながら秩序と法律を守ろうとしています。
日本では、「公式」と「同人」をはっきりと線引するのがマナーであり、ルールとされているので、映画の応援上映に同人の要素を持ち込むことに違和感を持つ人もいるかもしれません。ですが、これを禁止するとなると、同人活動そのものを禁止するのと同じになってしまいます。

中国の「応援上映」は劇場側の同意を得て正規のルートで映画を上映しています。つまり、劇場側から正規チケットが発券され、興行収入は公式に計上されます。
関連グッズはすべてファンアートで自費制作、ファンアートの売買は行わず無償か物々交換のみ、となると禁止する理由はないように思います。
実際には、正規のチケット料金に数十元(約400円程度)の経費が上乗せされた値段で販売されていますが、ファンアート宣伝物の制作費などで相殺されるレベルの金額だと思います。

公式かと見まごう山王工業のポスター。このイラストは有志(同人作家)が描いたもので、左端に日本語と英語で「このイラストはファンアートです。」と注意書きがあります。


・中国では映画館のスクリーンを貸し切ることが比較的容易。
・SNSとスマホ決済が普及しており、無料または手数料は僅かのアプリが多く、個人間での金銭決済が簡単。
・中国国内には各種工場が豊富に存在するので、ファンアートのグッズを比較的安く制作できる。
上記の背景があるため、中国型の「応援上映」が可能となっています。

「応援上映」に参加しているのは8割以上が女性です。学生と20代が主流で、平均としては25~26歳、基本的に35歳以下のように見えます。
こんなに若い人たちがスラムダンクを応援しているということに驚きです
彼ら(彼女たち)は自分が生まれて間もない若しくは生まれる前に制作されたTV版アニメ「スタムダンク」も視聴しており、当時流行った同人カップリングにも詳しいです。
世代・国を超えて愛される「スラムダンク」という作品のすごさを見せつけられました。

中国での映画『THE FIRST SLAM DUNK』(灌篮高手)の興行収入は7月18日時点で6.5億(約130億円)です。中国メディアの予想ではもっと伸びると思われていました。
一方、同時期に公開された新海誠監督の『すずめの戸締り』(铃芽之旅)は8億元(約160億円)で、『すずめの戸締り』の方が数字的に上となりました。
両作ともに日本国内での興行収入に匹敵あるいは上回る成績を上げており、数字的にいうと、中国は最大の海外市場です。
累計動員数についていうと、中国での映画「スラムダンク」動員数は上映90日で1800万人を超えており、日本を大きく上回っています。
なお、中国で歴代興行収入TOPの映画は朝鮮戦争を描いた『長津湖/1950 鋼の第7中隊』(2021年公開)という作品で、累計動員数は約1億2500万人で日本の総人口よりも多いです。
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中国映画『消失的她』(消えた彼女)予想外の大ヒット~米国映画の不調と“低予算”国産サスペンスの大ヒット

2023年07月11日 | エンタメの日記
6月22日に公開された中国映画『消失的她』(消えた彼女)が予想外のヒットを記録しています。
今年の春以降、中国の映画市場は全体的に低迷していますが、6月下旬の端午節の3連休に合わせて公開された中国サスペンス映画『消えた彼女』は初日から好調で、7月11日現在約32億元(約640億円)の興行収入を上げています。

『消失的她』(原題直訳「消えた彼女」)英語タイトル:Lost in the stars
公開日:2023年6月22日 時間:121分 興行収入:約32億元(約640億円)(7月11日時点)
主演:朱一龍、倪妮、文咏珊  監督:崔睿、劉翔 脚本・監修:陳思誠
原案:1990年のソビエト映画「Lovushka dlya odinokogo muzhchiny」(独身男に仕掛けられた罠)


『消えた彼女』は公開から20日間で約32億元、日本円に換算すると約640億円の興行収入を上げています。統計データによると、のべ動員数は7636万人です。
中国の映画市場の規模は大ざっぱに言うと日本の5倍ですので、日本の感覚でいうと130億円くらいの規模のヒットで、年間ランキングで5位以内に入るレベルです。

主演は中国ドラマ『鎮魂』や映画『星明かりを見上げれば』(原題『人生大事』)などで人気の朱一龍(チュー・イーロン)です。
朱一龍が現代サスペンスの主役を演じるのは初めてですが、さまざまな表情を使い分ける巧みな演技を見せています。

~あらすじ~
東南アジアのとある国の警察署。中国人の男性(何非/ホー・フェイ)が現地の警官に英語で必死に訴えている。新婚旅行中の妻・李木子(リー・ムーズ)が姿を消したまま何日も帰ってこないので捜索してほしいと。
しかし警察は事件性を示す証拠がないといって取り合ってくれない。何非のビザの期限は迫っており現地に滞在できる時間はあと数日しかない。打ちのめされた何非は一人でホテルに帰り眠りにつく。翌朝ホテルのベッドで目を覚ますと、隣に赤いドレスの女性が眠っていた。
何非はぎょっとして女に「お前は誰だ」と尋ねると、女は「私は李木子。あなたの妻でしょう?」と答え、スマホを差し出し二人を映っている写真を見せる。
何非はこの女性は自分の妻ではないと訴えるが、誰も何非の言葉を信じない。何非は本物の李木子を探すため、ある女性弁護士を頼る。

主演:朱一龍(チュー・イーロン)新婚旅行中にいなくなった妻を探すため奔走する男・何非(ホー・フェイ)を演じています。何非は様々な過去を隠し持っており、いくつもの表情を朱一龍が演じ分けています。


敏腕国際弁護士・陳弁護士を演じる倪妮(ニー・ニー)。1988年生まれ。チャン・イーモウ監督の南京を舞台とした戦争映画『金陵十三釵』(2011年)の主役に抜擢されて女優としてのキャリアをスタート。身長170㎝、クールで知的なルックスで独特の地位を築いている人気女優。劇中では英語のセリフが多いですがネイティブのように流暢です。


「私があなたの妻」と言って現れる赤いドレスの女性を演じる文咏珊(ジャニス・マン)。1988年生まれ、身長168cmの香港出身の女優。


『消えた彼女』は予想外の大ヒットで、当初の予測を3倍くらい上回っています。
中国の映画市場全体が不調である中、まさかこんなにヒットするとはと驚かれていますが、映画を観た観客にとっても「どうしてこの映画がこんなにヒットしたのか?」と考えたくなるような作品です。

『消えた彼女』の制作費は1.5億元と言われています。1.5億元は現レートで計算すると30億円となります。
「制作費30億円」は現在の中国映画の相場からいうと低予算に属します。

監督としてクレジットされている崔睿、劉翔の2名は若手映像作家で、これまでに目立った作品はありません。
『消えた彼女』は脚本・監修として映画監督・陳思誠(チェン・スーチェン)が参加しており、ヒットに至ったのは陳思誠の手腕によるものと言われています。

陳思誠は中国映画界有数のヒットメーカーです。
元々は俳優で、俳優としてかなり成功していました。かつてドラマ『士兵突撃』等で共演した仲間が大スターになっており、そのことも監督転身後の強みなっているようです。1978年生まれ、身長180㎝。


『消えた彼女』には原案が二つあります。
一つは、2019年にタイで実際に起きた「中国人妊婦墜落事件」で、制作側によるとこの事件を映画のモチーフにすることについて関係者の許可を取ったとのことです。
もう一つ、1990年のソビエト映画「Lovushka dlya odinokogo muzhchiny」(独身男に仕掛けられた罠)が原案であると記されています。
ただし、このソビエト映画の中国版を作ろうとしていたわけではなく、制作に入ってから近似性を指摘されたので後付で版権を購入したと公表しています。このソビエト映画よりも、1986年の米国映画『消えた花嫁』に似ていると言われていますが、ソビエト映画の版権許諾を得たということで近似性指摘の問題を回避しています。

『消えた彼女』は「東南アジアの一国・バディビア(巴迪維亞)」が舞台ですが、これは架空の国です。
撮影場所も東南アジアではなく、中国の最南端にあるリゾート地・海南島です。
異国情緒が極彩色のカットで埋め尽くされていますが、実在しない架空の国が舞台なので、何かを正確に再現する必要はなく「東南アジアっぽい」雰囲気であればよく、自由度の高い映像作りができます。
たとえば、花火が上がる現地のお祭りのシーンがありますが、これも実在するカーニバルなどではなく創作シーンであり、視覚的には非常にゴージャスですが、よくみると中国人のエキストラがカーニバルのダンサーや観衆を演じており、何ともいえないチープな怪しさがあります。

登場人物は赤、白、黒と象徴的な色の服装をしていますが、衣装のバリエーションは少なく、いつも同じ服で現れる登場人物もいます。
主人公が東南アジアに滞在できるビザの期限が迫る数日間という設定なので、登場人物が常に同じような服装で出てきても不自然ではありません。
また、時代的に辻褄が合わないところがありますが、いつの話であるのか明示していないことが抜け道となっており、低予算に仕上げるための仕掛けが様々なところに張り巡されています。


映画は誰にでも手が届く娯楽であり、チケットの値段は地方都市ではいまだに40元前後(約800円)です。
(都市部の設備・環境のよいスクリーンでは、120元(約2400円)を超えるところもあります)
中国の商業映画は大人が一人でじっくり観るようなものではありません。映画は日常消費の一部分であり、公開時期、テーマ、宣伝方式などが観衆のニーズに合致し、消費の循環にうまく溶け込むとヒットします。
いま現在、中国には不況感が漂っていますが、その中で映画という一つの商品をヒットさせたことは快挙です。

最近の中国映画市場は全体的に低調で、特に米国映画は軒並み苦戦しています。

『ザ・スーパーマリオブラザーズ・ムービー』 4月5日公開 1.7億元(約34億円)
実写『リトル・マーメイド』 5月26日公開 2650万元(約5.3億円)
『マイ・エレメンツ』 6月16日公開 1.1億元(約22億円)
『インディ・ジョーンズと運命のダイヤル』 6月30日公開 2300万元(約4.6億円)

実写『リトル・マーメイド』に至っては、上映から僅か1週間でほとんど打ち切りのような形になりました。
それでも『ワイルド・スピード ファイヤーブースト』などは9.8億元(約190億円)の興行収入を上げていますが、本シリーズの過去作と比べるとかなり勢いが落ちています。

アメリカ大作映画は中国での興行収入を見込んで、北米と中国で同時公開するなど中国市場に配慮してきましたが、こんなに中国で流行らないのであれば、そういった配慮もなくなっていくかもしれません。

なぜ中国で米国映画がこれほど流行らなくなっているのか。一つには宣伝・キャンペーン不足だと思います。米中関係悪化という政治的な影響も少なからずあります。
ただし、内容面からいうと、映像のゴージャスさという点だけでいえば、中国映画も米国映画と遜色ないレベルのものをすでに作っています。
物語としても米国大作映画は同じようなテイストの作品が多く、あまり魅力を感じなくなっているのかもしれません。米国映画がテーマに組み入れてくる「多様性」などの要素も、中国の観客にはあまり響かないのではと思います。
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韓国ミュージカル『女神様が見ている』の中国語版『女神在看』上海で上演~匿名化された反戦のミュージカル

2023年07月03日 | エンタメの日記
韓国ミュージカル『女神様が見ている』の中国語版『女神在看』が上海人民大舞台で上演されました。
『女神様が見ている』は韓国で2013年に初演を迎えて以来何度も再演されている人気作で、最近ソウルで10周年記念公演も行われました。
この作品は2014年に韓国人キャストによる来日公演が行われたことがあります(世田谷パブリックシアター公演)。日本にもファンが多いKPOPグループ「SuperJunior」のリョウクがキャストとして来日したことは、当時かなり話題になりました。また、現在ドラマや映画で活躍している俳優チョン・ソンウが本作の初演キャストとして重要な役を演じています。

韓国ミュージカル『女神様が見ている/여신님이 보고 계셔』 中国版タイトル『女神在看』 
会場:上海人民大舞台 上演期間:2023年6月9日~7月2日(全30公演) 上演時間:約120分 中国制作会社:睿魚文化
キャスト:宗俊涛、鍾舜傲、施哲明、趙偉剛、高楊、夏陽など。主に中劇場クラスの作品で活躍している俳優がキャスティングされています。






中国語版『女神様が見ている』は韓国初演からちょうど10周年にあたる2023年に上演されましたが、中国では特にそのことには触れられていません。そもそも、オリジナルが韓国ミュージカルであるということもあまり表には出していません。
作品クレジットにはもちろん韓国オリジナル版の制作陣(脚本:ハン・ジョンソク、演出:パク・ソヨン、作曲:イ・ソンヨン)の記載があるほか、上海公演に携わる韓国側のスタッフと中国側のスタッフの名前が列記されています。オタクはこの作品の原版が韓国ミュージカルであることを知っています。ですが、ポスターなど目立つところに韓国ミュージカルがオリジナルであることが表記されているわけではないので、誰かに誘われて観に来ているような観客は、韓国ミュージカルの中国語版であることを知らずに観ているのではと思います。

『女神様が見ている』は6人の兵士と1人の”女神様”から構成されるミュージカルです。歌よりも芝居に重点が置かれていますが、楽曲も素晴らしい作品です。

~韓国原版のあらすじ~
1952年、朝鮮戦争中の釜山港。南側(韓国)の兵士2名が北側(北朝鮮)の捕虜4名を輸送するよう命じられる。ところが彼らが乗った船が難破し、6人は無人島に流れ着く。気付いたときには両者の立場が逆転し、北側の兵士が南側の兵士を拘束する立場になる。船を修理できるのは北側の若い兵士1人だけ。しかしその兵士は精神が不安定になっておりまともに仕事ができる状態ではない。ところが南側の兵士が「この無人島には女神さまがいて俺たちを見ている」と話したことをきっかけに、女神さまの教えに従い船の修理作業に励むようになる。南北の兵士たちは一丸となって無人島に「女神さま」が存在するかのように振る舞うことになり、奇妙な協力生活が始まる・・・。

原版は1952年の釜山港、陸軍本部から物語が始まり、セリフの中にも朝鮮戦争中であることが明確に表されています。
しかし、中国版では朝鮮戦争が舞台であることにはまったく触れられておらず、架空の国同士の架空の戦争の物語に書き換えられています
中国版の設定では、朝鮮戦争に参戦する南北の兵士たちではなく、「藍海帝国」とその敵国「藍天連邦国」との間の戦争という設定になっています。
「藍海帝国」という国名は「ブルーオーシャン帝国」、「藍天連邦国」は「ブルースカイ連邦国」といったところで、リリカルで匿名性の高い名称となっており、世界のどのあたりの国をモデルとしているかも特定できません。
また、具体的な時代や時期を示す情報もありません。
登場人物は稲妻、サソリ、石ころといったあだ名或いはコードネームで呼ばれており、役名から背景を特定することもできません。

~中国版の役名~
韓国軍:
ヨンボム→稲妻(闪电)
ソック→砲弾(炮弹)

北朝鮮人民軍:
チャンソプ→サソリ(蝎子)
スンホ→石ころ(石头)
ドンヒョン→狼(野狼)
ジュファ→スプーン(勺子)

女神様→女神

中国版では朝鮮戦争が舞台であることはきれいにぼかされていますが、そのかわり、楽曲、物語の展開、衣装、セット等はほぼ原版どおりです。
ただ、書き換えが行われたことで、物語の意図が伝わりにくくなっている部分もあります。
たとえば、北朝鮮の兵士の一人ドンヒョン(中国版ではオオカミ)のエピソードです。
ドンヒョンはある程度の地位まで昇進している兵士です。
韓国原版でのドンヒョンは、自身が北朝鮮の兵士として従軍しているのに、父親たちが南側に逃げてしまったという苦しみを抱えています。
中国版では「朝鮮戦争」という背景が取り除かれているので、父親はもうすぐそこが戦場になるので家族を連れて”国外”に逃げてしまった、ということにされています。
韓国原版の場合は、北側に住んでいたドンヒョンの家族が南側つまり韓国を目指して逃げた、と明確に表現されています。それは、「敵側」に「逃げる」ことになるのです。朝鮮戦争特有の近しい者同士の分裂がリアルに描かれています。

ドンヒョンは最後には自分の意思で南側の兵士についていくことを選びます。
中国版では「戦争中に家族が国外に逃げる」となっていますが、観客からすると、戦火を逃れるために国外に行くこと自体がそれほど特殊で悪いことのようには思えません。また、オオカミ(ドンヒョン)が最後に家族のために敵側の兵士についていくという展開もやや違和感があります。敵側の国に行くことは、家族が逃げた「国外」には繋がらないからです。

とはいえ、舞台が朝鮮戦争のままでは中国で上演することは非常に難しいです。
韓国人以外が朝鮮戦争の兵士を演じることには違和感があるし、それでなくても中国は共産主義国として北側(北朝鮮)を支援する形で南側(韓国・アメリカ)と戦い、膨大な戦死者を出したという北側の当事者です。戦争の表現は政治に繋がるのでリスクがあります。中国で商業ミュージカルとして上演するためには、「朝鮮戦争」という要素を消すのは致し方ないことだと思います。
なお、中国版では北側の兵士の愛国心がやや強調されており、観る側にとっては、どちらかというと北側に自らを重ねやすい脚色になっていると思います。

『女神様が見ている』はもともとコミカルな場面も多い作品です。
中国版は背景がぼかされたため、戦争の恐ろしさや緊張感がやや弱まっています。その反動でコミカルな部分がより目立つようになり、全体的に反戦をテーマとしたハートフルなミュージカルとなっています。

上海では1ヶ月に渡って全30公演ありましたが、1000席の劇場はオーバーキャパシティでした。
平日でも劇場に来る個別の俳優ファンのリピーター客は、コミカルなシーンでの俳優同士のアドリブを期待するので、余計にコメディの比重が高まったように思います。



戦争に関する部分が匿名化され架空の設定が加えられたことで、韓国原版が持つ戦争に対する姿勢や人の生き方に込められたメッセージはダイレクトには読み取れなくなっています。
ですが、『女神様が見ている』という作品を韓国以外の国でも上演可能な形に変えることには成功しています。中国版のシナリオをもとにすれば、日本人キャストで上演してもおかしくないと思います。
上海ミュージカル界は中劇場に立てる俳優陣が豊富で、全役トリプルキャスト、ダブルキャストで配役されましたが、どの俳優も歌、芝居、ビジュアルともに高いパフォーマンスを見せています。
とにかく楽曲と歌詞が素晴らしく、原版のしっかりとした話の枠組みと巧みな場面転換、そこに中国人俳優の安定した歌唱力とビジュアルが掛け合わされ、すべてのキャストで観てみたいと思わせる作品に仕上がっています。

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