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中国歴代興行収入1位 アニメ映画『ナタ 魔童の大暴れ』(ナタ2)日本語字幕版公開

2025年04月07日 | エンタメの日記
2025年1月末に春節映画として公開された中国アニメ映画『ナタ 魔童の大暴れ』(通称「ナタ2」/原題『哪吒之魔童閙海』)は公開から約2ヶ月で興行収入150億元を突破し、圧倒的な差をつけて中国国内歴代1位となりました。世界歴代興行収入ランキングでも5位となっています。
現在、世界各国でも続々と公開されており、日本では4月4日から日本語字幕版が公開されています。
『ナタ 魔童の大暴れ』(ナタ2)公式サイト https://www.nezha2.jp/index.html

『ナタ 魔童の大暴れ』(『哪吒之魔童閙海』) 監督:餃子(ジャオズ) 中国公開日:2025年1月29日(春節) 言語:中国語、四川方言など 144分 IMAX 2D、3D


中国映画市場で「メガヒット」と呼ばれるには、興行収入50億元(約1000億元)を超えることがひとつの目安です。
日本の場合は、100億円を超えれば大ヒット、メガヒットというには200億円超えが目安かと思います。
つまり、難易度で考えると、日本で200億円突破することと中国で50億元突破することは、大体同じくらいの難易度といえます。
では、150億元はどういう数字かというと、中国においては「これまでのメガヒットの3倍の規模」、日本円に換算すると3000億円という文字通り桁違いの数字です。

なお、「ナタ2」がランキング入りするまでは、世界歴代興行収入ランキングの1位から30位まで米ハリウッド映画または米国との合作映画で占められていました。米国一色で埋められている世界ランキングの中に、突如中国アニメ映画が現れて5位に飛び入りました。


「ナタ2」は2019年に公開された『ナタ 魔童降臨』(「ナタ1」)の続編です。
「ナタ1」も当時50億元超えのメガヒットを記録しました。「ナタ2」は5年越しの待望の続編といえます。
一年を通じて最長の休暇となる春節期間は、中国映画業界にとって最大のかきいれ時です。
中国の映画チケットは約50元(約1000円)と比較的安く設定されており、しかもシネコンがそこらじゅうのモールに設置されており、映画は安価、安全、容易に楽しむことができる庶民にやさしい娯楽です。

「ナタ2」が記録的なヒットを実現できた最大の要因は、「ナタ2」が家族全員で安心して楽しめる映画であることだと思います。
中国は全般的に子どもを大事にする社会で、子どもがいれば子どもを中心に動くことが当たり前とされています。
子どもが喜ぶ映画、或いは子どもに観せたい映画であれば、子ども一人に対して、父親と母親、春節で帰省中であれば、祖父、祖母まで同行します。
1人の子どもに対して、大人4人を動員できるのです。
子ども+親(大人複数)という単位で動員できたので、通常のメガヒットの3倍の規模である150億元という興行収入を達成できたのだと思います。

「ナタ2」は3DのCGアニメ映画です。非常にハイレベルな技術が投入された3Dアニメーションで、革新的な映画だと思います。
一方で、ストーリーは大人から子どもまで幅広く受け入れられるものになっています。
「封神演義」の世界観と登場人物により展開されますが、ストーリーやキャラ設定はオリジナル要素が強いです。
本来中国神話「封神演義」の中の哪吒は、父親との確執、父権主義への抵抗が根幹にありましたが、映画「ナタ2」では親との確執はなく、父親も母親も「子どもを思いやる良い親」として描かれており、神話とは異なっています。


神話の世界設定をベースに、哪吒のトレードマークである風火二輪の炎の赤と、敖丙のバックグラウンドである龍族の水色のコントラストが全体的なイメージの基調とされています。ただ、キャラクターの性格や感情もCGを駆使して描かれているので、常に何かが動いており、流れるような色彩がやや過剰です。静止画面がほとんどないので、かえって記憶に残りにくくなっていると思います。


「ナタ1」は2019年に公開され、その当時も興行収入50億元のメガヒットとなりました。
「ナタ1」は、哪吒と敖丙(アオビン)の友情が物語の中核にあり、奇異な能力を持って生まれ、自身も周囲も持て余し気味の子ども・哪吒が、敖丙という友を得て、友に必要とされることによって成長していくという物語でした。中国ブロマンス要素がかなり強く、哪吒と敖丙の同人誌もたくさんできました。
「ナタ2」ではさらにブロマンス要素が強まるのではと思っていましたが、「ナタ2」はバトル要素が強化され、敖丙との関係はあまり進展しませんでした。
「中国版pixiv」と言われる同人投稿サイト「LOFTER」 検索キーワード”藕饼”


「ナタ2」は中国公開からすぐに世界各国で上映されています。
マレーシア、シンガポール、インドネシアなど中国文化と親和性があるエリアでは、比較的良好な興行収入を上げています。北米、欧州でも公開されていますが、いまのところ劇場に足を運んでいるのは現地在住中の中国人がメインと言われています。
日本の場合、3月14日に中国語音声+中国語・英語字幕版という形で先行公開されました。中国語音声+中国語・英語字幕というのは、中国本土で上映されているのと同じものになります。
その3週間後の4月4日に日本語字幕版が公開されました。
このように、日本語字幕なしで3週間も先行公開するというのは、かなり異例なことです。
しかし、3月14日から公開された中国語音声+中国語字幕版の興行収入は、9日間で1億円を突破したと言われています。
鑑賞者の大半或いはほぼ全員が中国人であったと思われますが、1億円÷2000円で計算すると、約5万人が鑑賞したことになります。

「ナタ2」の日本公開は、「面白映画」(FACE WHITE/面白映画株式会社)という2019年に東京に設立された中国系の配給会社が尽力しています。
この会社がなかったら「ナタ2」がこんなに早く日本で公開されることはなかったし、公開されたとしても一部の大都市の数館のみでの上映になったのではと思われます。
「面白映画」は中国アニメ業界の人材が日本で立ち上げた会社で、彼らは日本に居住している中国人に対するマーケティングルートを持っています。
留学生や在日中国人ファミリーに中国のヒット映画を届けるだけでも十分意味があることだし、中国アニメ映画を日本で浸透させるには恐らく時間がかかるので、たとえ今回日本人の動員があまり振るわないとしても、コンテンツ輸出の一つのプロセスを進めたことには違いありません。
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香港映画「トワイライト・ウォリアーズ 決戦! 九龍城砦」日本でヒット上映中~受け継がれる香港映画

2025年02月07日 | エンタメの日記
香港映画「トワイライト・ウォリアーズ 決戦! 九龍城砦」が1月17日に日本全国の劇場で公開され、公開から4週目に入っても集客数を伸ばしています。また、発声OKの「応援上映」が開催されるなど、久しぶりに香港映画が日本で盛り上がっています。


映画「トワイライト・ウォリアーズ 決戦! 九龍城砦」の制作地は香港で、撮影期間は2021年11月30日から2022年4月までと言われており、コロナのさなかに撮影されたことになります。
香港・中国大陸で2024年5月1日に公開され、香港では約1.08億香港ドル(日本円換算約21億円)、中国大陸では6.85億元(日本円換算約140億円)の興行収入を上げています。
公開当初、中国では興行収入そのものよりも、第77回カンヌ国際映画祭で上映されて大喝采を浴びたとか、米アカデミー賞の国際長編映画賞の香港代表作品に選ばれたなど、久しぶりに香港映画らしい香港映画が国際舞台に躍進しているというニュースで話題を集めました。
日本でも興行収入1億円を突破し、過去5年間に日本で上映された香港映画の中で最も良い成績を残したことが嬉しいニュースとして伝えられています。
制作者のFacebookアカウントでも日本の観客に感謝を伝える言葉が投稿されています。
https://www.facebook.com/KowloonWalledCityMovie

~ 「トワイライト・ウォリアーズ 決戦! 九龍城砦」(中文原題:九龍城寨之圍城)のあらすじ ~
香港に実在した危険なスラム街「九龍城砦」に逃げ込んだ不法移民の男(主人公)は、九龍城砦の中で床屋を営む九龍城砦の白髪まじりの男に助けられる。
孤独な主人公は身分証を手に入れるお金を作るため、九龍城砦にひっそりと身を置き黙々と働く。やがて、過密空間に生きる九龍城砦の訳ありの住民たちの懐の深さに引かれて、主人公は九龍城砦に住みつくことになる。
しかし、親の世代から続く因縁の戦いに否応無しに巻き込まれていく。
仲間、兄弟、父、師、義侠的な男同士の人間関係の中で私欲や裏切りが渦巻く。欲やしがらみを、武侠、カンフー、気功などのアクションで爽快に突破していく映画です。

後半はとくに、香港映画ならではの激しいカンフーアクションシーンが続きますが、「親世代の確執を子どもの世代で精算・昇華すること」がストーリーの軸になっています。
本作の時代設定は1980年代(具体的には1984~85年)です。
その30年前の1950年代(具体的には1957年)に親世代の時代の九龍城砦で勃発した抗争が、30年先まで禍根を残しています。
劇中に出てくる暦や身分証などから推測すると、子ども世代の人物が20代後半から30歳前後で、親世代の人物が50代後半から60代のはずです。

この映画では、親世代の人物を香港芸能界の大スターが演じており、子ども世代の人物は、それほど有名ではない新しい世代の香港俳優陣が演じています。

親世代の俳優陣:
本作の主人公の一人といえる”龍捲風”。九龍城砦内に店を構える床屋の店主で、九龍城砦を取りまとめるボスでありガーディアンのような存在。”龍捲風”は竜巻という意味で、決着シーンでの隠喩となっています。


この役を演じるのは香港映画界を支え続けてきた大スター、ルイス・クー(古天樂)です。ルイス・クーは1970年10月21日生まれで現在54歳。
端正な顔立ちでアクションを得意とし、警官や司令官など正義感の強いヒーロー役を演じることも多いです。

”龍捲風”の義兄弟で九龍城の不動産権利を握る”秋兄貴”。30年前(1957年)の抗争で妻子を陳占に殺害され、その恨みを陳占の息子の命をもって贖わせようとしている。


”秋兄貴”を演じるのは、台湾出身の超有名な歌手であるリッチー・レン(任賢齊 )です。リッチー・レンは1966年6月23日生まれ、現在58歳。1990年代に中華圏全域で記録的なヒット曲をとばし、C-POPを代表する歌手。リッチー・レンの歌は多くの人の共感を呼ぶ親しみやすいもので、本人も気さくで明るいキャラクターです。タレントイメージとしては、ヤクザ役をやるタイプではなく、また、広東語もネイティブではありませんが”秋兄貴”に起用されています。

”大老闆”を演じるのはサモ・ハン・キンポー(洪金寶)。サモ・ハン・キンポーは1949年12月11日生まれ、現在75歳(1952年1月7日生まれの説もあり、その場合は現在73歳)。子ども時代からアクションで活躍し、香港カンフー映画の重鎮であり指導者。


本作では冷血なボス役として激しいアクションを演じていますが、実際にはもう70代です。受賞式典などスクリーンの外では、杖をついていたり、誰かに支えられて現れる姿も見られ、アクションシーンをどうやってやり遂げたのか不思議です。

30年前の抗争で右目を失った”虎兄貴”を演じるのはケニー・ウォン(黃德斌)。1963年4月30日生まれ、現在61歳。


そして、”殺人王”の異名を持ち30年前の禍根の中心となった陳占を演じるのがアーロン・クオック(郭富城)です。


アーロン・クオックは香港芸能の黄金時代を代表するスターの一人。1965年10月26日生まれ、現在59歳。
元祖ダンス・キングであり、ソロ男性歌手として香港芸能ならではのド派手舞台を作り出すエンターテイナーとして多くの人を魅了してきました。俳優業にも精力的に取り組んでおり、多数の賞を受賞しています。

子ども世代の俳優陣:
主人公・陳洛軍。身寄りがなく身分証を持たない不法移民で、マフィアに追われて九龍城砦に逃げ込み、龍捲風らと出会う。


陳洛軍を演じるのはレイモンド・ラム(林峯)です。レイモンド・ラムは1979年12月8日生まれ、現在45歳。
主人公・陳洛軍は30歳前後のはずですが、現在45歳のレイモンド・ラムが演じています。撮影時はいまから3年ほど前とはいえ、年齢的にはギャップがあります。しかし、ギャップをまったく感じさせない演技とアクションを見せています。

ソンヤッ(信一)。九龍城砦のボスである龍捲風から厚い信頼を得ており、主人公のことを気にかける情に厚い若者。


ソンヤッ(信一)役を演じたのはテレンス・ラウ(劉俊謙)、1988年9月26日生まれ、現在36歳。
信一は陳洛軍よりも目を引くキャラクターで、色気も華もあり主人公と言われてもおかしくないルックスです。
テレンス・ラウは本作で注目を浴びましたが、それほど有名な俳優ではなかったと思います。2021年に公開された映画『梅艶芳』の中でレスリー・チャン役を演じて知名度を上げ、最近では台湾Netflixドラマ「次の被害者」シーズン2に出演しています。

セイジャイ(四仔):医学の知識を持つ腕っぷしのよい青年。顔に傷跡がありマスクで隠しており、主人公のために敵と闘う。義理堅く理知的で頼もしい味方。

四仔を演じるのはジャーマン・チョン(張文傑)。1985年12月3日生まれ、現在39歳。多くの映画でアクション・武術指導を担当しています。これまであまり俳優としては表に出てきていないのではと思います。

サップイー(十二少)。”虎兄貴”を慕う九龍城出身の青年。主人公・陳洛軍に過去の自分の姿を重ねて、命をかけて共闘する。

十二少を演じるのはトニー・ウー(胡子彤)。1992年4月16日生まれ、現在32歳。野球選手だったが2016年に映画『点五步』に抜擢されて俳優になり、その後多くの香港映画に出演しています。
十二少は主人公を含めた4人の青年たちの中でも最も少年らしさを残すルックスをしています。

4人のキャラクターの個性や役割が非常に明確で、ビジュアルもうまくはまっています。


主役の陳洛軍を演じたレイモンド・ラム(林峯)は香港では知らない人はいないほどのスター俳優で、華やかなコンサートを開く歌手でもあります。
レイモンド・ラム(林峯)2024年9月マカオコンサートのポスター


レイモンド・ラムは実際には現在45歳、ルイス・クーは54歳です。
役柄としては親世代と子世代にあたる関係ですが、実年齢は10歳も違いません。
しかし、香港芸能人としてみると、レイモンド・ラムとルイス・クーはやはり世代が違うスターといえます。
ルイス・クーは1990年代から多くの作品に出演し、2010年以降香港映画が低迷していく中でも、意欲的に映画に出演し主役スターとして香港映画を支え続けている人です。香港返還前にデビューしており、広東語で育っているため北京語があまり流暢ではないと認識されています。
一方、レイモンド・ラムが有名になったのは2000年代後半からです。
レイモンド・ラムは中国福建省アモイ生まれで、父親が福建省の不動産業で成功した裕福な家庭の出身で留学歴もあります。広東語も英語も北京語も流暢で、身長も180㎝と香港芸能人の中では長身です。

レイモンド・ラム以外の若手役を演じた3名は、それほど有名な俳優ではありません。
ですが、本作をきっかけに、子ども世代の人物を演じた香港俳優陣はこれからの香港映画を引っ張る存在になるのではと思います。
そして、親世代の人物を演じたベテランスター俳優陣も、まだまだ香港で活躍してくれるはずです。

「トワイライト・ウォリアーズ 決戦! 九龍城砦」は三部作として作られており、今回公開されたのは第一部で、この後、第二部、第三部が控えています。
第二作「龍頭」の舞台は1950年代、禍根となった抗争の主要人物である雷震東、その兄弟分で”殺人王”として恐れられた陳占、そして龍捲風がメインとなるお話のようです。
第三作「最終章」は時間が進み、九龍城砦が取り壊された後の時代が舞台で、陳洛軍、信一、四仔、十二少ら4人が九龍城砦を失った後、新たな戦いに立ち向かう・・・という物語とみられます。

香港にかつて存在した九龍城砦は治安の良くない場所だったと言われています。
ですが、実際には不法滞在者や犯罪者ばかりが寄り集まっていたのではなく、家賃が安くて立地が良いという理由で短期的に賃貸居住していた人の割合が高かったという説もあります。
「トワイライト・ウォリアーズ 決戦! 九龍城砦」のエンディングでも、九龍城砦の廊下の壁に「水は大切に使いましょう」と書かれているなど、生活感溢れるひとつの「共同住宅」としての一面が描かれています。

中国広東省の広州や深センなどにも九龍城砦に相当するような、外の人からはスラムと呼ばれる異空間的なエリアがつい最近までありました。一部はまだ存在していると思います。
しかし、それらは九龍城砦と違って、物理的に取り壊されると同時に消え去り、回顧されることもほとんどありません。

香港九龍城砦が解体から30年余りを経ても、いまなお語り継がれるのは、九龍城砦が政府の統治が及ばない空白地帯であったというロマンに魅せられた人々が、探検記を残し、多数の創作物を生み出したからだと思います。
当時の独特の香港文化との相乗効果で九龍城砦は野次馬も含め多くの人を惹きつけ、解体されたいまも創作のインスピレーションを与え続けています。それが、九龍城砦とその他の世界の”スラム”との違いです。

●音楽を担当する川井憲次
「トワイライト・ウォリアーズ 決戦! 九龍城砦」の音楽は川井憲次が担当しています。
川井憲次はサントラ音楽界の大御所で、ドラマ、アニメ、映画、ゲームなど幅広いジャンルの作品を手掛けています。
日本国内ではNHK大河ドラマ『花燃ゆ』のサントラの評価が高いですが、海外では「攻殻機動隊」をはじめとする押井守監督とのコンビ作や、「信長の野望 Online」「機動戦士ガンダムOO」「Fate/stay night」などで知られています。
また、中華圏では、川井憲次が手掛けた香港映画『セブンソード』(中国語タイトル「七劍」、ツイ・ハーク監督)の戦いのシーンの音楽がものすごく有名です。2022年放送の中国大作歴史ドラマ『風起隴西』にも川井憲次が起用されていますが、中華圏の映画・ドラマ監督にとって川井憲次は憧れのサントラ音楽家なのだと思います。
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映画を超える市場に成長した「中国ショートドラマ」(短劇)~世界共通フォーマットになるか

2025年01月12日 | エンタメの日記
中国ではショートドラマ(中国語でいう「短劇」)が流行っています。ショートドラマは1話あたり約2分、全部で100話前後から構成されるものが多く、スマホ視聴に合わせてタテ型で作られているのが大きな特徴です。
近年の中国ショートドラマ市場は従来型のテレビ・ウェブドラマ、ひいては映画市場をも上回るほどの勢いがあり、2024年に配信された新作ショートドラマは約3万6400作品にも上ると言われています。

●中国ショートドラマの特徴
・スマホで視聴することを前提としている。

まず、映像がスマホのタテ型視聴に適した比率で作られています。スマホという小さなデバイスに合うように、登場人物のアップが多いです。
また、セリフは比較的短く、映像に中国語で大きな字幕がついています。
そのため、音声を出さない(イヤホンをしない)状態で視聴しても、内容を理解することができます。

アップが多いことに加えて、誇張された演技をするため分かりやすいです。下のスクリーンショットの女性のセリフは「よく覚えておきなさい」といったかんじ。


・通俗的で低予算、分かりやすくスカッとするストーリー

俗っぽくて誰にもすぐ分かる話が多いのがショートドラマです。
裏切り、逆襲、一攫千金、玉の輿、浮気、会社倒産、不治の病、交通事故などなどドラマチックな要素がてんこ盛りです。
過剰にステレオタイプなキャラ設定も多く、大金持でイケメンだけど横暴な総裁(CEO)はショートドラマを代表する常連キャラです。ありえないほど意地悪な姑や上司、ダメ男、虐げられるヒロインなどもよく出てきます。
また、1秒で人物背景を理解できるように、「◯◯グループの後継者」や「◯◯市一の富豪の令嬢」といった肩書がキャラ名の隣に大きな文字で表示されます。

そもそも、ショートドラマはタイトルを見ただけでどういう話なのか大体分かるようになっています
たとえば「陰キャのオレが大学ではモテモテになった話」「シングルマザーが名門財閥にお嫁入り」といったテイストのタイトルが多いです。
普通の一女性社員がオーナー御曹司の社長を射止めるとか、自分を踏みつけにした男性を見返すなど、弱い立場にある者が強者に逆襲するという展開が多く、日頃鬱憤やストレスを溜めている大衆視聴者をスカッとさせることが狙いです。

・中国ショートドラマのノウハウ

Netflixドラマは、視聴者に「一気見」をさせるために、視聴者の慣習をデータ分析して、どこでクライマックスを入れるべきか、何分間に一度の割合で謎をほのめかす伏線を入れるかなど、視聴者を引き付けるためのノウハウを最大限に活用してドラマ制作をしていると言われています。
同じように、中国ショートドラマにもノウハウがあります
それは、2分という短い尺の中に必ずクライマックスを入れること、そして最後の20秒くらいは「続きは一体どうなるんだろう」と興味を掻き立てるようなシーンを入れることです。
つまり、中国ショートドラマはフォーマットがすでにできあがっています。

●2024年の傾向 課金制から無料化へ

1話2分以内のショートドラマは、おおむね100話以内で構成されており、1作の合計時間は3時間程度です。
当初は、最初の10話くらいは無料視聴できるけれど、その先のエピソードを視聴するためには課金しなければならないというシステムを採用していました。
先が気になってつい課金してしまい、1話あたりの課金額は安くても話数が多いので積み重なれば相当な金額を課金してしまう、もしくは課金が面倒くさくてサブスク会員に登録してしまった・・・となるように、巧みに課金誘導していました。

しかし、2024年以降、中国ショートドラマは課金制から無料に移行する趨勢にあります。
それを主導しているのが、ショートドラマ専門アプリ「紅果」です。
「紅果」は中国テック企業の大手、TikTokの中国親会社でもあるバイトダンス社が運営するアプリで、「紅果」では大量のショートドラマを「永久無料」として提供しています。アプリの名称も「紅果免費短劇」で「無料」であることを強調しています。
ショートドラマ専用アプリ「紅果」トップページ


●ショートドラマのバリュー

中国ショートドラマ市場の拡大は社会的な注目を集めており、2024年11月には『中国ショートドラマ業界発展白書(2024)』が発表されました。
同白書によると、中国ショートドラマの市場規模は2024年に500億元(約1兆円)に達し、中国映画市場を超えたと言われています。
また、ショートドラマの視聴者数は5.76億人、中国ネットユーザーの52.4%を占め、1日あたりのショートドラマ視聴時間は30分を超えると分析されています。

ショートドラマが流行り始めたのは2019年頃で、少なくとも5年が経過しています。
この間、ショートドラマという市場は急速に成長しましたが、ジャンルの認知度を飛躍的に高める作品や俳優が登場したわけではないように思います。
ジャンルの社会的な認知度を高めた作品というのは、例えば、中国ドラマなら『還珠格格』や『甄嬛伝』(宮廷の諍い女)、オンライン小説なら『盗墓筆記』、SF小説なら『三体』、中国アニメなら『魔道祖師』など、社会現象を引き起こし、そのジャンル自体を牽引する力を有する作品のことです。
ですが、ショートドラマには、それに該当するものがないように思います。
何か画期的な作品や俳優が出てきたからショートドラマが注目されるようになったのではなく、スマホでタテ型視聴しやすいこと、尺が短く「スキマ時間」をつぶすのに都合がよいこと、通俗的でスカッとするといったジャンルの特性が、いまの社会情勢にマッチしたからだと思われます。

そういう意味でいうと、日本でいま流行っている無料で読めるスクロール漫画によく似ています

●「第6回海南島国際映画祭ミニドラマ・ショートドラマ世界サミット」

2024年12月、中国南端にあるリゾート地・海南島で行われた映画祭の一環として「ミニドラマ・ショートドラマ世界サミット」が開催されました。
このサミットで、ショートドラマの人気作品、人気プラットフォーム、人気俳優がランキング形式で表彰されました。
このランキングが今後権威を持つことになるのは分かりません。現時点では「ショートドラマ俳優」という肩書はステイタス化されておらず、ショートドラマの人気俳優として表彰されることが、俳優にとってどんな意味を持つのかもまだ分かりません。

ショートドラマ最優秀男性俳優 1位 申浩男(シェン・ハオナン)1996年10月29日生まれ、四川電影学院出身。普通のドラマにも出演していますが、ショートドラマの出演作が非常に多く、ビッグデータ、投票、審査員評価などを総合して1位に輝きました。


ショートドラマ最優秀女性俳優 1位 王格格(ワン・ゴーゴー) 1997年生まれ、西安出身。2021年頃から多くのショートドラマに出演し、近年では大量の作品でヒロインを演じています。


ショートドラマというジャンルの特性上、俳優が本来有する演技力を存分には発揮できていないかもしれません。ですが、二人とも申し分のないスタイル、ルックスの持ち主です。この二人は多くのショートドラマで共演しています。
王格格と申浩男。10作品以上のショートドラマで共演している。
  

●ショートドラマに対する中国当局の規制

今後ショートドラマがさらに勢いを増せば、関連当局からの規制も厳格化されると予想されます。2024年の時点では、制作費に応じて届出を必要とするというルールになっており、低予算であればあるほど規制が緩く設定されています。よって、制作費を抑えることで規制を回避できることになります。

中国でショートドラマがこれほど増加したのは、従来型のテレビ・ウェブドラマに対する締め付けの反動ともいえます。
テレビドラマ・ウェブドラマに対する中国当局の規制・センサーシップは年々厳しくなっており、内容的な制約も大きいです。
また、従来型ドラマの制作費は高騰しており、大作でなければヒットが見込めないので、投資リスクも大きいです。
さらに、キャンセル文化が蔓延しており、出演俳優がスキャンダル・不祥事により炎上すると、放送できなくなるリスクもあります。

しかし、ショートドラマであれば、作り自体がチープで有名俳優を起用する必要もないので制作コストを低く抑えられます。
センサーシップもそれほど厳しくありません。なおかつ、人気俳優に依存する必要がないので、配信プラットフォームが強い権限を持つことができます。
しかも、人々がドラマ視聴に割く時間は減少傾向にあり、ドラマを観る忍耐力もどんどん落ちているので、ショートドラマの「軽さ」を好む人が増えるのは不思議なことではありません。

このような背景からみれば、中国だけでなく、日本を含む世界中のエンタメ市場で「ショートドラマ」が普及する可能性があります。

中国ショートドラマは、昼ドラまたはレディコミ風のどぎついテイストの作風が圧倒的に人気です。キスシーンやベッドシーンも多く、いきなり告白したり別れたり、不倫や略奪といった直情的なストーリー展開が娯楽性を盛り上げています。
これは、中国のテレビドラマやウェブドラマが当局からの厳しい規制を受けて、お上品になりすぎてしまったことの反動です。

中国ショートドラマの流行は、中国独自の閉鎖的かつ巨大なネット社会に支えられており、ショートドラマのクオリティ自体を評価することは難しいです。
ただし、視聴者の注意を引き付けるためのドラマ作りのノウハウは精錬されており、このノウハウをうまく活用すれば、ヒットを飛ばせるチャンスのあるジャンルであるといえます。
「ショートドラマ」というフォーマットは日本でも普及する可能性は高いと思います。
そのとき、中国と同じようなテイストになるのか、それとも日本独自の作風が確立されるかは分かりませんが、「ショートドラマ」が世界共通ジャンルになれば、海外展開もしやすくなるかもしれません。
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2024年の中国映画市場~数字を稼ぐコメディ映画俳優沈騰(シェン・タン)

2024年11月02日 | エンタメの日記
現在開催中の東京国際映画祭に合わせて、今年も「東京・中国映画週間」が開催されました。
「東京・中国映画週間」では『黙殺』『抓娃娃(じゅあわわ)』『デクリプト(解密)』など2024年に公開された新作も多く上映されています。
2024年が終わるまであと2ヶ月ありますが、中国の映画興行は、1~2月の旧正月(春節)連休と10月の国慶節連休が勝負で、その時期に期待度の高い作品をぶつけてくることが多いです。11~12月は閑散期にあたるので、2024年度の興行収入TOP10は11月の時点でほぼ確定している思われます。

2024年中国映画興行収入TOP10(2024年11月1日現在の累計興行収入)

1位 熱辣滚燙(『百円の恋』の中国リメイク版)34.6億元(約690億円)
2位 飛驰人生2  33.98億元(約680億円)
3位 抓娃娃(じゅあわわ)33.27億元(約660億円)
4位 第二十条  24.54億元(490億円)
5位 熊出没・タイムツイスト 20.06億元(約400億円)
6位 黙殺    13.51億元(約270億円)
7位 志願兵・存亡之戦  11.66億元(約230億元)
8位 ゴジラxコング 新たなる帝国 9.56億元(約190億元)
9位 君たちはどう生きるか  7.91億元(約158億円)
10位 エイリアン:ロムルス  7.86億元(約157億円)

2024年の中国映画市場について
1位から7位が中国映画で、8位と10位がハリウッド映画、9位が日本アニメです。
上位10作のうち、アニメ映画が2作を占めています。5位の「熊出没」は中国の人気アニメシリーズ映画版で、9位の「君たちはどう生きるか」は宮崎駿監督作品です。

興行収入からみると、2024年の中国映画市場は全般的に不調です。
中国映画は振るわず、それ以上にハリウッド映画の落ち込みが激しいです。
そんな中、相対的にいうと日本アニメ映画は健闘しています。数字からいうとそこまで突出しているわけではないのですが、巨額の費用を投じて制作された中国大作映画が当たらなかったり、ハリウッド人気シリーズの続編がまったく振るわなかったりする中、日本アニメは一定数のファンを呼び込むことに成功しています。この現象は中国に限ったことではなく、米国や韓国の映画市場でも同様に日本アニメの健闘がみられるのではと思います。

2024年に中国で劇場公開された主な日本アニメ(中国興行収入順)
『君たちはどう生きるか』 7.91億元(約158億円)
『劇場版 SPY×FAMILY CODE: White』2.93億元(約58億円)
『名探偵コナン 100万ドルの五稜星』2.86億元(約57億円)
『ハウルの動く城』 1.67億元(約33億円)
『映画ドラえもん のび太の地球交響楽』1.3億元(約26億円)
『劇場版ハイキュー!! ゴミ捨て場の決戦』1.29億元(約25億円)
『ルックバック』 3664万元(約7億円) 10月26日に公開されたばかりなので、まだ伸びる可能性が高いです。
『劇場版ブルーロック -EPISODE 凪-』 3344万元(約6億円)

宮崎駿作品のほか、 SPY×FAMILY、コナンなど対象年齢の幅が広いメジャー作品が健闘しています。

2024年興行収入1位となった『熱辣滚烫』は、安藤サクラ主演の映画『百円の恋』の中国リメイク版です。
『熱辣滚烫 YOLO 百元の恋』は、人気コメディエンヌの賈玲(ジア・リン)が『你好,李焕英』に続いて監督・主演を務めた作品で、ふくよかな体型がトレードマークの賈玲が「50kgの減量をして挑んた作品」という触れ込みで大宣伝がなされました。
作品の出来栄えの評価は分かれましたが、いま中国のネット上ではフェミニズムが強いので、この映画の批判はできない雰囲気がありました。賛否はあるものの話題作りに成功し、『熱辣滚烫 YOLO 百元の恋』は中国で2024年興行収入1位(34.6億元=約690億円)というヒットを記録しました。

2位と3位につけているのはコメディ映画です。その主演俳優は2作ともに沈騰(シェン・タン)です。
沈騰(シェン・タン)は中国で非常に人気のある俳優で「开心麻花」というコメディ舞台集団の出身です。「开心麻花」は舞台から映画制作を手掛ける大手ブランドに成長しており、その看板俳優として大きな貢献を果たしたのが沈騰(シェン・タン)です。

沈騰(シェン・タン) 1979年10月23日生まれ、黒龍江省チチハル出身、身長180cm、解放軍芸術学院卒業。「开心麻花」のコメディ舞台劇で人気を博し、中国版紅白「春晩」で風刺の効いたコントを演じて注目を集める。2015年以降は『夏洛特烦恼』を皮切りに、主演俳優または監督として現代コメディ映画を次々とヒットさせる。「开心麻花」の盟友・馬麗とのコンビ作品が多い。


2024年中国映画興行収入3位『抓娃娃(じゅあわわ) ー後継者養成計画ー』は「東京・中国映画週間」でも上映されました。


主演は沈騰(シェン・タン)と馬麗(マー・リー)で、このコンビが夫婦役を演じ、年を取ってから授かった息子の育成のために奇想天外な仕掛けをするという現代風刺コメディです。


この映画では、中国人の子育てに投入される過大なパワーと教育熱、親と子の愛と束縛、一人っ子政策の緩和・終了により生じた異常に年の離れた兄弟など、リアルな中国社会を映し出しています。
日本人からみると、親が子どもにそこまで執着することに誰もが共感できるわけではないので、風刺として笑えない部分もあるかもしれません。
ただし、脇役まで味のある俳優が配置され、洗練されたカメラワークと高い編集技術でテンポよく話が進み、いまの中国映画はハイレベルの映像制作力を備えていることがよく分かる作品です。
息子役を演じるのは中国ドラマ「バッド・キッズ」(2020年放送)で少年・厳良(イェン・リャン)役を演じた史彭元です。
2005年生まれの史彭元は「バッド・キッズ」の少年役で一躍有名になり、その後、多くの芸能関係者を輩出する名門大学・中国伝媒大学に進学し、現在は第一線の若手映画俳優として、順調にキャリアを重ねています。
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井柏然(ジン・ボーラン)の元相棒・付辛博(フー・シンボー)〜「BOBO」デビューから17年、再ブレイク中の天性のイケメン

2024年09月14日 | エンタメの日記
芸能には多くの形態がありますが、いまの中国ではドラマの勢いが強く、アイドルやモデルとしてデビューしたタレントが長く芸能活動を続けていこうと思ったら、俳優にシフトすることを目指すのが当たり前になっています。これは中国に限らず、日本や韓国でも同じだと思います。
日本や韓国では芸能界の入口として「アイドル」という形態の芸能が確立されていますが、中国ではオーディション番組の機制強化などにより、アイドルを取り巻く環境は厳しくなっています。現役中国アイドルの筆頭人物であった蔡徐坤(ツァイ・シュークン)がスキャンダルにより社会批判を浴びて表舞台から退いたことも影響しています。アイドルは、オンラインに比重を置いたり、バーチャル化したり、地下アイドル化したりして活動が見えにくくなっています。

とはいえ、中国芸能界でアイドルとして成功したケースがないわけではなく、「中国のアイドル」を作り出そうという動きが盛んだった時期もありました。
2000年代には『超級女声』(Super Girls)を初めとするオーディション番組が大流行し、視聴者の人気投票により歌手デビューする「アイドル」が多数生まれました。
多々あるオーディション番組の中でも斬新だったのが、2006年と2007年の2シーズンに渡って放送された『加油!好男児』(上海東方衛視(SMG)制作)です。
他のオーディション番組がデビューを目指して歌唱パフォーマンスを競い合うことをテーマとしていたのに対し、『加油!好男児』は何を競うのか、何を基準に評価するのか明確な指標がありませんでした。番組名からすると、「好男児」を選ぶというコンセプトであったと思われますが、そもそも「好男児」とは具体的にどういう存在なのか?という問いに誰も明確な答えを出せず、「「好男児」とは何なのか皆で一緒に考えていきましょう」と司会者が提案するという、いまでは考えられない大らかな番組でした。

『加油!好男児』では、歌・ダンス・演技などのスキルに対して厳しい要求が課せられず、単なるイケメンコンテンストとどこが違うのだという声もありましたが、天性のアイドル性を持つ男の子が視聴者の投票によってどんどん勝ち進むという現象がみられました。
結果的に、この番組の出場者から多くの人気俳優が生まれました。

2007年(第2シーズン)の優勝者は、現在俳優として第一線で活躍している井柏然(ジン・ボーラン)です。
2位になったのが、喬任梁(チャオ・レンリャン/kimi)、3位が付辛博(フー・シンボー)でした。

井柏然(ジン・ボーラン)は『加油!好男児』参加当時18歳の学生で、爽やかなルックスと歌の上手さで注目を浴び、優勝に至りました。
1989年4月19日生まれ、瀋陽出身の井柏然は、180㎝を超える身長でスタイルがよく、中国北方人特有の色白であっさりと整った顔立ちでした。番組の中では最年少に近く、周りのお兄さんたちに守られていましたが、パフォーマンスでは勝負に強く、ポテンシャルからみて優勝するのも納得でした。

2位に入った喬任梁(チャオ・レンリャン/kimi)は地元・上海出身でコミュ能力が高く、元高跳び選手で学生時代にバンドを組んでいた人気者で、髪は長めでおしゃれが好きというキャラの美形でした。

3位の付辛博(フー・シンボー)は、1987年3月5日生まれ、西安出身、番組参加当時20歳でした。
身長183cm、細身の恵まれたルックスの持ち主ですが、歌、ダンス、演技のいずれにおいても、これといって突出したスキルはなく、顔立ちがすごく華やかだったわけでもありません。ですが、雰囲気がかっこよく、視聴者の女の子たちから強い支持を集め、3位に入りました。
当時20歳だった付辛博は、芸能活動歴があるわけでもなく、芸術系の学校に在籍しているわけでもなく、芸能人になりたいというだけの白紙に近い状態でオーディション番組に参加していました。
それでも人の目に止まり、熱狂的なファンを獲得するというのは、天性のアイドル性があったからです。独特の雰囲気を持つイケメンでした。
付辛博は音楽的にも素人に近い状態ながら、番組審査員である有名音楽プロデューサーに、「君のことをプロデュースしてみたい」と言わしめるほどの何かがありました。

番組終了後、井柏然と付辛博は大手芸能事務所である華誼兄弟と契約し、二人の名前を合わせて命名された「BOBO」(ボボ)というユニットを組んで歌手デビューしました。
「BOBO」としてCDデビューしたのは2007年10月なので、夏に番組が終わってからその熱が冷めやらぬうちにデビューできたといえます。
BOBOデビューCD「光栄」2007年10月発売。左が井柏然(ジン・ボーラン)、右が付辛博(フー・シンボー)。


振り返ってみると、中国で男性アイドルユニットとしてデビューしたのは、後にも先にも「BOBO」だけだったように思います。
男性二人ボーカルのデュオというジャンルのアーティストはいますが、2人組の男性アイドルユニットは珍しいです。
それだけ井柏然と付辛博のポテンシャルが高く買われていたともいえるし、当時は男性2人のアイドルユニットという形式が持つリスクを認識していなかったのかもしれません。
「BOBO」が活動したのは実質2年余りで、2010年にはソロ活動に移行し、2012年には事務所との契約満了により正式に解散しています。

「BOBO」の二人は2010年に公開された『全城熱恋』というオムニバス形式の映画に出演しており、井柏然(ジン・ボーラン)はあるエピソードの主役を務め、相手役ヒロインはバラエティでブレイクする前のアンジェラ・ベイビー(楊穎)でした。
井柏然は派手な顔立ちではありませんが、スタイルがよく清潔感のあるルックスで、演技のセンスがありました
比較的早い段階で音楽活動を離れて俳優業に専念し、いつの間にか第一線で活躍する映画俳優となっていました。

俳優として認められるきっかけとなったのは、2015年に公開された映画『失孤』です。
『失孤』は2歳のときに連れ去られた息子を十数年に渡って探し続けている中年男性(アンディ・ラウ)と、幼い頃に連れ去りにあった青年(井柏然)が出会い、失われた家族と故郷を探すという中国の幼児誘拐(人身売買)をテーマにした社会派映画です。井柏然はこの作品での演技が高く評価され、若手演技派俳優として認められるようになります。


同じく2015年にはCGファンタジー映画『捉妖記』も公開されます。
『捉妖記』は『失孤』とは違って大衆的な娯楽映画です。井柏然は主役を演じますが、妖怪を妊娠して出産する(口から出産)というチャレンジングな役を演じました。


2018年には台湾女優・歌手であるレネ・リウ(劉若英)の監督作である『僕らの先にある道』(后来的我们/Us And Them)で主役を演じ、この頃には主役級の人気俳優としてのポジションが確立されていました。


恋愛、人間ドラマのほか、映画『風中有朶雨做的云/シャドウプレイ』(2019年公開)、ドラマ『新生』(2024年配信)などクライムサスペンスの出演も多いです。

企業広告の出演も多く、2017年から2021年にかけてはユニクロ中国のイメージキャラクターを務めていました。


「BOBO」の相方であった付辛博(フー・シンボー)も、「BOBO」解散後、やはり俳優活動にシフトしていきます。井柏然のようにすぐに主役級の俳優としてキャリアを積めたわけではありませんが、活動が途絶えたことはなく、ドラマやバラエティにコンスタントに出演しています。

付辛博にとって転機となったのは、2016年に恋愛バラエティ『如果愛 Perhaps Love 第3シーズン』に出演し、恋愛バラエティで共演した女優(穎児)と結婚したことです。結婚から間もなく女の子も生まれ、家族のショットをSNSで公開したりしてインフルエンサー的な露出も増えていきました。

デビューから17年が経ち、妻子もいる37歳になりましたが、ここ数年は活動の幅が広がり再ブレイクしています。
リアリティ・ショー『追光吧!哥哥』(2020年)、『披荆斩棘(Call Me By Fire)シーズン4』(2024年)など人気番組に参加し、今年の5月に放送スタートした古装ドラマ『慶余年 第2季』で演じた南慶皇子役が好評で、俳優としても評価が高まっています。


付辛博はデビュー当時から物憂げというか、自己陶酔的というか、独特の怠惰な雰囲気を感じさせるビジュアルで、そこに惹かれるファンが多かったです。
共演女優と結婚し、子供の存在もオープンにしているいまでも、その独特の気質は健在で、天性のアイドル性は失われていません。


惜しまれるのは、期待されていたドラマ『光淵』が2023年2月にやっと配信されたものの、全30話のうち8話まで配信された時点で配信停止になってしまったことです。
『光淵』は中国の女性作家Priestの小説『黙読』を原作とするドラマです。Priestは有名な耽美小説作家で、ドラマ『鎮魂』の原作小説の作者でもあります。
『黙読』は犯罪心理・耽美小説で、実写ドラマ化には強い期待が寄せられていました。付辛博と張新成のダブル主演というのは意外でしたが、張新成は演技に定評があり、公開された2人のビジュアルのレベルも高かったので、公開されれば二人ともさらに人気が出るだろうと思われました。


もし『光淵』がまともに公開されていたら、付辛博はもっとメジャーな俳優になっていたはずなので、配信停止は本当に惜しまれます。
しかしながら、付辛博はデビューしてからずっと、タレントして「惜しい」とか「もったいない」などと言われ続けていたような気がします。それでも今も中国芸能界の荒浪を乗り越えて生き残っており、しかも上昇気流に乗ってイケメンぶりを発揮しています。
これは中国の人材の豊富さと市場の大きさの反映なのかもしれませんが、『加油!好男児』出身のタレントが活躍し、天性のアイドル性が再発見されていることを嬉しく思います。

2007年7月第4週の「上海電視」
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中国タレントリアリティ・ショー「披荆斩棘~Call Me By Fire」シーズン4~大活躍のMIYAVIとAKIRA

2024年08月08日 | エンタメの日記
8月2日から中国湖南衛視(マンゴーTV)の人気バラエティ番組「披荆斩棘」(Call Me By Fire)のシーズン4が始まりました。
番組名である「披荆斩棘」は「厳しいいばらの道を切り拓く」という意味の中国四文字熟語(成語)で、過去に一定の成功を収めた男性芸能人が、中年と呼ばれる年齢に入ったいま再ブレイクを目指して奮闘するというテーマのリアリティ・ショーです。
中国湖南衛視(MangoTV/マンゴーテレビ)が巨額の予算を投じて制作する人気番組で、毎年女性版(「乘风破浪的姐姐」(荒波の中を進むお姉さん))と男性版(「披荆斩棘的哥哥」(厳しいいばらの道を切り拓くお兄さん)が交互に作られており、男性版は今回でシーズン4となります。

この番組に挑戦する「お兄さん」として、日本のアーティストMIYAVIとEXILEのAKIRAが参加しています。
8月2日(金)に本放送が始まりましたが、第1回目は参加者34名を17名の「お兄さん組」と17名の「弟組」に振り分けて、パフォーマンスバトルを行うというものでした。
MIYAVIとAKIRAは「お兄さん組」に振り分けられ、二人でギター+ダンスのパフォーマンスを披露しましたが、このパフォーマンスが絶賛されています。
二人の熟練したパフォーマンス、男らしいかっこよさは最近の若い男性タレントにはないもので、完成度の高いプロならではの舞台は高く評価されました。


番組公式Youtubeチャンネル (英語字幕付き)


ロックギタリストであるMIYAVIは2000年代から積極的に上海で音楽活動をしていました。
新天地ARKでライブを行ったり、上海のメディアにもよく登場しており、活動の拠点を上海に置いていた時期もあるのではと思います。その当時から中国語を熱心に勉強しており、今回の番組でもきれいな発音の中国語を話し、視聴者を驚かせています。そのうえ英語も流暢なので、「英語も中国語もできる超ハイスペックなギタリスト」として、好印象を与えています。
日本の番組に出演してもMIYAVIが英語や中国語を披露するシーンはあまりないので、このような海外の番組に出演することは、普段は表に出てこない魅力が発揮できるまたとないチャンスといえます。
 

もう一人の日本人参加者はEXILE AKIRAです。
AKIRAが2019年に「台湾一の美女」リン・チーリンと電撃結婚したというニュースは中華圏を震撼させました。
リン・チーリン(林志玲)は中華圏でものすごく有名な女性タレントです。身長175㎝でスタイル抜群、清楚で華やかな顔立ちの美人で、両親は成功した企業家で家は裕福、高校からカナダに留学してトロント大学を卒業し西洋美術と経済学の二つの学位を取得したという肩書の持ち主です。
モデルとしてスカウトされて芸能界入りし、CMモデル、司会、女優へと活動の幅を広げていきました。
女優として演技の評判は全般的によくありませんでしたが、「101回目のプロポーズ」の中国映画版(101次求婚)のヒロインなど、清楚で知的な役柄は美貌がふんだんに発揮され大スクリーンに相応しい女優さんだったと思います。
1974年生まれのリン・チーリンは40代に入っても変わらぬ美貌でしたが、なかなか結婚しませんでした。
20代の頃は「花より男子」の台湾版ドラマ「流星花園」で道明寺司役を演じたイケメン俳優ジェリー・イェン(言承旭)と恋人関係にあると言われており、それがイメージとして浸透していました。

ジェリー・イェンは本当にかっこいいタレントでした。
「花より男子」を最初にドラマ化したのは実は台湾で、「流星花園」はドラマとして非常に面白く、ドラマのヒットと同時にF4を演じた俳優たちも大人気になりました。
台湾F4は日本でもファンミーティングなど対面イベントを積極的に行っており、本人と対面したことがあるファンはかなり存在します。
イベント参加経験のあるファンの誰もが、「実物のジェリーは本当にかっこいい」と口を揃えて言いました。
画面の中だけでなく、現実でも本当にかっこいい人で、リン・チーリンの恋人としてルックス面ではこれ以上の条件の人はいないだろうと思われていました。
2004年に発売されたジェリー・イェン(言承旭)のソロCD「第一次」。中華圏でのF4フィーバーがやや落ち着いてきた頃、ソロの歌手としてリリースしたCD(阿姐コレクション)。
 

しかし、リン・チーリンは結局ジェリー・イェンと破局し、その後は企業家や資産家子息などとのゴシップもありましたが結婚には至りませんでした。
そのうちにリン・チーリンの年齢も上がっていきましたが、リン・チーリンと結婚したいと思うお金持ちの男性はいくらでもいると思われていました。ただし、リン・チーリンの結婚相手として「つり合いが取れる」かというと、男性側にとって相当ハードルが高いです。タレントしてのリン・チーリンは、独身を貫くことで支持者が増えるようなタイプでもなく、一体誰がリン・チーリンをお嫁さんにすれば皆がハッピーになれるのだろうか、と気を揉ませていました。

そんな中、2019年、リン・チーリンは45歳の誕生日を前にして、7歳年下のAKIRAとの結婚を発表しました。まさに電撃結婚です。
中国本土では、一部の日本エンタメ好きを除くと、「EXILE」というグループのことはそれほど知られておらず、EXILE AKIRAは「リン・チーリンと電撃結婚した日本の芸能人」として認識されています。なお、中国本土ではAKIRAではなく本名の「黒澤良平」として表記されることが多いです。

今回の番組でも、「リン・チーリンの日本人旦那」として他の参加者から好奇の目で見られる場面もありますが、AKIRAは大らかに笑顔で受け答えており、「懐が深い」「誠実そう」「大人の男らしくてかっこいい」と好意的にリアクションされています。
 

AKIRAとリン・チーリンの結婚はあまりにも突然で、当初はビジネスカップルかと疑った人も少なくなかったと思います。
いまでは結婚から5年が経ち、男の子も生まれて幸せそうな夫婦・家族のショットをときおりSNSで公開しています。

二人の結婚式は台湾で行われ、台湾の伝統と習慣に則った台湾式の結婚式を挙げました。そのときからAKIRAは「花嫁の希望を尊重する理解のある夫」として好意的にみられています。
いま、中国の若い世代は女性権利意識(フェミニズム)が強く、亭主関白は本当に流行りません。婚姻関係において妻をパートナーとして尊重するのが男性の美徳だとされています。映画やドラマでも「シスターフッドもの」が流行っており、そういう風潮です。

コスモポリタン中国版 2020年1月号 リン・チーリン(林志玲)× AKIRA


この種の中国のバラエティ番組に外国人アーティストが招かれることは珍しくありません。
外国人アーティストは、目新しさだけでなく、国際レベルの実力者であることが期待されています。さらに、中国人タレントでは言えないグローバルな視野での発言ができることを番組側は求めていると思います。そういう意味で、MIYAVIとAKIRAは非常に適任です。

「披荆斩棘」はすごくキラキラした番組です。
湖南衛視(マンゴーTV)はエンタメ系の番組制作においてずば抜けた実力を持っています。最先端の撮影・照明機材を大量に投入し、デジタル編集に長けたエンジニアも豊富なので、お金をかければものすごくキラキラした番組を作ることができます。
この種のメジャーなバラエティでは、負の要素が徹底的に排除されており、綿密なシナリオをベースに大量に仕込まれたカメラが捉えるハプニング映像を交えることで、エンタメ性が非常に高いバラエティ番組ができます。
もちろん、こういった作り込まれたバラエティ番組に対して、「ばかばかしい虚構」と一蹴する人も少なくありません。ですが、改めて見てみるとその華やかさに圧倒されずにはいられません。

「披荆斩棘」シーズン4は34名の男性芸能人が参加しています。
ある程度の年齢に達したベテラン芸能人の「お兄さん」が奮闘するというのが番組の趣旨でしたが、シーズン4では20代の参加者も少なくありません。最年少は23歳の慶怜(ケーレン)です。
第1回目は「お兄さん組」と「弟組」に分かれて対戦するという方式が取り入れられました。
「お兄さん組」に振り分けられたのは、李克勤、梁龍、林依輪、杜海涛、徐海喬、李澤鋒、厳屹寛、沈震軒、向佐、袁成傑、蔡旻佑、韋礼安、秦昊、王錚亮、付辛博、MIYAVI(石原貴雅)、AKIRA(黒澤良平)の17名。
「弟組」に振り分けられたのは、胡夏、阿如那、熊梓淇、鳳小岳、焦邁奇、寧桓宇、王一哲、井朧、石凱、尤長靖、高卿塵、李佳琦、朱星傑、符竜飛、早安、慶怜(ケーレン)、黄瀟の17名です。
歌手、俳優、ダンサー、司会者、ラッパー、アイドル、配信者など様々な分野のタレントが参加しています。付辛博、阿如那、慶怜(ケーレン)などの活躍も楽しみです。
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中華芸能考古学~東芝ノートパソコンと俳優黄暁明(ホアン・シャオミン)

2024年07月15日 | エンタメの日記
最近部屋の片付けをしていたら昔のものがたくさん出てきました。
スマホが普及してからあらゆるもののデジタル化・電子化が加速し、これまで紙であることが当たり前だったものが紙媒体ではなくなっています。
スマホが普及して約10年、3Gから4G、5Gへと通信が高速化するに伴い、中国では新聞、雑誌、チケット、宣伝物など、日本以上に印刷物が激減しています。ここまで紙媒体が減少すると、部屋の奥底で眠っていた古いチラシやパンフレットは、ノスタルジーを通り越して刺激的ですらあります。

2010年、スマホが普及するすこし前の時代の東芝ノートパソコン「 Satellite L600 」(Dynabook)の中国向け広告チラシが出てきました。
当時の美形俳優の代名詞であった黄暁明(ホアン・シャオミン)が広告キャラクターを務めています。

このチラシはかなり紙質がよく、画像も鮮明です。当時のチラシの中ではお金をかけて作ったと思われる高級チラシです。

黄暁明(ホアン・シャオミン)1977年11月13日生まれ プロフィール身長:179cm 北京電电影学院演劇科卒業。ビッキー・チャオ(趙薇)やチェン・クン(陳坤)とは同級生であるとよく語られています。
黄暁明は2000年代以降の中国ドラマ・映画界の発展を担ってきた大スターです。
20代前半から多くのドラマに出演していますが、スター俳優としての地位を固めたのは2007年に放送された「新上海灘」(新・上海グランド)です。スン・リー(孫儷)との共演で主役の許文強(シュー・ウェンチャン)役を演じてイケメン俳優として大ブレイクしました。
「新上海灘」(新・上海グランド)は日本を含め海外でも放送されており、海外輸出された中国ドラマとしてはかなり古い部類に入ります。
黄暁明は俳優業だけではなく、広告業界においてとてつもない業績を上げました。それは俳優としての功績を上回るほどの意義を有します。
かつて中国では、大手グローバル企業の広告はほとんどが香港・台湾、あるいは韓国など海外の芸能人がイメージキャラクターを務めていました。
グローバル企業の広告イメージに適した中国本土の芸能人がほとんどいない状態だったのです。その常識を変えていった先駆者が黄暁明です。
黄暁明は、香港・台湾のタレントと比べて遜色ない美貌と洗練された雰囲気を持ち、素朴で明るいキャラクターも好イメージでした。
2008年には中国大陸出身芸能人として初めて「ペプシコーラの中華地区広告キャラクター」に選ばれるという偉業を成し遂げました。現在に至るまで本当のたくさんの有名企業、高級ブランドの広告キャラクターを務めています。

黄暁明とともに東芝ノートパソコンのイメージキャラクターを務めたのは女優の李氷氷(リー・ビンビン)です。
李氷氷(リー・ビンビン) 1973年2月27日生まれ、身長166㎝ 

李氷氷は范氷氷(ファン・ビンビン)や章子怡(チャン・ツイー)などと同時期に活躍した有名な中国人女優です。
ハリウッド進出に積極的で「バイオハザードⅤ」(2012年)「トランスフォーマー4(ロストエイジ)」(2014年)などに出演歴があります。
近年はあまりドラマに出ていませんが、長身でスレンダー、ロングヘアとイブニングドレスが似合い、清楚さとゴージャスさを兼ね揃えるという中国女性芸能人に求められるルックス基準を完璧に満たしている女優さんでした。

2010年の東芝は家電・パソコンの大手メーカーとして、当時の中国トップタレントであった黄暁明や李氷氷を起用し、贅沢な広告展開を行っていました。
現在、東芝のノートパソコンの広告を中国で見かけることはありません。東芝のノートパソコンが中国から完全に消えたわけではありません。ただ、ノートパソコンという商品自体が派手な広告を出して売るようなものではなくなっており、シェアの高い他メーカー、レノボ、Acer、Asus、サムスンなどもノートパソコンの広告のためにギャラの高そうな旬のタレントを投入することはありません。

日系電器メーカーの衰退が著しいとよく言われていますが、中国市場に限っていうと、中国でシェアを失ったのは日系メーカーだけではありません。中国国産メーカーの飛躍は著しく、Phillips、シーメンス、ノキア、モトローラ、ヒューレット・パッカード、DELLなどほとんどの世界的メーカーがシェアを下げています。その中にはサムスン、LG電子などの韓国メーカーも含まれます。

韓国大手電子機器メーカーLGは、スマホが登場するまでは中国での携帯展開に積極的でした。
2005年、2006年頃は、音楽再生(MP3)機能を重視したおしゃれなデザインの「LG チョコレートフォン」を韓国とほぼ同時に中国でも発売し、当時の韓流ブームとの相乗効果でヒット商品となりました。
当時のLG携帯はウォンビンやキム・テヒなど韓流トップスターがCMに登場し、圧倒的におしゃれな広告で一世を風靡しました。
「チョコレートフォン」の後続機種として発売されたのがLG Cyon「ロリポップフォン」です。

往年のKPOPファンであれば覚えているはず、2009年にBIGBANGが後輩グループ2NE1を携えて大々的にプロモーションした楽曲が「Lollipop」です。
「Lollipop」はLGの携帯「ロリポップフォン」の広告曲でした。


飛ぶ鳥を落とす勢いのBIGBANGと直系妹グループ2NE1。YGエンターテイメントの黄金時代。「Lollipop」のビジュアルはその後の2NE1のイメージ展開にも影響を与えていると思います。

韓国ではBIGBANGと2NE1がイメージキャラクターを務めていましたが、中国展開ではBIGBANGと2NE1に代わってM.I.C男団とf(x)が起用されました。

f(x)とM.I.C男団の中国版「Lollipop」は2009年に制作されており、当時デビュー間もないKPOPガールズグループf(x)の楽曲に、中国のボーイズグループ「M.I.C男団」がフィーチャリングされるという形でした。

BIGBANGと2NE1の「Lollipop」のビジュアルイメージを踏襲しており、ぱっと見では区別がつきません。このチラシの印刷の質は非常によくないです。この中のどれが檀健次かよく分かりません。

「M.I.C男団」は中国本土でプロデュースされたボーイズグループです。
デビューは2010年とされており、f(x)とコラボした「Lollipop」のMV制作時はデビュー前だったことになります。
中国本土のレコード会社の中では名門と言われていた「太合麦田」がプロデュースしたボーイズグループで、注目はされていました。
しかし、当時の中国ではアイドルグループの活動の場が少なく、彼らを支えるノウハウも不十分で、グループとして活動できた期間は非常に短いです。「M.I.C男団」は記憶の彼方に遠ざかっていく存在でしたが、グループのメンバーである檀健次(タン・ジェンツ)がドラマ『猟罪図鑑〜見えない肖像画〜』などで2022年になって俳優として大ブレイクしたことにより、「M.I.C男団」が再び話題に上るようになりました。
LG携帯「Lollipop」のチラシの中で単体で写真が出ているのは崔魯佳というメンバー(グループ脱退済み)でした。「Lollipop」のMVを見ても檀健次は特にクローズアップされていません。檀健次がグループデビューしてから10年も経ってから俳優としてブレイクしたのは稀有な例です。


スマホが登場する前の中国携帯市場では、ノキア、モトローラが圧倒的に強く、サムスン、LGなど韓国勢はどちらかというと高級・おしゃれ路線で、さらに廉価携帯としてZTE(中興)、TCLなどの中国メーカーがひしめいていました。
たくさんの中国携帯メーカーがありましたが、デザイン・音楽再生機能を売りにしていたのが歩歩高とOPPO(オッポ)です。OPPO(オッポ)は現在も中国スマホメーカーの大手として中国国内のほか東南アジアで高いシェアを有します。

2009年に発売されたOPPO携帯A201。音楽再生(MP3)機能を重視しており、当時大人気だったSuperJunior-Mを起用して若年層・女性ユーザーをターゲットに展開。

SuperJunior-Mは2008年にデビューしたSMエンターテイメントのボーイズグループ「SuperJunior」の中国向け派生グループです。
中国人メンバーのハンギョン(韓庚)を中心に、シウォン、ドンヘ、リョウク、ギュヒョン、ヘンリー、チョウミの7名によって結成されました。いまになって思えば、ビジュアル、ダンス、歌唱力をバランスよく配分したメンバー構成でした。
2008年4月にアルバム『迷』(MI)で中国デビューして以来、メディアでSuperJunior-Mの話題を目にしない日はないほど売れていました。しかし、デビューから2年ほどで中心人物であったハンギョン(韓庚)が突然グループを脱退したため、SuperJunior-Mの中国活動は頓挫し、最終的には中国市場からフェイドアウトすることになります。
OPPO携帯A201。スライド式のデザインはサムスン、LG携帯と似ていました。


中国は印刷物の品質が向上する前にデジタル化の時代を迎えてしまったことに加え、印刷物にはセンサーシップのハードルもあるので、紙媒体・有形媒体の文化はあまり継承されていません。
だからこそ、時代の遺物であるチラシや宣伝物、書籍やCD、DVDを掘り起こすと、忘れていた大事なことを瞬時に思い出したりして、何ものにも代え難い力があります。
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憧れのソウル・大学路に行ってきました~文化の移植・ソウル大学路と上海人民広場

2024年05月12日 | エンタメの日記
先日約4年ぶりにソウルに行きました。今回初めて韓国ミュージカル(Kミュージカル)の聖地・大学路(テハンノ)に行ってみました。
上海ではここ数年ミュージカルが急成長しており、Kミュージカルを中国語化したものが多数上演されています。上海でこれだけミュージカルの公演が増えたのは、Kミュージカルのフォーマットを取り入れたからだともいえます。

韓国ミュージカルは作品のバリエーションが豊富で、ソウルの大学路に集中する小劇場では少人数(3名~6名)のキャストで演じる休憩なしの約2時間の演目がよく上演されています。その中でも、男性俳優メインで構成される作品は若手俳優が豊富な中国に適しており、多くの作品が中国語化されています。
上海では人民広場近辺に劇場が集中しており、ソウル・大学路のミュージカル文化が移植されたような状態です。もちろん移植されただけではなく、現地の土壌に見合った成長を続けています。

大学路は地下鉄4号線恵化駅の周辺エリアを指し、ソウル大学のキャンパスがあったことが名前の由来だそうです。韓国ミュージカルの聖地と言われていますが、ブロードウェイというよりは下北沢のようなところでした。
細い道路の両側に飲食店やバー、カフェが入った低層ビルが立ち並び、ビルの合間にミュージカルを上演する小中規模の劇場が点在しています。

今回はYES24 Stage(Hall1)で『狂炎ソナタ』というミュージカルを観ました。
本当は自分が中国語版を観たことがあるKミュージカルを観たかったのですが、タイミング的にそんなに上手くいきませんでした。『狂炎ソナタ』は7月に上海で上演される予定です。
  

韓国ミュージカルのチケットはYes24やinterparkのウェブサイトで事前に購入できます。すごく便利です。
中国のチケットを海外から購入しようとする場合、中国の携帯番号がないと購入が難しいです(Wechat、アリペイ(支付宝)内のミニプログラム機能でチケットプラットフォーム(大麦、猫眼、票星球など)を呼び出すことで、中国の携帯番号がなくても購入できるものもあるようです)。

韓国ミュージカルの客層は中国ととてもよく似ていると思いました。
観客の95%以上が女性で、20代、30代がメインです。一人で観にきているけれど、劇場に行けば顔見知りに出くわす・・・というかんじでしょうか。
開演前に英語での火災時避難の案内があり、その後に劇場スタッフが韓国語で注意事項をアナウンスしましたが、「スペシャルカーテンコール」という単語しか聞き取れませんでした。
私が観たのは平日の夜公演で、客入りは9割くらいでした。
お芝居が終わった後、観客が一斉に立ち上り拍手を送りました。いきなり最初からスタンディングオベーションです。このフェーズが恐らく「カーテンコール」で、カーテンコールでは観客は撮影をせずに拍手を送ることに集中します。だから敢えて全員立ち上がっているのかもしれません。
ひととおり拍手を送り、俳優さんが舞台から去ると観客が再び着席し、「スペシャルカーテンコール」が始まります。ここからは観客による撮影が可能になります。スペシャルカーテンコールが始まる前にスタッフがステージに散らばった小道具などをざっと片付けます。中国ではこのような片付けを挟むことはありません。
スペシャルカーテンコールのときの雰囲気は中国とまったく同じでした。立派な一眼レフカメラを構えている観客が多く、自動シャッターを切る音、ピント合わせのピピ、ピピピという電子音が劇場に鳴り響きます。


上海のミュージカル公演では、お芝居が終わり俳優さんが舞台上でお辞儀をしている段階から撮影可能です。そのため、撮影を優先して拍手をしない観客が一定数います。カーテンコールで観客が一斉に立ち上がって拍手を送るという大学路の鑑賞マナーは、上海には移植されていないようです。

『狂炎ソナタ』は3人の俳優で構成される作品で、日本でも上演されています。
ミュージカル『狂炎ソナタ』日本語サイト:https://mu-sonata-2024.com/
物語の大筋は辛うじて把握していましたが、韓国語が分からないのでセリフの内容は全然分かりませんでした。
初めて大学路のミュージカルを観て一番印象的だったのは、役柄に合うバリトンの人がキャスティングされていたことです。
中国のミュージカルは声質よりもルックスのバランスを重視するせいか、バリトンの人材がほとんどいないです。

韓国ミュージカルの俳優さんは顔とスタイルが良く、衣装の着こなしがおしゃれで、歌や演技も上手く、そして緊迫感のある舞台でした。
舞台表現の熟練度という点では、韓国の方が上海よりも上かもしれません。ただ、ルックスレべル、基礎的な歌唱力という点では、それほど差はないように思います。だからこそ、多くのKミュージカルを中国語化して上演できているといえます
韓国俳優は雰囲気があり、韓国俳優ならではのかっこよさがあります。中国俳優はスタイルそのものがきれいで、美形のバリエーションが豊富です。

大学路の観客のマナーはよく、公演中にスマホでメッセージを打つ人や、スマホをぼとりと床に落とす人はいませんでした。ただ、上海と同じく咳をしている観客が多く、感染症流行の影響を感じました。

大学路は想像していたよりもずっとコンパクトでちょっと拍子抜けしました。ソウル大学は医学部(大学病院)を残して移転してしまいましたが、成功館大学のキャンパスが近く、他にも学校があるので学生街の雰囲気があります。






上海のミュージカル劇場は人民広場周辺に集中しておりロケーションがよいです。
劇場自体は小さくても建物自体は大きく、昔から続く繁華街にあるので「これから劇を観に行くぞ」と気分が上がりやすいです。中国は建築物のサイズがすべて大きく、凹凸がダイナミックなので写真映えします。

上海人民広場近辺の九江路。人民大舞台、亜州大厦の正面入口付近です。


ソウルはとても機能的で常にバージョンアップされている都市ですが、写真でその良さを表すのが難しいです。
しばらく行かないうちにインチョン空港第1ターミナルは改装されており、一瞬第2ターミナルにいるのかと思ったほどです。
インチョンT1の外国人向けの入国審査窓口は全部で20個ありますが、そのうちの18個が稼働しており、20分程度で入国審査を通過できました。
インチョン空港は機能性が高くキャパシティの大きい空港ですが、その分あらゆるポイントで歩く距離が長いのが難点です。

ミュージカル鑑賞以外に観光もしました。

景福宮(キョンボックン)
ソウル版の浅草雷門のようなところです。平日だったこともあり外国人観光客ばかりでした。あらゆる国の人々がレンタルの韓服(ハンボク)を身に纏って景福宮を目指します。景福宮は韓服を着ていると入場料が無料になります。景福宮の入場料は3,000ウォン(約340円)なのでレンタル料の方がもちろん高いのですが、欧米、東南アジア、アフリカ系、あらゆる国の人々が韓服を着ていました。


文化遺産名所としてすごく面白いかと言われると微妙なところですが、建築物の復元工事を懸命に進めており、韓国のやる気を感じさせられる場所です。

青瓦台(チョンワデ、せいかだい) 
2022年に現職尹錫悦大統領の方針により「市民の懐にもどってきた」元大統領府・青瓦台。
メインの建物「本館」の内部は見学できますが、それ以外は広大な敷地の庭園を楽しむというものになります。本館はクラシックな独特の内装・デザインですが完成は1991年と意外と新しいです。
庭園はとてもきれいに整備されています。青瓦台の中で文化財として価値があるとされているのは最近国宝に指定された「石佛坐像」です。「石佛坐像」があるところまで登ると、見晴らしがよく、天気に恵まれれば南山ソウルタワーも見えます。


2024年汝矣島桜祭り
今年はソウルでも桜の開花が予想より少し遅れたようです。汝矣島桜祭りの開催期間は3月29日〜4月2日でしたが、満開は4月4日頃でした。
食べ物の屋台が集まるヨイナル駅がスタート地点として案内されていますが、ここから桜並木に入り国会議事堂を回って最後まで歩くと相当の距離になります。汝矣島の先端をU字型に歩くようなコースになるので、疲れても途中で離脱して交通機関に逃げるポイントがありません。そのかわり、路上に仮設トイレが沢山設置されており便利です。


汝矣島の漢江沿いのエリアは市民の憩いの場として整備されています。
夜中でも安全で追い出されることはないそうです。芝生のキャンプエリアに夜中まで人が大勢集っており、マラソンサークルのような若者のグループも多かったです。漢江の周辺は自然に恵まれた環境です。なぜソウルでは漢江周辺の不動産が高いのか分かるような気がします。


2016年頃まで韓国の観光業は中国人観光客にすごく依存していましたが、現在では済州島(チェジュド)を除くと、中国人観光客の比率は高くありません。欧米、東南アジア、インド、日本など、世界各地からまんべんなく観光客が訪れています。
かつては中国語と日本語の表記もよく見かけましたが、いまは外国語は英語に一本化しているように思います。その代わり、英語表記がある場所が増えて、外国人にとってはより便利になったかもしれません。


韓国も物価が上がっていると言われていますが、旅行する分にはそこまで高いと思いませんでした。円安の影響を除外すると、上海と比べてソウルがすごく割高だとは思いません。
ミュージカルのチケットの価格も、演目によって異なりますがソウルと上海で大きな違いはないように思います。

街中を普通に歩いている分には、あまりKPOPやKドラマの影響力を感じませんでした。
かつてのイ・ビョンホンやイ・ミンホのように特定の俳優がものすごく売れていて広告がそこら中にあるという時代ではなくなったのでしょうか。
4月5日からNetflixで韓国ドラマ『寄生獣』の配信がスタートするので、『寄生獣』を宣伝する地下鉄のモニター、路線バスのラッピングを何度も見かけました。

地下鉄や街中では日本のキャラクター商品を身につけている人が以前よりも目につきました。
ちいかわのストラップ、サンリオやクレヨンしんちゃんのスマホケース、そして書店では日本の漫画の単行本が沢山売られています。
JUMP系を中心とするメジャー漫画の単行本は1冊約6,000ウォン(約680円)で販売されており、韓国の物価からするとそれほど高いものではないと思います。コーヒー1杯より少し高いくらいの値段です。
一方、韓国の漫画は元々デジタル媒体で発表されているので、そこから紙媒体化すると単価が高くなる傾向があるようです。そのため、韓国の漫画より『呪術廻戦』など日本の漫画の韓国語版の方が定価が安く、不思議な感じがします。

AK PLAZA 弘大店の中にあるアニメイト 漫画・書籍の品揃えが豊富。


AK PLAZAは日本関連のテナントが多いです。アニメイトがある5階は他のグッズショップも入っており、欧米人も多く来店していました。



BLは韓国コンテンツが強いですが、少年漫画は日本の漫画が売上ランキングの上位を占めていました。呪術廻戦、フリーレン、ブルーロックなど日本と同じようなタイトルが売れています。あと『極楽街』が人気かもしれません。

コロナの3年を経て、韓国では日本コンテンツ(主にアニメ)に対する受容度が上がったように感じます。
大統領交代による政治的な影響もあるかもしれませんが、それよりも、ビジネスとしての旨味が浸透したからなのではと思います。
日本でKPOPが流行っていますが、「KPOPビジネス」によって利益を得るのは韓国側だけではありません。KPOPビジネスに関わる日本企業にも当然利益を得るチャンスがあります。
むしろ、いちから新しい何かを自分で創り出すよりも、あらかじめ商品として完成しているKPOPを売る方が早く稼げる可能性があります。

日本のアニメや漫画、周辺グッズは競争力のある商品です。
売れると分かっているのだから、排斥せずにビジネスにすれば韓国側にもメリットがあります。経済的にも、いまの韓国は日本の商品価格を受け入れる力が十分あります。
クリエイティブな仕事は不確定性が高いです。天才はいつ現れるのか分かりません。いちから何かを創り上げるのは大変なことです。
中国でも日本のアニメグッズがよく売れていますが、「中国独自のアニメを盛り上げよう」という志にこだわらずに、すでに出来上がっている日本の商品を販売して消費する方が遥かにラクで、ビジネスとしてもリスクが小さいです。
感情的な抵抗がなくなってしまえば、文化はどんどん吸収されます。日本と韓国はシンクロする市場の範囲がさらに広がっていくと思います。

スマホゲームは韓国でもmiHoYoの原神やスターレイルが人気です。miHoYoは「日本風のゲームを作る中国のゲーム会社」です。


ソウルで行われる高畑勲展の地下鉄駅構内の広告
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映画『君たちはどう生きるか』中国で公開~劉昊然など人気俳優を起用した中国語吹替版

2024年05月02日 | エンタメの日記
スタジオジブリのアニメ映画『君たちはどう生きるか』が2024年4月3日に中国で公開され、5月1日現在までに興行収入7.76億元(約155億円)を上げています。日本での3月時点での興行収入90.8億と比較すると、日本の約1.5倍に相当します。

中国語タイトル『你想活出怎样的人生』は「君たちはどう生きるか」のほぼ直訳となります。
本作の英語タイトルは「The Boy and the Heron」(少年とアオサギ)です。先に公開された台湾や香港では、英語タイトルの「少年とアオサギ」をもとにした『蒼鷺與少年』という中国語タイトルとなっています。


興行収入7.76億元(約155億円)というのは、中国ではそれなりのヒットです。
中国の映画市場の規模は大まかにいうと日本の約5倍なので、日本市場での感覚に換算すると30億円超えのヒットに相当します。

~最近中国で公開された日本アニメ映画の興行収入ランキング~(2024年5月1日現在)
「すずめの戸締まり」   8.07億元(約160億円)2023年3月24日公開 2023年通年ランキング20位
「君たちはどう生きるか」 7.76億元(約155億円)2024年4月3日公開 2024年通年ランキング暫定6位
「THE FIRST SLAM DUNK」6.6億元(約132億円)2023年4月20日公開 2023年通年ランキング25位

「君たちはどう生きるか」は中国で大健闘しており予想を上回るヒットとなっています。
まず、4月3日から清明節の3連休に合わて公開されましたが、同時期にめぼしい新作がほとんどなかった(他に『ゴジラxコング2』くらいしかなかった)ことがプラスにはたらきました。

日本では事前に情報を出さない、前宣伝をしないという珍しい手法が取られましたが、中国では2つのキーワードを全面に出した宣伝が行われ、ターゲット層にうまくリーチしたのではと思います。
宣伝キーワードの一つは、「第96回アカデミー賞長編アニメーション賞受賞作品」であることです。
アカデミー賞の発表が2024年3月10日だったので、中国公開の3週間前にちょうどよく「アカデミー賞受賞」という強力な宣伝材料ができました。
近年中国映画が米アカデミー賞の有力候補に挙がることはほとんどありませんが、中国人は米アカデミー賞に無関心というわけではなく、むしろ相当の権威として捉えられています。

もう一つは、「宮崎駿人生の映画 別れの作品」というキャッチコピーがつけられ、宮崎駿監督の人生を総括した映画であること、そして最後の作品であることが強調されました。
中国語タイトルは『你想活出怎样的人生』で「人生」という単語が含まれています。キャッチコピーの「人生」というキーワードと重なっており、マーケティングが上手いと思いました。
中国で多く使われた宣伝素材。オスカー受賞のロゴが入っています。キャッチコピーのフォントサイズが大きいので「人生告別」が映画のタイトルだと勘違いしている人もいました。


吉野源三郎作の小説「君たちはどう生きるか」の中国翻訳小説も発売されており、小説タイトルはアニメと同じく『你想活出怎样的人生』。「アニメの巨匠宮崎駿監督の一生に影響を与えた小説」と宣伝されており、結構売れています。


豪華キャストによる中国版吹替版
「君たちはどう生きるか」は日本語原版で公開されていますが中国語吹替版もあります。吹替版には名だたる人気俳優が起用されています。
主役の11歳の少年・眞人の中国版吹替を担当したのは人気俳優の劉昊然(リウハオラン)です。
劉昊然(リウ・ハオラン):1997年生まれ、身長185cm、10代から活躍する人気俳優。爽やかなルックスで、若者らしい明るさと知的な一面を表現できる評価の高い俳優。ドラマ「琅琊榜(ろうやほう)〈弐〉〜風雲来る長林軍〜」、映画「唐人街探案」シリーズが有名です。
その他にも、青サギをコメディ俳優の大鵬(ダーポン/董成鵬)、ヒミを歌手の張含韵(ジャン・ハンユン)、父親の勝一とインコ大王をベテラン人気俳優・朱亜文(ジュー・ヤーウェン)、夏子を高圓圓(ガオ・ユエンユエン)、大伯父を陳建斌(チェン・ジェンビン)が吹替ています。

これはものすごい豪華キャストです。第一線で主役や重要な役どころを演じる大物俳優が大量に投入されています。
朱亜文(ジュー・ヤーウェン):1984年生まれ、ドラマ「大明皇妃」の皇帝役など地位のある重要な役柄を演じることが多い俳優。軍事・革命もの映画(主旋律映画)にも多く出演しています。
大鵬(ダーポン/董成鵬):1982年生まれ、元々はテレビ番組の司会者。自身が監督・主演したシットコム「屌丝男士」が大ヒットし、人気コメディ俳優となり多くの映画に出演。プロデューサーとしても有名。
陳建斌(チェン・ジェンビン):1970年生まれ、90年代から俳優として活躍する中国芸能界の大御所。キャリアが長く多数の出演作があります。「宮廷の諍い女(甄嬛伝)」で皇帝役(雍正帝)を演じています。
高圓圓(ガオ・ユエンユエン):1979年生まれ、2000年代から一貫して第一線で活躍する美人女優。2014年に俳優の趙又廷(マーク・チャオ)と結婚し、芸能人カップルとしても有名。
張含韵(ジャン・ハンユン):1989年生まれ、オーディション番組・第1回目「超級女声」で3位になり芸能界入り。中国芸能史において特別な意義を持つタレント。近年バラエティ番組をきっかけに再ブレイクしています。

英語版の吹替もイギリスの人気俳優ロバート・パティンソンが青サギの声を演じるなど、豪華キャストで制作されています。
台湾版は青サギを人気俳優のグレッグ・ハン(許光漢)が演じるなど、宮崎駿映画の吹替版を豪華キャストで作ることが世界的に流行っているようです。

3月28日に上海で中国公開を記念して試写会が行われ、ジブリの鈴木敏夫プロデューサーを招き、吹替を務める劉昊然(リウ・ハオラン)、大鵬(ダーポン)、朱亜文(ジュー・ヤーウェン)が登壇しました。




しかし、これほどの豪華キャストで制作された中国語吹替版は、映画館でほとんど上映されませんでした。95%以上が日本語版での上映です。
北京の映画館では吹替版を比較的多くスケジュールしていますが、北京でも吹替版の比率は10%くらいにしかならないと思います。
中国語版は字幕の読めない子どもにも理解しやすいようにという配慮から作られたはずなので、土日や郊外の住宅街に近い映画館で中国語吹替版が比較的多く上映されています。中国語吹替版を観るためには吹替版を上映している映画館をわざわざ探して、場合によっては郊外まで行かないと観ることができません。

「君たちはどう生きるか」の中国語吹替版を観みましたが、1997年生まれの劉昊然(リウハオラン)が小学生の少年役の吹替をするのは、ちょっと声のトーンが落ち着きすぎているように思いました。
名だたる俳優が吹き替えたメインキャラクターも良かったのですが、普通の声優が起用された脇役の老婆たちの声の演技もうまくて驚きました。
中国では人気俳優に頼らなくても、職業声優で吹替版を作る実力が十分あると思います。

2024年4月30日から中国では宮崎駿作品『ハウルの動く城』が上映されますが、こちらの吹替えキャストも豪華で、主役のハウル(日本語版は木村拓哉)を若手俳優の于适(于適/ユーシー、2023年公開の映画「封神」で一躍有名になった美形俳優)、ソフィーを人気若手女優の田曦薇(ドラマ「卿卿日常 」のヒロイン)が吹替えています。この二人は旬の若手俳優です。

日本のアニメ映画の中国公開は着実に増えており、4月30日から労働節休暇に合わせて『劇場版 SPY×FAMILY CODE: White』が公開されました。
6月15日には『劇場版ハイキュー!! ゴミ捨て場の決戦』も中国で公開される予定です。

  

「スパイファミリー」劇場版も中国語吹替版がありますが、こちらは俳優を起用するのではなく専門の声優をキャスティングしています。
中国ではベテラン人気声優として知られる、边江(ロイド)、李冠霖(ヨル)、山新(アーニャ)がメインキャストを務めます。
边江と李冠霖は多くの中国ファンタジー時代劇の吹替をしており、よくコンビを組んでいます。ドラマ「三生三世」の主役コンビ(ヤン・ミーとマーク・チャオ)の声を演じているのも李冠霖と边江です。
山新は中国語ボーカロイド「洛天依」の元音源の提供者であり、声優陣は中国声優業界ですごく実績のある方たちです。

にもかかわらず、中国語吹替の上映はやはり非常に少ないです。「スパイファミリー」は子どもも観るだろうし、もっと吹替版を上映すればいいのにと思うのですが、日本語版の方が集客力があると認識されているのでしょうか。
中国の声優、吹替のレベルは急速に向上しています。声優がタレント化するまでには至っていませんが、実績のある声優は不足しており、中国ドラマ、中国アニメ、ラジオドラマなどのニーズも多いので、吹替人件費は安くありません。
一方で、近年生成AIの活用が進んでおり、将来的に吹替えはAIで可能、むしろAIの方が低コストで優秀なのではという見方もあり、今後中国の「吹替」も成長の形を変えていくかもしれません。
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KING GNU アジアツアー「THE GREATEST UNKOWN」上海公演(2024年4月14日、15日)

2024年04月25日 | エンタメの日記
4月14日、15日にKing Gnuの初上海ライブが開催されました。King Gnu(キングヌー)はいまものすごく売れている日本のミクスチャー・ロックバンドです。2024年4月に台北、シンガポール、上海、ソウルの4都市で開催された「Asia Tour THE GREATEST UNKOWN」はKing Gnuとしては初の海外ツアーとなります。



King Gnuは2018年に初シングル「Prayer X」がアニメ「BANANA FISH」のエンディング曲に起用され、翌年2019年にはドラマ「イノセンス 冤罪弁護士」の主題歌「白日」で紅白歌合戦に初出場しています。ソニー・レーベル所属のアーティストになってから短期間のうちに急激にメジャーになりました。
2024年4月14日、15日に上海静安体育センターで開かれたライブが「初の上海公演」となりましたが、本当は2020年に上海に来るはずでした。ライブの会場と日程の情報まで流れていたのにコロナの影響で実現されませんでした。
King Gnuは売れてきたところにコロナ規制に遭遇し、他のバンドと同様にライブ活動ができなくなりました。しかし結果的にいうと、コロナの3年の間にKing Gnuはさらに売れているバンドになりました。

2020年に計画されていた上海ライブの会場は「ModernSkyLAB上海」(摩登天空上海)だったと言われています。
ModernSkyLAB上海は2017年にオープンした上海の中では大きいライブハウスで、詰め込めば1000人以上収容できる会場です。
2024年4月のアジアツアー上海公演で実際に使われた会場は「上海静安体育センター体育館」でした。アリーナに椅子をぎっしり敷き詰めていたので4000人弱収容できたのではと思います。4000人弱×2日間の公演で、のべ約8千人弱集客したことになります。

上海静安体育センター体育館 地下鉄1号線 汶水路から徒歩5分




King Gnuの上海ライブの情報が発表されたとき、ファンの間では「どうしてこんな小さい会場でやるんだ」「チケット取れるわけがない」「なぜメルセデスベンツアリーナでやらないんだ」と不満の声が上がりました。メルセデスベンツアリーナは約1万5千人収容可能なアリーナホールで、上海においてはさいたまスーパーアリーナのような位置づけの会場です。
当初は4月14日の1公演でしたが、急遽15日が追加になりました。それでもチケットは発売から数秒で完売でした。

上海公演のチケット価格は人民元1380元、1180元、980元、680元、480元です。現在の為替レートは人民元1元=約20円なので、日本円に換算すると、27,600円、23,600円、19,600円、13,600円、9,600円という値段になります。決して安くはありません。日本の場合、東京ドームなどのドームコンサートでの指定席が11,000円なので、日本に比べると上海はざっと2~3倍高いイメージです。

2024年4月14日、15日 King Gnu Asia Tour THE GREATEST UNKOWN 上海公演座席表 静安体育センター


中国では公式ファンクラブ経由でチケットを販売するという仕組みは基本的に普及しておらず、チケットアプリで一斉発売されます。
この数年、中国ではダフ屋行為・転売の防止対策として、チケットアプリに身分証番号と携帯番号を紐付けさせてかなり厳しい実名制販売を実施しています。
King Gnuの上海公演は、チケットアプリ「大麦」(damai)と「票星球」で発売されました。
実名制なので、チケットアプリで購入する時点で自分の身分証情報を登録する必要があります。会場にもよりますが、入場の際に電子チケットのQRコードを読み込んで入場するのではなく、身分証カードを機械で読み込む、または公安システムと連動して顔認証でゲートを通過する方法が取られています(外国パスポートでの購入者は別途設けられた有人ゲートから入場)。つまり、QRコードの譲渡は不可能で、身分証を借りたとしても顔認証でひっかかる可能性もあり、かなり厳しくなっています。
かといってダフ屋が撲滅されたかというと、決してそうではなく、発売の時点で代行業者にチケット購入を依頼する人が増えています。代行に頼まないと取れない公演も多いです。
代行業者は超高速ネット環境で、プログラミングコードを実行してチケットを取っていると言われています。代行依頼料は公演の人気度によって異なり、安ければ100元(2000円)、高ければ2000元(4万円)というケースもあるようです。
つまり、人気のあるアーティストの大型会場でのコンサートの場合、かなり厳しい実名制が採用されているので、発売日を過ぎて完売となった後にチケットを入手することは非常に難しいです。実名制の救済として、キャンセル・リセールがありますが、リセールされる枚数はやはり少ないです。

King Gnu上海ライブのお客さんは女の子が多かったです。
7対3くらいの割合で女の子が多く、20代、30代の社会人がメインだと思います。日程的に大学生は来にくかったかもしれません。中国では中学生や高校生がこういったコンサートに出掛けることは少なく、遊びは大学生になってからという風潮があります。

予想はしていましたが、「呪術廻戦」のコスプレをしてライブに来ている人が結構いました。
King Gnuはあらゆるジャンルでのタイアップを軒並み成功させていますが、その中でもアニメ「呪術廻戦」の影響力は絶大です。
King Gnuはタイアップしたアニメのほぼすべてが中国で正規配信されています。偶然かもしれませんが、結構すごいことだと思います。
『BANANA FISH』(中国語タイトル:战栗杀机) 「Prayer X」 当時IQIYIで正規配信。いまは配信されていないかもしれません。
『王様ランキング』(中国語タイトル:国王排名) 「BOY」 bilibili動画などで正規配信。『王様ランキング』第1期は中国でかなり人気がありました。
『呪術廻戦 第二期 -渋谷事変-』 (中国語タイトル:咒术回战第二期)「SPECIALZ」 bilibili、Youku、iQIYi、テンセントビデオで正規配信
『劇場版 呪術廻戦 0』 中国未公開。正規配信もされていないと思います。「一途」「逆夢」

日本のアニメは中国で人気がありますが、すべての作品が正規ライセンスされるわけではありません。
センサーシップの強化により、正規ライセンスされる日本アニメの本数は一昔まえに比べると減っています。
『進撃の巨人』や『トーキョーグール』は中国で配信停止になったのに、『呪術廻戦』は配信停止になることなく、いまも大人気でアーカイブ配信されています。中国当局の規制の基準は曖昧で、表現の規制はどこにボーダーラインがあるのか不明瞭です。そのときの社会的な空気にも左右されます。

人気アニメとのタイアップは海外向けには絶大なアピール力があります。
また、対象を中国に絞っていうと、「日本で売れている」こと自体が大きなアピール材料になります。
日本には多くの中国人が留学や就労のために居住しており、日本に頻繁に旅行に行く人も多いです。彼らは日本での生活のキラキラした一面を動画にして中国SNSアプリで発信しており、その中でも「人気アーティストのコンサート」は一度は経験してみたい憧れの対象です。
日本に滞在している大小さまざまな中国人インフルエンサーが発信する日本でのコンサートの熱気や非日常感に惹きつけられ、「自分もこのアーティストのライブに行ってみたい」と思う人は少なくありません。



コロナ規制が解除された2023年以降、怒涛の勢いでライブが再開され、日本アーティストも次々と中国に来ています。
日本の音楽アーティストに対する評価は全般的に高く、とくに日本のバンドのライブ演奏には絶大的な信頼が寄せられています。
中国ではライブ中の撮影が事実上取締られていないこともあり、SNSにライブレポをアップする人はすごく多いです。
King Gnuも他の日本アーティストも、中国人ファンがSNSにアップしたライブの感想やレポをみると、褒めちぎられています。
そんな絶賛の対象であるアーティスト自身は、上海の繁華街を歩き回ってファンに遭遇してはサインやツーショットに応じ、上海でシェアサイクルに乗るなど庶民的な姿をインスタグラムにアップしています。そのような情報は瞬く間に中国SNSで拡散されます。

上海淮海中路のSONYショールーム PlayStation × King Gnu メンバーのサインが入ったプレステが展示されています。




King Gnuは若い子たちの支持を集める人気バンドです。
4人のメンバーは1992年、1993年生まれですが、彼らの親の世代にあたるような大人が聴いても純粋に良い曲だと思えるハイクオリティなJPOPを作り出しています。世代を超えて受け入れられるのは、メンバーが好んで聴いたきた音楽と、その親世代が好んで聴いてきた音楽に重なり合う部分があるからかもしれません。

いわゆるJPOPの曲風自体は宇多田ヒカルがデビューした1990年代から現在まであまり変わっておらず、歌詞やアレンジが時代ごとにアップデートされ続けています。それは音楽的に進歩していないのではなく、多くの人々に愛される音楽が受け継がれるというJPOPの普遍性が形成されているのだと思います。

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