永子の窓

趣味の世界

源氏物語を読んできて(373)

2009年05月01日 | Weblog
三十三帖【藤裏葉(ふじのうらは)の巻】

09.5/1   373回   その(1)

源氏【太政大臣→太上天皇(だじょうてんのう)】   39歳3月から10月
紫の上        31歳
夕霧(宰相の中将→中納言)18歳
雲井の雁  20歳
藤典侍(とうないしのすけ)惟光の娘で五節の舞姫の時から夕霧の愛人
明石の御方  30歳
明石の姫君(明石の女御)11歳
内大臣(→太政大臣)
柏木(頭の中将) 23~24歳

 
 六条院では、明石の姫君入内のご準備が急がれております時分にも、夕霧は物思いがちに時にはぼんやりなさって、そのようなご自分を不思議に思っておいでです。

「わが心ながら執念きぞかし、あながちにかう思ふことならば、関守の、うちも寝ぬべき気色に思ひ弱り給ふなるを聞きながら、同じくは人わろからぬさまに見はてむ、と念ずるも、苦しう思ひ乱れ給ふ」
――自分ながら、執念深いものだ。これほどに悩ましいのならば、内大臣が今にもお許しになりそうに気弱になっておられるということなので、同じことなら見っともなくない風に持っていきたいと考えますが、なかなかに思い乱れております――

 一方、雲井の雁は、

「大臣のかすめ給ひし事の筋を、もしさもあらば、何の名残かは、と歎かしうて、あやしく背き背きに、さすがなる御もろ恋なり」
――父大臣が、ほのめかしておっしゃった夕霧のご縁談のことが、もしも本当であれば、どうして私を思い出してくださることかと、悲しくて、それぞれの思いが妙に背き合っていますものの、やはりお互いに諦めきれない恋しい御仲でいらっしゃる――

 内大臣は、

「さこそ心強がり給ひしかど、たけからぬに思しわづらひて、かの宮にもさやうに思ひ立ちてはて給ひなば、またとかく改め思ひかかづらはむ程、人の為も苦しう、わが御方ざまにも人笑はれに、自づから軽々しき事やまじらむ、忍ぶとすれど、うちうちの事あやまりも、世に漏りにたるべし、とかく紛らはして、なほ負けぬべきなめり」
――あれほど強情を張られましたが、源氏と夕霧からは、その後何の動きもなく意地の張り甲斐がないのに気落ちなさって、中務の宮が夕霧を婿に取る事を決めてしまわれたら、また雲井の雁の結婚を考える場合、相手の婿に対しても気の毒であるし、雲井の雁にとっても外聞の悪いことになってしまう。夕霧と雲井の雁とのことは隠しているつもりでも、とうに世間に知れていることなので、もうここは何とかうまく計らって、やはり折れるしかないだろう――

 と、お思いになります。

◆人わろからぬさま=人聞きの悪くない様子で

◆御もろ恋=御諸恋=相思相愛

◆たけからぬ=猛けからぬ=強きでない、勇ましくない。

ではまた。