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コロナの日々を駆け抜けた上海ミュージカル

2023年02月18日 | エンタメの日記
2020年初頭、中国武漢から始まったコロナウイルス感染症。当初中国でもあらゆるエンタメが規制されましたが、上海で一番最初に公演を再開させたのがミュージカルでした。そして、現在に至るまでの3年間、一番しぶとく公演を続けてきたのもミュージカルでした。
2022年に至っては、映画館すらろくに営業できなかった時期でも、上海ではミュージカルが毎日上演されていました
上海で上演されているミュージカルは韓国小劇場向けミュージカル(Kミュージカル)を中国語化した作品が多く、一般の演劇と比べると少人数の出演者で構成される演目が多いです。2人または3人芝居、もしくは出演者6~8名という舞台が多く、小回りがききやすかったのかもしれません。また、劇場が集中する上海市黄浦区の方針で、できるだけ劇場を開けさせていたことも関係があると思います。

3年間続いた中国のゼロコロナ政策は2022年12月上旬に大転換を迎えました。
上海では2022年12月9日(水)にゼロコロナ政策が終了し、日常生活の中でPCR陰性証明を提示する必要がなくなりました。それまでは、地下鉄乗車時は72時間以内のPCR陰性証明、劇場やデパートに入るときは48時間以内の陰性証明が必要だったので、多くの人が3日に1回はPCRを受けていました(PCRは無料でした)。ところが、ゼロコロナをやめた途端、あっという間に感染爆発してしまい、僅か3週間余りで全人口の約8割が感染してしまいました。いわゆる無症状者はほとんどおらず、程度の差はあれど、発熱+咳という症状を伴いました。上海では2022年4月~6月のロックダウン期間に政府が抗原検査キットを箱単位で無償配布していたため、大半の人が検査キットをストックしており、自宅で検査できる人が多かったです。

上海で活動しているミュージカル俳優もほぼ全員コロナに感染しました。
12月11日、12日あたりから俳優の体調不良で中止またはキャスト変更する公演が出てきました。
もうしばらくすると、キャスト変更しようにも対応しきれず、スタッフの確保も難しくなり、ほとんどの公演が中止になりました。

中国ドラマ『ロング・ナイト 沈黙的真相』のミュージカルが2022年12月8日~2023年1月2日という公演日程で上演されていましたが、後半はほぼ公演中止となりました。
ミュージカル『沈黙の真相』(再演) 上演期間:2022年12月8日~2023年1月2日 場所:上海人民大舞台
中国ドラマ『ロング・ナイト 沈黙的真相』のミュージカル版。原作小説に沿っているため、ドラマ版とは異なる部分がかなりあります。


主演(検察官 江陽役):叶麒聖(叶麒圣)(イエ・チーシュン)1990年4月17日生まれ 四川省出身 上海視覚芸術学院卒業 声楽バラティ「愛楽之都」で"最強キャスト”(優勝者)に選ばれる。主役クラスのミュージカル俳優として活躍中。




叶麒聖は痩せてさらにスタイルの良さが際立つ身長180cmの美形俳優です。12月17日も主役として舞台を務め上げました。主役クラスのミュージカル俳優で、この時点でまだコロナに罹っていないのは奇跡的だと言われていました。
『沈黙の真相』はほとんどの役が元々トリプルキャストだったので、キャスト変更で何とか上演にこぎつけていましたが、18日(日)からはどうにもできなくなり、当日になって中止を発表する事態に至りました。12月18日から12月30日までは休演となり、12月31日から公演再開しました。

キャスト変更が発生するとチケット払い戻しの対象になるので、行きたくなければ「キャス変」に乗じて払い戻しを申請することも可能です。ですが、叶麒聖が主役の日だったためか、17日の公演は思った以上に席が埋まっており、8割方入っていました。観客はまだ感染していないか、病み上がりだけど無理して来ているかのどちらかで、多くの観客が咳をこらえながら観ていました。

ミュージカル『陰天』(阴天)再演版 上演期間:2022年12月16日~2023年1月15日 場所:上海共舞台
男性キャスト2人+女性キャスト1人の3人芝居、韓国ミュージカル『死の賛美』(Gloomy Day)の中国語版。


1926年に起きた、日本統治時代の朝鮮の詩人・金祐鎮(キム・ウジン)と歌手・尹心悳(ユン・シムドク)が連絡船「徳寿丸」から投身自殺したという実際の事件をもとにした韓国ミュージカル「死の賛美」(Gloomy Day)の中国語版です。
美しい楽曲や繊細な人物描写はKミュージカルならではの魅力がありますが、この作品を敢えて中国でやる意味があったのかは疑問です。物語は釜山ー下関の連絡船や東京で展開されるため、日本語の台詞が出てきます。キャスト3人は東京で出会い、最初は日本語で会話をしているけれど、そのうち互いが朝鮮人だと気づくというシーンがあります。「あら、あなたも朝鮮語を話せるのね」と言いながら中国語をしゃべりだすので違和感がありました。

『陰天』(Gloomy Day)は初日の2022年12月16日から28日まで出演者の体調不良により休演。12月29日から公演を再開。
再開から2日目である12月30日(金)の公演を観ました。(金祐鎮:叶麒聖、尹心悳:張会芳、謎の男:鐘嘉城)
鐘嘉城はコロナからいち早く回復し舞台に戻ってきた働きものと言われていました。コロナは咳が長引くので、ミュージカル俳優にとっては大変なダメージになるはずです。ですが、舞台上のパフォーマンスを見る限り、歌に目立った影響が出ているようには感じられませんでした。
『陰天』よりも早く再開した作品では、コロナ復帰直後の俳優に合わせて、曲のキーを下げたこともあったそうです。


1月に入ると俳優もスタッフも観客も続々とコロナから回復し、ほとんどのミュージカル俳優が舞台に復帰しました。

ミュージカル『カラマーゾフの兄弟』(卡拉马佐夫兄弟)(第2クール)上演期間:2022年12月21日から2023年1月2日 場所:上海大劇院中劇場
韓国ミュージカル『ブラザーズ・カラマーゾフ』の中国語版。演出:オ・セヒョク、作曲:イ・ジヌク。
日程的にコロナ感染ピークと重なり、前半はほとんど休演になりました。
この作品は上海ミュージカル屈指のキャストが集結と言われており、すごくチケットが取りにくかったのですが、コロナの影響でリセールや追加公演が発生したため、人気の組み合せで観ることができました。


父ヒョードル+兄弟4人という男性キャスト5名のみで構成されるKミュージカルです。ロシア文学「カラマーゾフの兄弟」がベースになっていますが、「父親を殺したのは誰なのか」を兄弟同士または自分自身に問い詰めていくお芝居で、中国版は次男・イワンが物語の軸になっています。上海にすごく適している作品だと思います。

スメルジャコフを演じた張澤(张泽)の歌と演技が素晴らしく、絶賛されました。癲癇の発作の身体表現、仰向けの姿勢でもまったく乱れない高い歌唱力、紅いバラと血がよく似合う美しいビジュアルが圧巻でした。
張澤(张泽)(ジャン・ズー)1994年5月30日生まれ 河南省鄭州出身 上海戯劇学院卒業 身長180cm
常にたくさんのミュージカルに主役クラスで出演しています。歌唱力は若手の中でずば抜けていると思います。演技は役柄や相手役によって振れ幅があるかもしれませんが、スメルジャコフは張澤の実力を存分に発揮できるはまり役でした。3月には中国ドラマ『猟罪図鑑』ミュージカル版の主役を演じます。


ミュージカル「カラマーゾフの兄弟」は再演の可能性がありますが、中国ミュージカルとしてはきわどい表現が多いので、今後の再演では演出が変わってしまうかもしれません。
次男イワン役・劉令飛(リウ・リンフェイ)。1985年11月15日生まれ、上海音楽学院ミュージカル学科卒業。上海ミュージカル界のベテランスター俳優。キャリアが長く男性のミュージカルファンからも支持されています。中国のミュージカル俳優には珍しく、アドリブ、アレンジを果敢に取り入れる俳優と言われています。歌詞を変える(間違える?)ことも多いです。


三男で神父のアリョーシャ役・鐘嘉城(ジョン・ジャーチェン)。1997年7月20日生まれ 上海戯劇学院演劇科卒業  身長183cm 長身で細身の美形俳優。神父の衣装がよく似合います。涙を流す演技が美しいと評判。鐘嘉城は常にたくさんの作品を掛け持ちしています。


『カラマーゾフの兄弟』は全役ダブルまたはトリプルキャストです。コロナの関係でリセール、追加公演が出たため、人気の組合せを観ることができました。 
2023年1月3日公演。フョードル:瞿松 ドミートリイ:王瀚宇 イワン:劉令飛 アリョーシャ:鐘嘉城 スメルジャコフ:張澤


2023年1月6日公演(12月の公演がほぼ中止になったので、急遽追加された3公演のうちの一つ)
フョードル:付翔 ドミートリイ:王瀚宇 イワン:鍾舜傲 アリョーシャ:楊皓晨 スメルジャコフ:張澤
劉令飛と鍾舜傲でイワン役の解釈がかなり異なります。それぞれの魅力がある舞台でした。


1月3日と6日に公演を観ましたが、観客がしょっちゅう咳をしていました。咳をする客は一人や二人ではなく、常に誰かが咳をしている状態でした。
1月に入った時点で上海市民の約8割が感染済みでした。上海で流行していたコロナウイルスはオミクロンBA.5.2系統株と言われており、抗原検査では陰性になった後も、1~2週間くらい咳が続きました。経験上、咳が出るのは熱が下がってからと認識されていたので、咳をしているということは、むしろ陰性になっていることの表れでもあったので、映画館や地下鉄の中で人々は気兼ねなく咳をしていました。その習慣が劇場の中にも持ち込まれており、観客は遠慮を忘れて咳をしており、ひどい観劇環境でした。しかも観客も病み上がりで集中力が落ちているのか、観劇中にスマホを落とす人がやたら多く、1曲あたり平均1人がスマホをぼとりと床に落としていました。舞台に立つ俳優さんたちも大変でしたが、客も普通ではない状態で観劇していました。 

ミュージカル俳優に「後遺症」はあるのか

ほとんどの上海ミュージカル俳優がコロナ(オミクロン)に感染しましたが、基本的には2週間程度でみんな復帰したと思います。
舞台に立っている姿を見る限り、歌やダンス、芝居に支障が出ているようには見えませんでした。 
むしろ、コロナになったばかりなのに、こんなに歌えるのかと驚きました。
上海のミュージカルはほとんどの公演でいわゆる「出待ち」が可能です。「出待ち」では俳優とファンとの軽い交流が行われています。作品によっては劇場の入口のすぐそばで「出待ち」が行われており、通りすがりでも「出待ち」を目にすることがあります。
1月中旬に「出待ち」で俳優がファンとしゃべっているところを見かけました。そのとき、俳優は辛そうにゴホゴホと咳をしていました。
1月にもなれば、さすがに俳優が舞台の上で咳をすることはなくなりましたが、舞台の上では我慢しているだけで、普段はかなり咳が出る状態で公演をこなしているのだと思いました。
「大世界」4階にあるイマーシブ式劇場の前で行われている「出待ち」(SD、ステージドア)。写真を撮ったりチケットにサインをしてもらったりしています。


コロナを跨いだ中国版「スリルミー」(「危険遊戯」)

上海ではミュージカル「スリルミー」が一年を通じて常駐上演されていましたが、2023年3月をもって終了する予定です。
2023年2月現在「スリルミー 箱閉め最終クール」の公演が行われています。上演期間:2023年1月18日~3月12日 会場:上海共舞台


コロナ感染ピークが来る直前、昨年12月11日に「スリルミー」を観ました。日曜日の昼公演で、前クールの楽日でした。
前クールの大千秋楽は本来、初演から「私」と「彼」のペアを組んできたベテランペアの卒業公演になるはずでした。しかし、このベテランペアの一人が体調不良となり、12月11日夜公演に予定されていた大千秋楽は急遽延期となりました。結果的に、昼公演が千秋楽となり、舞台挨拶や特別カーテンコールがありました。

2022年12月11日(日)昼公演終了後の「出待ち」。


舞台挨拶で「私」役の俳優が「大千秋楽が延期になってしまって残念だけど、「彼」の体調が早く回復しますように」と語っていました。
そう語っている俳優自身もコンディションが良くないことが観客にも分かりました。
この時点で、多分コロナに感染していたのです。統計データから逆算すると、このとき劇場に来ていた観客の2、3割もコロナにすでに感染しており、陽性反応が出る前の状態だったと思われます。
中国は厳格なゼロコロナ政策を続けていたため無菌状態にあり、人々はある意味コロナの症状に対して無知でした。
そのため、症状があってもコロナに罹っているという発想に至らず、普通の風邪、喉の不調だと思っていました。無菌状態であり、中国製不活化ワクチンの効果は限定的で、かつ症状に対する警戒心も薄いという無防備な状態が、感染大爆発を引き起こしたのだと思います。

1月13日から上海共舞台では再び「スリルミー」が始まり、千秋楽で体調を崩していたペアも舞台に帰ってきました。
俳優もスタッフも観客もコロナに感染しましたが、みんな劇場に戻ってきました。そして今日もまた、上海では沢山のミュージカルが上演されています。
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