上海阿姐のgooブログ

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2020年1月~2月:上海のコロナウィルス対策の日常

2020年02月29日 | その他の日記
前回の記事で紹介した「PRODUCE 101」形式の女子版オーディション番組『青春有你2』は、コロナウィルス流行のため、1月下旬に収録が中断され、いまだに放送開始していません。無観客を前提とし、人の密集を避けるため出場者を分散させてオンラインで繋げる「クラウド収録」を試みています。
1月下旬から、映画館は休業、コンサートや公演も中止、カフェ、公園など人が集まる場所も閉鎖されています。

新型肺炎の拡大防止のため、中国が「武漢封鎖」に踏み切ったのが1月23日でした。
1月20日頃から全国的にコロナウィルスに対する危機感が高まっていました。そのまま春節大型連休に入りましたが、感染は拡大を続け、2月4日前後から浙江省の温州地方を中心に、都市封鎖が続々と実施されました。また、武漢や浙江省以外にも、全国各地の農村地域でも「村封鎖」が多数実施されています。

春節休暇が全国的に2日延長され、さらに連休明けの翌週は、各地方政府がオフィスビルへの立ち入りを禁止する通達を出しました。これにより、必然的に在宅勤務となりました。会社によっては、在宅勤務が3週間以上続いているところもあります。
学校は、本来冬休みが終わって、第二学期が始まる時期ですが、小中学校の登校再開を送らせて、3月は自宅でオンラインでの授業を行うよう、上海の教育行政機関は通知を出しています。
国全体が1か月近く「一時停止」状態にありましたが、ようやく3月から経済・商業活動が再開する動きにあります。

中国は、個人身分証番号制度を実施しており、携帯電話番号と身分証番号の紐づけ、さらに、スマホ決済システムとGPSの普及により、個人の動向を追跡する条件が非常に整っています。
生活に必須のアプリを利用するためには、個人情報の開示・提供にOKせざるを得ない仕組みになっています。

そのようなインフラを活用して、コロナウィルス感染者の情報は、広くかつ詳細に共有されています。例えば、感染者が搭乗した飛行機の検索機能がアプリについています。飛行機のほか、高速鉄道、バス、地下鉄版もあり、誰でも検索できます。自分が搭乗した飛行機に感染者が発生していないか検索することができます。

  

感染者が発生した場合、その身分証番号から、利用した飛行機のフライト番号、座席を割り出すことができます。高速鉄道の切符は専用アプリで購入するため、アプリで収集されたビッグデータからトレースすることができます。そして、そのトレース情報が社会的に共有されています。

感染の疑いがある人物と接触したときに、通報するためのプラットフォームもあります。
ITインフラを基礎とした高度な監視社会の実現を見せつけられました。当然のごとく、武漢や流行地域に対する差別的な言論やバッシングもありました。

1月の段階では、正直そこまで厳しく管理する必要があるのだろうか?と思っていました。
政府が国民一人一人の行動を完全に管理していて、異常だと思いました。
また、中国がここまで厳格に抑制するのは、役人が中央政府に忠誠を示すためのポーズなのではとも思っていました。
役人は上からの指示を忠実に実施することで点数稼ぎがしたい、感染者又は接触者を見つけて隔離・検査することが点数稼ぎにつながる、中央政府は権力を誇示するため過剰な管理をしているのではないか。と思っていました。
そう思っていたのは私だけではなく、中国人でも「やりすぎだ」と感じていた人は少なくありませんでした。
2019年は、生活の隅々にまで政府・党組織が介入してきて息苦しさが増した一年でもあったので、ある種の不信感もあったのかもしれません。

1月中旬~下旬に目にした中国のコロナウィルス対策は、日本にとっては完全に「ムリゲー」だと思いました。
なぜかというと、ウィルス対策といっても、実際にやっていたことは隔離だからです。感染者及び接触歴のある感染被疑者を、いちはやく見つけだして、専門病院に隔離する、ということを強行的に行っていました。そのための病院も突貫工事でいくつも作ってしまいました。
こんなこと日本が真似しようとしても、人権や個人情報の壁にぶつかるし、隔離するにも十分な広さの病院もありません。中途半端にやって効果が上がらず、いたずらに経済にマイナス影響を及ぼすくらいなら、いっそ自然に任せた方がいいのではないか、とすら思いました。

そして、「中国が発信する情報は真実とは異なるのではないか?よくも悪くも中国側に操作された情報なのでは?」という色眼鏡、バイアスをかけて情報を認識していました。

そのため、1月の段階では、コロナウィルスに対してあまり恐怖心を抱いていませんでした。
むしろ、これから更に中国が管理社会化するかと思うと、そっちの方が恐ろしいと思っていました。
また、上海など都会に住む中国人は、「武漢は医療体制が弱いから崩壊した。」、「もし上海だったら、こんな惨事にはならない。」などと、武漢の惨事を度外視する風潮もありました。

ところが、2月上旬に上海に戻った際に、直観的に中国のコロナウィルス対策は建前でやっているのではなく、本気でやっているのだと感じました。

中国系の航空会社で上海に渡航したのですが、まず成田のチェックインカウンターで検温されました。それから飛行機に搭乗するときにまた検温、上海の空港の入国手続きの前に検温、空港からタクシーに乗るときも検温されました。
検温は赤外線の非接触型体温計で行うため、体温はかなり低く表示されました。係員の態度が温和なので、検温に対するストレスはありません。
2月上旬の時点で、上海はほぼ封鎖状態でした。まず、居住エリアのゲートが管理されており、住民でも出入りを制限されます。住民以外は立ち入りが禁止されています。
よって、人通りはほとんどなく、商業施設や娯楽施設は営業しておらず、公園すらゲートが閉められているので、出かける場所がないので自動車もまばらでした。
それでも、食料品や日用品が不足することもなく、必要なものを入手するのには困りませんでした。食料品不足でパニックなったり、治安が悪化したりしないのだろうか、と若干心配しましたが、そういう問題にはぶつかりませんでした。

いまは非常に複雑な思いがします。
私は検査をしていませんが、感染していないと思います。自分に症状はないし、この1~2か月内に接触した人にも、私が知る限り症状が出ている人はいません。
ですが、感染リスクは誰にでもあり、「自分と自分が接触した人に症状が出ていない」という形でしか、確認することができません。
つまり、自分と自分の周囲にいる人を実験台にすることでしか、感染有無を確認できないのが現実です。
今回は「風邪染しちゃってごめんね」では済まされず、人に染すかもしれないという精神的なプレッシャーに晒されることになり、そのストレスで病気になってもおかしくないと思います。

現在、中国はコロナウィルスの流行が武漢以外では収束に向かいつつあります。
ですが、中国で感染者数が減ったのは、徹底的に早期発見と隔離を行ったためです。いまのところ、自然に感染者数が減ったとはいえないです。防疫を緩和したら、またぶりかえす可能性もあります。

「2003年のSARS流行のとき、日本はどう対応していたのだろうか?」と、当時を振り返る議論があります。
SARS流行当時、日本の空港の入管の対応は、はっきりいって緩かったです。流行地であった香港から入国した人すら、「こんなに簡単に日本に入国できてしまっていいのだろうか」と戸惑うほどでした。
それでも、日本ではSARSが大流行はしなかったのです。その理由を説明することは難しいと思います。
ただ、「入管が緩かったのに、日本で流行らなかったのは奇跡。」と語られると同時に、「ウィルスは流行るときは流行るけど、流行らないときは流行らない。」という認識が残ったのではと思います。
結果的に、防疫の経験が浅いまま、今日まできてしまいました。

WHOの見解としては、1月の段階ではコロナウィルスに対して比較的楽観的で、「人から人への感染力は弱い」、「SARSほどの脅威ではない」、「季節性のもの」、「持病がなければ重症化しない」、「ほとんどの人は軽症で終わる」、「インフルエンザの方が恐い」などの見解が伝えられていました。

しかし、実際に大量の症例に直面している中国では、WHOの見解には沿わず、極めて厳しい防疫措置を取っていました。

日本に住む年配の家族は、普段マスクをする習慣がないので、最近外出するときはマスクをするように注意しました。
すると、

「家にお客さんが来たときは、マスクをする必要があるの?」

と聞かれたのです。

そのときはっと思い出したのです。中国は、1月下旬に不必要な外出の禁止令を出すと同時に、訪問も禁止すると明確に示していました。
訪問自体を禁止してしまえば、上記のような素朴を疑問を抱く余地がありません。
つまり、中国の対応はかなり用意周到で、ウィルスが流行してから対策の検討を始めたのではなく、「緊急時のオペレーション」として予め制定されていた施策を実施したのだと感じました。
そのため、画一的、強硬的な面もありますが、中国は状況を重くみていたということになります。
なお、中国が実施したオペレーションを日本に当てはめると、最終的には自衛隊の力に頼らざるを得ないということになります。

中国が保護する対象は生物学的な命です。日本人は、災害時などでも、命だけでなく、生活・暮らしを守りたいと考え、ひいては文化まで守ろうとしています。
中国で防疫効果が上がったのは、利便さ・安全と引き換えに、個人の自由とプライバシーを手放したからに他なりません。
これからも、中国では政府の采配のもと、リソースが合理的に割当てられ、悩む余地もない管理社会が構築されていくのだと思います。

たとえ「ムリゲー」であっても、ウィルスの由来が解明されていなくても、中国が何を行っているのかは、先入観なしに理解する必要があるのではと思います。
例えば、
・路線バスでは乗車の際に体温チェックは行われていませんが、密室化を防ぐため、かなり寒くてもバスの窓が開けられています。
・宅急便などは、訪問配達せずに、宅配ボックスに入れるか、エントランスに専用の集中置き場を設けて、配達員との接触を避けています。
・パン屋で買物する際は、支払いはスマホ決済のみとし、お金の受け渡しによる接触を減らしています。また、店内の混雑を避けるため、アプリで注文し、入口で商品を受け取ることを勧めています。

・飲食店は店内での飲食を禁止し、テイクアウトのみとし、決済はQRコードを読み込みスマホで処理します。

・検温使用されているのは、赤外線式の額や手首のかざすタイプの非接触型体温計で、精度はやや疑問がありますが、測定に時間はかかりません。
・地下鉄は乗客がマスク着用し定期的に消毒します。

・エレベーターのボタンを直接触らないように、ティッシュを置いています。使用済みティッシュをどう処理するかという問題があります。

・上海では自分が地下鉄のどの車両に乗車したかを記録するQRコードが導入されましたが、これは実用化が難しそうです。
コメント (4)
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