永子の窓

趣味の世界

源氏物語を読んできて(374)

2009年05月02日 | Weblog
三十三帖【藤裏葉(ふじのうらは)の巻】

09.5/2   374回   その(2)

 六条院の源氏との御間柄は、うわべは何事もないようでいて、内心お互いに根に持っておられるところがありますので、内大臣は、

「いかなるついでしてかはほのめかすべき、など思すに、三月二十日大殿、大宮の御忌日にて、極楽寺にまうで給へり」
――何時かよい折を見て仄めかそうとお思いになっていらっしゃるうちに、三月二十日が丁度、故大宮の御命日にあたりますので、内大臣は極楽寺にお詣りになりました――

 公達、上達部など大勢集まられた中でも、夕霧は誰にも引けをとらぬ装いと、ご容貌など今を盛りに整って何から何までご立派なご様子です。故葵上の御母の代わりに養育してくださった祖母君のご供養ですので、熱心に御用をお勤めになっております。

 夕暮れの景色のしんみりとした風情に、内大臣は夕霧の袖を引きよせて、

「などか、いとこよなくは勘じ給へる。今日の御法の縁をもたづね思さば、罪ゆるし給ひてよや。のこり少なくなりゆく末の世に、思ひ棄て給へるも、うらみ聞こゆべくなむ」
――なぜそう私を苛めるのですか。今日のご法事の仏縁をお考えくださるなら、私の罪を許してくださいよ。余命がいくらでもなくなった晩年に、お見捨てになるとは恨めしいことです――

 とおっしゃいますので、夕霧は恐縮なさって、

「過ぎにし御おむけにも、頼み聞こえさすべきさまに、承りおくこと侍りしかど、ゆるしなき御気色に、はばかりつつ」
――亡くなられました大宮のご遺言にも、あなたをお頼り申すようにと承ったことがありましたが、何分にも、きびしいお怒りにご遠慮いたしまして――

 など、申しあげます。
急に雨風が激しくなりましたので、参会の方々は散り散りに急いでお帰りになります。夕霧は、内大臣の真意をはかりかね、雲井の雁のことを仄めかかしていらっしゃるらしいとはお思いになりますものの、あれやこれやとこの夜はまんじりともしないで過ごされました。

ではまた。