中国俳優といえば真っ先に誰を思い浮かべるでしょうか。『陳情令』の肖戦(シャオジャン)、王一博(ワンイーボー)、『琅琊榜(ろうやぼう)』の胡歌(フーゴー)、王凱(ワンカイ)、呉雷(ウーレイ)、近年多くの主演ドラマが日本で放送されている許凱(シューカイ)、早い時期から海外でも知られている元祖美形俳優・黄暁明(ホワンシャオミン)、陳坤(チェンクン)、いま勢いがあるイケメン俳優白敬亭、王鶴棣、張凌赫、檀健次、任嘉倫・・・などでしょうか。
日本を含め海外では、中国映画よりもドラマの方が紹介される機会が多いので、映画を中心に活動している俳優よりも、ドラマ中心の俳優の方が知名度が高いかもしれません。「ドラマ俳優」と「映画俳優」に明確な線引きがあるわけではありませんが、中国ドラマの場合、特に古装ドラマではセリフを声優が吹替えていることが多いです。映画は基本的に吹替えを使わないので、映画の方が俳優として高い技量が求められるといえます。
また、中国映画界には華表奨、金鶏奨、百花奨という三つの映画賞があります。これらは「三大映画賞」と呼ばれ、中国芸能界において非常に権威があり、監督賞や主演俳優賞を受賞するのは栄誉とされています。
華表奨、金鶏奨、百花奨の三つすべてを制覇すると、グランドスラム(中国語で「大満貫」)と言われます。
2023年に「中国グランドスラム俳優」の仲間入りをしたのが、俳優・張譯(チャン・イー)です。
張譯/张译(チャン・イー/Zhang Yi)
1978年2月17日生まれ ハルビン出身、身長178cm 出演作であるチャン・イーモウ監督の『崖上のスパイ』は日本でも公開されました。『崖上のスパイ』では金鶏奨と百花奨を受賞。
多くの大作映画で主役を演じ、2023年ついに「中国グランドスラム俳優」となった張譯ですが、もともとは軍属の劇団員として舞台俳優をしていました。
2006年にドラマ『士兵突撃』に出演したことをきっかけに、キャリアが大きく転換します。
『士兵突撃』は中国人民解放軍の兵士の生活と組織構造をリアルに描いた大ヒットドラマです。中国ドラマ史上TOP10に入る名作ドラマだと思います。職業の一つとしての軍人が、一つの職場としての軍隊でどう生きていくかを描いたドラマで、実際の戦争は出てきません(2000年代に戦争をしていないため)。実戦として描かれるのは、ミャンマーとの国境線での麻薬組織との戦闘くらいです。戦争のない時代の軍人にとって、戦友との別れは戦死ではなく、怪我や成績不振による組織からの離脱であるという現実を描いています。
張譯はドラマ『士兵突撃』で、主役の兵卒(王宝強)を指導する班長役を演じて大好評を得ました。さらに2009年に抗日戦争ドラマ『我的団長我的団』に出演し演技力が本物であることを証明します。この2作は当時大ヒットし、わずか2作で張譯は軍隊ものドラマの主役クラスの俳優となりました。
2006年の『士兵突撃』、2009年の『我的団長我的団』は康洪雷監督のドラマですが、いまの中国ではもうこういうドラマは作れないのではと思います。
『士兵突撃』(2006年) 主役の王宝強のほか、張譯、陳思誠などその後中国芸能界で大活躍する人材を世に知らしめたドラマです。
『士兵突撃』と『我的団長我的団』で上官役を演じた段奕宏は当時「理想の上司」としてもてはやされました。
『士兵突撃』や『我的団長我的団』は戦争・軍事ドラマですが、「英雄」と崇められて一時の脚光を浴びる戦士と、泥の中で終わりのない訓練と先の見えない戦いを続ける一兵士としての現実が多面的に描かれており、深みのあるドラマでした。
張譯(チャン・イー)はその後も着々と俳優としてのキャリアを重ねていきます。ただし、軍事、警察、現代社会派ドラマへの出演が多く、武侠ドラマやファンタジー時代劇にはほとんど出ていません。
次第に映画出演も増えていきますが、2018年公開の戦争アクション映画『オペレーション:レッド・シー』(紅海行動)が一つの分岐点となります。
『オペレーション:レッド・シー』は中東内戦地域(架空の国)で人質を救出するという戦争アクション映画で、張譯は作戦を実行する精鋭部隊の隊長を演じます。優れたカメラワークと緊迫した戦闘シーンがロングランにつながり、『オペレーション:レッド・シー』は興行的に大成功します(2018年度興行収入トップ)。この頃から張譯は数字の取れるヒットメーカーとして多くの大作映画にキャスティングされるようになります。
2017年頃から現在に至るまで、中国では「主旋律映画」(主旋律电影)と呼ばれる国としての主流の価値観を提唱するための映画が多数作られています。
それは、内戦地域のテロ組織から自国民を救出する戦争アクションであったり、抗日戦争、朝鮮戦争などを舞台とする歴史戦争映画であったり、中国の苦難の歴史や歩みを偉大なものとして表現する映画です。
張譯は多数の「主旋律映画」に主役として出演しています。
「主旋律映画」は「強い国力」を表現するため、一般的に大量の俳優が投入されるスペクタクル映画となっており、高額の製作費がつぎこまれます。
張譯はその俳優キャリアの中で、兵士や刑事役を多く演じており、人のために戦う正義漢のイメージが強いです。しかも、映画『オペレーション:レッド・シー』が大ヒットしたことで、興行的にも数字が取れるという実績もできました。実力と興行実績を兼ね揃えた張譯は、大作「主旋律映画」の主演を任せられる筆頭俳優として、『我和我的祖国』『我和我的家郷』『八佰』『金剛川』『万里帰途』などに次々と出演しています。
しかし、「主旋律映画」というのは中国の正しい価値観を提唱するものなので、正義と悪の対比がはっきりしており、正義が勝つと決まっています。話としては先が読めてしまうし、マンネリ化しやすいです。そのような作品の主役を正義のイメージを背負った張譯がたびたび演じてきました。張譯はすごく好きな俳優ですが、張譯が主役を演じた近年の朝鮮戦争を背景とした「主旋律映画」があまり好きではないので、張譯に対する印象も引きずられてしまっていたかもしれません。「主旋律映画」の中でも『我和我的家郷』などはエンタメ的によくできていて面白いと思います。
そんな中、2023年1月に張譯主演の新作ドラマが放送されました。『狂飆』という現代社会派ドラマです。
『狂飆』(The Knockout) 2023年1月14日放送開始 放送媒体:CCTV-8、愛奇芸(iQIYI) 全39話
主演:張譯、張頌文、高葉、倪大紅、李一桐、李健など 監督:徐紀周 撮影場所:広東省江門など
ドラマ『狂飆』は公権力と犯罪組織との癒着撲滅をテーマにしたドラマで、現実世界と一部シンクロしており、第1話の冒頭では「習近平政権のもと犯罪組織取締活動が強化されており・・・」というくだりがあります。
張譯は『狂飆』でもやはり正義感の強い刑事役を演じます。しかし『狂飆』では正義は簡単には勝ちません。ギリギリまで悪の勢力が大活躍します。それが『狂飆』の面白いところであり、悪役・高啓強を演じた張頌文がこのドラマをきっかけに大人気になりました。
高啓強を演じた張頌文(ジャン・ソンウェン)。1976年5月10日生まれ 身長175cm 広東省出身 北京電影学院卒 『バッド・キッズ』、『心居』などにも出演していますが、『狂飆』で大ブレイク。
~あらすじ~
高啓強(ガオ・チーチャン)は弟と妹を大学に行かせるために市場で魚を売って生計を立てる純朴な青年。地元のチンピラから理不尽なショバ代をせびられたり、高額な賠償請求をされたりしても、甘んじて受け入れようとしていた。チンピラとの衝突をきっかけに、張譯が演じる刑事・安欣(アンシン)と高啓強が出会う。安欣は正義感溢れる青年刑事で、高啓強に同情心を寄せ、何かと気に掛けるようになる。
ところが、チンピラたちは高啓強は刑事の後ろ盾を得たと勘違いし、余計にちょっかいをかけてくるようになる。高啓強は偶然やくざの息子の死に加担してしまい、黒社会との関係が切れなくなっていく。その日の問題を解決するため小さな悪を受け入れていくうちに、利益の大きさと比例して大きな悪を受け入れざるを得なくなっていく。PHSの販売、村単為での立ち退き事業などを経て、いつしか高啓強は京海市の表の世界も裏の世界も牛耳る不動産会社のトップに上り詰めていた。一方、刑事・安欣は京海市に巣食う悪を追い詰めながらも様々な妨害に遭遇し、未婚のまま40代を迎えていた。そんなとき、犯罪組織撲滅活動の実行部隊が安欣のもとを訪ねてくる---。
2023年の大人気CP 高啓強と安欣。
張譯は1978年生まれなので、ドラマ撮影当時は43歳くらいだったことになりますが、20代の青年時代と年齢以上に老け込んだ40代の刑事役をうまく演じ分けています。
20代の青年時代の安欣は、正義感に燃える怖いもの知らずの刑事。しかし多くの挫折と理不尽な処遇を経て、40代の安欣は髪が真っ白な出世を阻まれた刑事として登場します。
本作のヒロインは、刑事・安欣の幼馴染役を演じる李一桐(リー・イートン)のはずでした。しかし、高啓強と再婚して「親分の姐さん」役を演じた高葉の方が人気が出ました。
陳書婷役を演じる高葉。動物的なカンと豪胆な性格で危ない橋を大胆に渡っていく。前夫に愛はないが一人息子が彼女の弱点。安欣とは不思議な縁で繋がっている。
『狂飆』を観ると、現代社会においてなぜ普通の人間が腐敗に巻き込まれていくのか、よく理解することができます。
善良な弱者であった高啓強は、20年で表社会・裏社会を仕切る街のボスに登りつめますが、その過程はこの20年の実際の中国経済成長と不動産ブームとリアルにシンクロしており、高啓強という悪役は視聴者からみて共感できる人物です。
また、『狂飆』では20年前の中国地方都市や農村の貧しさが深く描かれています。教育の不足、モラルの乏しさ、血縁のみを信用する村社会に足を取られながらも、貧しさこそが富を求める強い原動力となっており、悪役のたくましさに敬服します。
『狂飆』が放送されてから丸一年経ちましたが、社会ドラマとしては『狂飆』ほどの評価と支持を集めた作品はこの1年なかったように思います。
2023年12月に放送された『繁花』(ウォン・カーウァイ監督、胡歌主演の1990年代の上海を舞台とした商戦ドラマ)も社会現象になりましたが、映像美に魅了されるものの、洗練され過ぎたキャラクターに違和感を抱く視聴者も多く、万人から支持されたとはいえないかもしれません。
日本を含め海外では、中国映画よりもドラマの方が紹介される機会が多いので、映画を中心に活動している俳優よりも、ドラマ中心の俳優の方が知名度が高いかもしれません。「ドラマ俳優」と「映画俳優」に明確な線引きがあるわけではありませんが、中国ドラマの場合、特に古装ドラマではセリフを声優が吹替えていることが多いです。映画は基本的に吹替えを使わないので、映画の方が俳優として高い技量が求められるといえます。
また、中国映画界には華表奨、金鶏奨、百花奨という三つの映画賞があります。これらは「三大映画賞」と呼ばれ、中国芸能界において非常に権威があり、監督賞や主演俳優賞を受賞するのは栄誉とされています。
華表奨、金鶏奨、百花奨の三つすべてを制覇すると、グランドスラム(中国語で「大満貫」)と言われます。
2023年に「中国グランドスラム俳優」の仲間入りをしたのが、俳優・張譯(チャン・イー)です。
張譯/张译(チャン・イー/Zhang Yi)
1978年2月17日生まれ ハルビン出身、身長178cm 出演作であるチャン・イーモウ監督の『崖上のスパイ』は日本でも公開されました。『崖上のスパイ』では金鶏奨と百花奨を受賞。
多くの大作映画で主役を演じ、2023年ついに「中国グランドスラム俳優」となった張譯ですが、もともとは軍属の劇団員として舞台俳優をしていました。
2006年にドラマ『士兵突撃』に出演したことをきっかけに、キャリアが大きく転換します。
『士兵突撃』は中国人民解放軍の兵士の生活と組織構造をリアルに描いた大ヒットドラマです。中国ドラマ史上TOP10に入る名作ドラマだと思います。職業の一つとしての軍人が、一つの職場としての軍隊でどう生きていくかを描いたドラマで、実際の戦争は出てきません(2000年代に戦争をしていないため)。実戦として描かれるのは、ミャンマーとの国境線での麻薬組織との戦闘くらいです。戦争のない時代の軍人にとって、戦友との別れは戦死ではなく、怪我や成績不振による組織からの離脱であるという現実を描いています。
張譯はドラマ『士兵突撃』で、主役の兵卒(王宝強)を指導する班長役を演じて大好評を得ました。さらに2009年に抗日戦争ドラマ『我的団長我的団』に出演し演技力が本物であることを証明します。この2作は当時大ヒットし、わずか2作で張譯は軍隊ものドラマの主役クラスの俳優となりました。
2006年の『士兵突撃』、2009年の『我的団長我的団』は康洪雷監督のドラマですが、いまの中国ではもうこういうドラマは作れないのではと思います。
『士兵突撃』(2006年) 主役の王宝強のほか、張譯、陳思誠などその後中国芸能界で大活躍する人材を世に知らしめたドラマです。
『士兵突撃』と『我的団長我的団』で上官役を演じた段奕宏は当時「理想の上司」としてもてはやされました。
『士兵突撃』や『我的団長我的団』は戦争・軍事ドラマですが、「英雄」と崇められて一時の脚光を浴びる戦士と、泥の中で終わりのない訓練と先の見えない戦いを続ける一兵士としての現実が多面的に描かれており、深みのあるドラマでした。
張譯(チャン・イー)はその後も着々と俳優としてのキャリアを重ねていきます。ただし、軍事、警察、現代社会派ドラマへの出演が多く、武侠ドラマやファンタジー時代劇にはほとんど出ていません。
次第に映画出演も増えていきますが、2018年公開の戦争アクション映画『オペレーション:レッド・シー』(紅海行動)が一つの分岐点となります。
『オペレーション:レッド・シー』は中東内戦地域(架空の国)で人質を救出するという戦争アクション映画で、張譯は作戦を実行する精鋭部隊の隊長を演じます。優れたカメラワークと緊迫した戦闘シーンがロングランにつながり、『オペレーション:レッド・シー』は興行的に大成功します(2018年度興行収入トップ)。この頃から張譯は数字の取れるヒットメーカーとして多くの大作映画にキャスティングされるようになります。
2017年頃から現在に至るまで、中国では「主旋律映画」(主旋律电影)と呼ばれる国としての主流の価値観を提唱するための映画が多数作られています。
それは、内戦地域のテロ組織から自国民を救出する戦争アクションであったり、抗日戦争、朝鮮戦争などを舞台とする歴史戦争映画であったり、中国の苦難の歴史や歩みを偉大なものとして表現する映画です。
張譯は多数の「主旋律映画」に主役として出演しています。
「主旋律映画」は「強い国力」を表現するため、一般的に大量の俳優が投入されるスペクタクル映画となっており、高額の製作費がつぎこまれます。
張譯はその俳優キャリアの中で、兵士や刑事役を多く演じており、人のために戦う正義漢のイメージが強いです。しかも、映画『オペレーション:レッド・シー』が大ヒットしたことで、興行的にも数字が取れるという実績もできました。実力と興行実績を兼ね揃えた張譯は、大作「主旋律映画」の主演を任せられる筆頭俳優として、『我和我的祖国』『我和我的家郷』『八佰』『金剛川』『万里帰途』などに次々と出演しています。
しかし、「主旋律映画」というのは中国の正しい価値観を提唱するものなので、正義と悪の対比がはっきりしており、正義が勝つと決まっています。話としては先が読めてしまうし、マンネリ化しやすいです。そのような作品の主役を正義のイメージを背負った張譯がたびたび演じてきました。張譯はすごく好きな俳優ですが、張譯が主役を演じた近年の朝鮮戦争を背景とした「主旋律映画」があまり好きではないので、張譯に対する印象も引きずられてしまっていたかもしれません。「主旋律映画」の中でも『我和我的家郷』などはエンタメ的によくできていて面白いと思います。
そんな中、2023年1月に張譯主演の新作ドラマが放送されました。『狂飆』という現代社会派ドラマです。
『狂飆』(The Knockout) 2023年1月14日放送開始 放送媒体:CCTV-8、愛奇芸(iQIYI) 全39話
主演:張譯、張頌文、高葉、倪大紅、李一桐、李健など 監督:徐紀周 撮影場所:広東省江門など
ドラマ『狂飆』は公権力と犯罪組織との癒着撲滅をテーマにしたドラマで、現実世界と一部シンクロしており、第1話の冒頭では「習近平政権のもと犯罪組織取締活動が強化されており・・・」というくだりがあります。
張譯は『狂飆』でもやはり正義感の強い刑事役を演じます。しかし『狂飆』では正義は簡単には勝ちません。ギリギリまで悪の勢力が大活躍します。それが『狂飆』の面白いところであり、悪役・高啓強を演じた張頌文がこのドラマをきっかけに大人気になりました。
高啓強を演じた張頌文(ジャン・ソンウェン)。1976年5月10日生まれ 身長175cm 広東省出身 北京電影学院卒 『バッド・キッズ』、『心居』などにも出演していますが、『狂飆』で大ブレイク。
~あらすじ~
高啓強(ガオ・チーチャン)は弟と妹を大学に行かせるために市場で魚を売って生計を立てる純朴な青年。地元のチンピラから理不尽なショバ代をせびられたり、高額な賠償請求をされたりしても、甘んじて受け入れようとしていた。チンピラとの衝突をきっかけに、張譯が演じる刑事・安欣(アンシン)と高啓強が出会う。安欣は正義感溢れる青年刑事で、高啓強に同情心を寄せ、何かと気に掛けるようになる。
ところが、チンピラたちは高啓強は刑事の後ろ盾を得たと勘違いし、余計にちょっかいをかけてくるようになる。高啓強は偶然やくざの息子の死に加担してしまい、黒社会との関係が切れなくなっていく。その日の問題を解決するため小さな悪を受け入れていくうちに、利益の大きさと比例して大きな悪を受け入れざるを得なくなっていく。PHSの販売、村単為での立ち退き事業などを経て、いつしか高啓強は京海市の表の世界も裏の世界も牛耳る不動産会社のトップに上り詰めていた。一方、刑事・安欣は京海市に巣食う悪を追い詰めながらも様々な妨害に遭遇し、未婚のまま40代を迎えていた。そんなとき、犯罪組織撲滅活動の実行部隊が安欣のもとを訪ねてくる---。
2023年の大人気CP 高啓強と安欣。
張譯は1978年生まれなので、ドラマ撮影当時は43歳くらいだったことになりますが、20代の青年時代と年齢以上に老け込んだ40代の刑事役をうまく演じ分けています。
20代の青年時代の安欣は、正義感に燃える怖いもの知らずの刑事。しかし多くの挫折と理不尽な処遇を経て、40代の安欣は髪が真っ白な出世を阻まれた刑事として登場します。
本作のヒロインは、刑事・安欣の幼馴染役を演じる李一桐(リー・イートン)のはずでした。しかし、高啓強と再婚して「親分の姐さん」役を演じた高葉の方が人気が出ました。
陳書婷役を演じる高葉。動物的なカンと豪胆な性格で危ない橋を大胆に渡っていく。前夫に愛はないが一人息子が彼女の弱点。安欣とは不思議な縁で繋がっている。
『狂飆』を観ると、現代社会においてなぜ普通の人間が腐敗に巻き込まれていくのか、よく理解することができます。
善良な弱者であった高啓強は、20年で表社会・裏社会を仕切る街のボスに登りつめますが、その過程はこの20年の実際の中国経済成長と不動産ブームとリアルにシンクロしており、高啓強という悪役は視聴者からみて共感できる人物です。
また、『狂飆』では20年前の中国地方都市や農村の貧しさが深く描かれています。教育の不足、モラルの乏しさ、血縁のみを信用する村社会に足を取られながらも、貧しさこそが富を求める強い原動力となっており、悪役のたくましさに敬服します。
『狂飆』が放送されてから丸一年経ちましたが、社会ドラマとしては『狂飆』ほどの評価と支持を集めた作品はこの1年なかったように思います。
2023年12月に放送された『繁花』(ウォン・カーウァイ監督、胡歌主演の1990年代の上海を舞台とした商戦ドラマ)も社会現象になりましたが、映像美に魅了されるものの、洗練され過ぎたキャラクターに違和感を抱く視聴者も多く、万人から支持されたとはいえないかもしれません。
『狂飆』は日本でも6月に放送されます
楽しみです