永子の窓

趣味の世界

源氏物語を読んできて(384)

2009年05月12日 | Weblog
三十三帖【藤裏葉(ふじのうらは)の巻】

09.5/12   384回   その(12)

 一方、明石の御方は、

「いと気高うさかりなる御気色を、かたみにめでたしと見て、そこらの御中にもすぐれたる御志にて、並びなきさまに定まり給ひけるも、いと道理と思ひ知らるるに」
――紫の上の高貴で今を盛りのお姿を、明石の御方のほうでもご立派な、とお思いになって、心の内で、これこそ紫の上が大勢いらっしゃる女君の中でも、とりわけて源氏のご寵愛を受け、並ぶ者のない地位にいらっしゃるのも、もっともなことと呑みこめますにつけても――

 この上ない御方と立ち並べるわが身の運勢もまた、並み並みではないとお思いになります。しかし、

「出で給ふ儀式の、いこことに装ほしく、御輦車(みてぐるま)などゆるされ給ひて、女御の御有様に異ならぬを、思ひ比ぶるに、さすがなる身の程なり」
――(紫の上が)宮中を退出なさるときの儀式が格別にご立派で、御輦車(みてぐるま)を許されて、女御と同じご様子なのに引き比べてみますと、自分は、やはり張り合える身分ではない身の上であると思うのでした――

 姫君はまるでお雛様のように愛らしく、思う存分ご養育されて、もともと利発なお生まれつきで、ご器量も並々でなく、人々の信望もおありですので、東宮もお若いお心に格別にお思いです。

「いどみ給へる御方々の人などは、この母君のかくて侍らひ給ふを、疵に言ひなしなどすれど、それに消たるべくもあらず。」
――明石の姫君と競争相手の御方々の女房たちは、姫君の実の母君がこうして付き添っておいでになりますのを、欠点のように言い立てなどしますが、そんなことで消されそうなご威勢ではありません――

 紫の上も時折姫君のもとに参上されます。紫の上と明石の御方との間は、この上なく仲睦まじくなっていかれますが、さりとて、いくら打ち解けておいででも、明石の御方は出過ぎるところはなく、また蔑まれるようなご態度もお見せにならず、やはり明石の御方は不思議なほど申し分のない気質の方でいらっしゃる。

ではまた。