永子の窓

趣味の世界

源氏物語を読んできて(401)

2009年05月29日 | Weblog
09.5/29   401回

三十四帖【若菜上(わかな上)の巻】 その(10)

 この乳母の兄で、左中弁(さちゅうべん)という者は、長年源氏にお仕えしており、また女三宮にも特別にお仕えしておりますところから、乳母がそれとなく話をします。乳母は女三宮の行く末をご案じ申し上げることしきりで、

「わが心一つにしもあらで、自から思いの外のこともおはしまし、軽々しき聞こえもあらむときには、いかさまにかは、わづらはしからむ。……かしこき筋と聞こゆれど、女はいと宿世定め難くおはしますものなれば……」
――(お仕えしている侍女は)私一人ではないゆえ、万一思いの外の過ちでもあって、軽薄な噂でも立ちましたら、どんなに厄介なことになりましょう。……高貴な御血筋と申しましても、女というものは運の定めにくいものですから――

 何とか疵の無いうちに、どなたかにお頼みしたいのです、と申します。
左中弁は「源氏という方は、お気に召さない女人でも、手元に引き取られて気を長く持たれる方です。けれども、その中でも歴とした地位の方は紫の上お一人で、他の方はお寂しいもののようでございます」続けて、

「御宿世ありて、若しわやうにおはしますやうもあらば、いみじき人と聞こゆとも、立ち並びておしたち給ふことはえあらじ、とこそはおしはからるれど、なほ如何と憚るる事ありてなむ覚ゆ」
――もし御縁があって、姫宮(女三宮)が源氏に御降嫁なさったならば、紫の上がいくらご立派でも、肩を並べて対立なさることなどご無理の筈とはお察しいたしますが、それでもどうでしょうか。案ぜられるところもありそうな気もいたします――

「さるは、この世の栄末の世に過ぎて、身に心もとなきことはなきを、女の筋にてなむ、人のもどきをも負ひ、わが心にも飽かぬ事もある」
――源氏ご自身は、現在の栄華が末世には過ぎるほどで、意に叶わぬことなどないが、女の問題で人の非難も受け、自分でも意に満たぬものよ――

 と、ご冗談にまかせておっしゃることもありますが、たしかに源氏の御身分にふさわしい女人はいらっしゃらないようでございますからね、とつづけて、

「それに、同じくは、げに然もおはしまさば、いかに類ひたる御あはひならむ」
――そこに同じことなら、姫宮が御降嫁されましたなら、どんなにお似合いのご夫婦でしょう――

◆自から思いの外=予期せぬ男女の悪しき関係

ではまた。