永子の窓

趣味の世界

源氏物語を読んできて(400)

2009年05月28日 | Weblog
09.5/28   400回

三十四帖【若菜上(わかな上)の巻】 その(9)

 朱雀院は、分別のある御乳母どもを召して、姫宮の御裳著の準備をおさせになりながら、
「六条の大臣の、式部卿の親王の女生ほし立てけむやうに、この宮をあづかりてはぐくまむ人もがな。ただ人の中にはあり難し。内裏には中宮侍ひ給ふ。(……)」
――六条の大臣(源氏)が、式部卿の宮の姫(紫の上)を立派に養育されたように、女三宮を預かって養育する人が欲しいね。臣下の中には見当たらない。冷泉帝には秋好中宮がおられるし、(それに次ぐ女御たちも、高位の人ばかりで、女三宮が後ろ楯もなくて後宮に出仕することはみじめであろうし)――

「この権中納言の朝臣の一人ありつる程に、うちかすめてこそこころみるべかりけれ。若けれどいときやうざくに、生ひ先頼もしげなる人にこそあめるを」
――あの夕霧が一人身のうちに、ほのめかしてみるのだった。若いが大そう優秀で、将来ある人らしいのに――

 冷泉院のお言葉に、乳母は「中納言(夕霧)は、元来真面目で、雲井の雁に心を寄せて浮気もなさいませんでした。思いが叶った今ではお心変わりなどありませんでしょう。」と、つづけて、

「かの院こそ、なかなかなほ、いかなるにつけても、人をゆかしく思したる心は、絶えずものせさせ給ふなれ。その中にも、やむごとなき御願ひ深くて、前斎院などをも今に忘れ難くこそ聞こえ給ふなれ」
――源氏の方こそ、却って今でも何かにつけて、女に心惹かれるお癖はお止みにならないそうでございます。その中でも御身分が高く難しい女人をお望みになるお心が深く、前斎院(朝顔の君)へは今も忘れかねてお文を差し上げていらっしゃるようですよ――


と、申し上げます。朱雀院は、

「いで、その旧りせぬあだけこそは、いと後めたけれ」
――それです、その変わらぬ浮気心が実に不安なのだけれどね――

とはおっしゃるものの、乳母の言う通り源氏に預けようとの、お心のようです。

ではまた。