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捕虜時代(俘虜生活) 8 ~さらばラヤンラヤン~

2010年09月04日 | 人生航海
こうして、部隊で私が唯一人だけ、一足先に帰国が出来ることになった。

その時は、帰国の喜びで、天にも昇る心地であったが、あとに残る人のことを思うと、何故私一人なのかと・・やりきれない気持ちもあった。

復員が決まり、中隊長や他の将校や班長にも申告して、リバテー(復員)船の入港を待つことになった。

いよいよ別れの時が近づくと、もし家の近くに行く事があれば、「元気でいる」と伝えてくれるようにも頼まれた。

そして、愈々その日を迎えたが、常夏の国の事で季節もはっきり分からない状態だったが、昭和21年の春であった。

ともに苦労をしてきた初年兵達とも別れを惜しみ、ラヤンラヤンをあとにした。

トラックに乗って、シンガポールまで・・いろんな想いが駆け巡った。

それまでの日々を振り返ってみると、ボルネオでの現地入隊してからは、地獄のように思えた日々もあり、いろいろな事がありすぎた。

生涯の中で、あの時が、最悪の時代であったのは確かである。

が、敗戦の出来事や俘虜生活での食料難等の辛さや苦しさを経験したことは、何ものにもかえ難いものであったといえる。

あの悪夢は、一体全体、何だったのであろうか・・しかし、いつの間にか、それをも消え去ろうとしている。

シンガポールの岸壁に着くと、そこは既に大勢の復員者で喜びに溢れているように思えた。

乗船まで待つ時間は、過ぎし日々の多くの想いが甦り、待つ時間の事などは少しも気にならなかった。

ただただ、帰国できる喜びだけで他には何もなかったのである。

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