123 あはれなるもの (135)その2 2020.2.2
九月つごもり、十月ついたち、ただあるかなきかに聞きわけたるきりぎりすの声。鶏の子抱きて伏したる。秋深き庭の浅茅に、露の色々玉のやうにて光たる。河竹の風に吹かれたる夕暮。暁に目さましたる。夜なども、すべて。思ひかはしたる若き人の中に、せく方ありて、心にもまかせぬ。山里の雪。男も女も清げなるが、黒き衣着たる。二十六七日ばかりの暁に、物語してゐ明かして見れば、あるかなきかに心ぼそげなる月の、山の端近く見えたる。秋の野。年うち過ぐしたる僧たちの行なひしたる。荒れたる家に葎這ひかかり、蓬など高く生ひたる家に、月の隈なく明かき。いと荒うはあらぬ風の吹きたる。
◆◆九月の末、十月のはじめ、かすかに聞き分けられるようなこおろぎの声、鶏がひなを抱いて伏してるの。秋が深まった庭の茅萱に露の色々が玉のように光っているの。河竹が風に吹かれている夕暮。明け方に目をさましているの。夜なども万事につけて。愛し合っている若い人の中に、邪魔をする人がいて、心にもまかせて逢えないの。山里に降る雪。男も女も美しい人が黒い衣を着ているの。二十六、七日ほどの明け方に、話をして座ったままで夜を明かして、外を見れば、あるかないかの心細げな月が、山の端近くに見えるの。秋の野。年取った僧が勤行しているの。荒れた家に葎が這いかかり、蓬などが高く生い茂った家に、月が隈なく明るく照り渡しているの。あまり強くない風が吹いてるの。◆◆
■きりぎりす=今の「こおろぎ」
■浅茅(あさぢ)=背丈の低い茅萱
九月つごもり、十月ついたち、ただあるかなきかに聞きわけたるきりぎりすの声。鶏の子抱きて伏したる。秋深き庭の浅茅に、露の色々玉のやうにて光たる。河竹の風に吹かれたる夕暮。暁に目さましたる。夜なども、すべて。思ひかはしたる若き人の中に、せく方ありて、心にもまかせぬ。山里の雪。男も女も清げなるが、黒き衣着たる。二十六七日ばかりの暁に、物語してゐ明かして見れば、あるかなきかに心ぼそげなる月の、山の端近く見えたる。秋の野。年うち過ぐしたる僧たちの行なひしたる。荒れたる家に葎這ひかかり、蓬など高く生ひたる家に、月の隈なく明かき。いと荒うはあらぬ風の吹きたる。
◆◆九月の末、十月のはじめ、かすかに聞き分けられるようなこおろぎの声、鶏がひなを抱いて伏してるの。秋が深まった庭の茅萱に露の色々が玉のように光っているの。河竹が風に吹かれている夕暮。明け方に目をさましているの。夜なども万事につけて。愛し合っている若い人の中に、邪魔をする人がいて、心にもまかせて逢えないの。山里に降る雪。男も女も美しい人が黒い衣を着ているの。二十六、七日ほどの明け方に、話をして座ったままで夜を明かして、外を見れば、あるかないかの心細げな月が、山の端近くに見えるの。秋の野。年取った僧が勤行しているの。荒れた家に葎が這いかかり、蓬などが高く生い茂った家に、月が隈なく明るく照り渡しているの。あまり強くない風が吹いてるの。◆◆
■きりぎりす=今の「こおろぎ」
■浅茅(あさぢ)=背丈の低い茅萱