永子の窓

趣味の世界

枕草子を読んできて(76)(77)

2018年08月31日 | 枕草子を読んできて
六三  よき家の中門あけて   (76)  2018.8.31

 よき家の中門あけて、檳榔毛の車の白う清げなる、はじ蘇芳の下簾のにほひいと清げにて、榻に立てたるこそめでたけれ。五位六位などの、下襲の尻はさみて、笏いと白き、肩にうち置きなどして、とかく行きちがふに、また、装束し、壺胡籙負ひたる隋身の出で入りたる、いとつきづきし。厨女のいと清げなるが、さし出でて、「なにがし殿の人や候ふ」など言ひたるをかし。
◆◆立派な邸の中門をあけて、檳榔毛の車の白くきれいにみえるのが、はじ蘇芳色の下簾の色艶がたいへんうつくしい様子で、榻に立ててあるのこそは、すばらしい。供の五位、六位の者どもが、下襲の裾を石帯にはさんで、笏の新しくてたいへん白いのを、肩にはさみ込んだりして、あちこち行きちがっているのに、一方ではまた、正装をして、壺胡籙(つぼやなぐひ)を背負っている随身が出たり入ったりしているのは、いかにもその場に似つかわしい。台所ばたらきの女の、とてもこざっぱりしているのが、家から出て来て、「何々様のお供の人はおひかえですか」などと言っているのがおもしろい。◆◆

■壺胡籙(つぼやなぐひ)負ひたる=細長く筒になっている矢入れ。随身の正装の時必ず負う。




六四    滝は   (77) 2018.8.31

 滝は 音無の滝。布留の滝は、法皇御覧じにおはしましけむこそめでたけれ。那智の滝は、熊野にあるがあはれなるなり。轟の滝。
◆◆滝は 音無の滝(京都市。名と実の矛盾を)。布留(ふる=奈良県布留川上流の滝か)の滝は、法皇が御覧あそばしにお出ましになったそうであるのこそすばらしい。那智の滝は霊場熊野にあるということがしみじみと感深いのである。轟(「音無」に対する興味。宮城県説あり)の滝もおもしろい。◆◆