三十三帖【藤裏葉(ふじのうらは)の巻】
09.5/10 382回 その(10)
「かくて御まゐりは、北の方添ひ給ふべきを、常に長々しうはえ添ひ侍ひ給はじ、かかるついでに、かの御後見をや添へましと思す」
――さてご入内には、北の方(紫の上)がお添い申し上げるべきですが、そういつまでも付き添えまい。こんな折に、あのお世話役(明石の御方)を添えてあげようと、源氏は思われます――
紫の上も常のお仕えは明石の御方が付き添うべきとお思いになりますし、姫君もこのような時こそ母君を恋しく思うでしょう。自分が仲を隔てているように思われるのは心苦しいと、
「この折に添へ奉り給へ。まだいとあえかなる程もうしろめたきに、侍ふ人とても、若々しきのみこそ多かれ。御乳母たちなども、見及ぶことの心至る、限りあるを、自らはえつとしも侍はざらむ程、後安かるべく」
――こういう折に、あちらの方をお付き添いさせてあげてくださいませ。まだお小さくてたいそう頼りなげでいらっしゃるのも気がかりでございます上に、お仕え申す者たちも、若くて至らないものが多うございます。乳母たちにしましても、気の付くことというのは、限りがあるものでございますし、私がお側にいられないときにも安心していられますように――
紫の上の言葉に源氏は、まあよく気がつかれたことよ、と、早速ことの次第を明石の御方におはなしになりますと、明石の御方は、
「いみじくうれしく、思ふ事かなひはつる心地して、人の装束なにかの事も、やむごとなき御有様に劣るまじくいそぎたつ」
――たいそうお喜びになって、常日頃の願いが叶った心地がして、女房たちの衣装やそのほかの事も、高貴な方の御有様に劣る事のないように準備なさいます――
祖母の尼君も姫君の行く末を見届けたい一念で、大事に長生きしてきましたので、ご入内前にもう一度お見上げしたいと思うのでした。
ではまた。
09.5/10 382回 その(10)
「かくて御まゐりは、北の方添ひ給ふべきを、常に長々しうはえ添ひ侍ひ給はじ、かかるついでに、かの御後見をや添へましと思す」
――さてご入内には、北の方(紫の上)がお添い申し上げるべきですが、そういつまでも付き添えまい。こんな折に、あのお世話役(明石の御方)を添えてあげようと、源氏は思われます――
紫の上も常のお仕えは明石の御方が付き添うべきとお思いになりますし、姫君もこのような時こそ母君を恋しく思うでしょう。自分が仲を隔てているように思われるのは心苦しいと、
「この折に添へ奉り給へ。まだいとあえかなる程もうしろめたきに、侍ふ人とても、若々しきのみこそ多かれ。御乳母たちなども、見及ぶことの心至る、限りあるを、自らはえつとしも侍はざらむ程、後安かるべく」
――こういう折に、あちらの方をお付き添いさせてあげてくださいませ。まだお小さくてたいそう頼りなげでいらっしゃるのも気がかりでございます上に、お仕え申す者たちも、若くて至らないものが多うございます。乳母たちにしましても、気の付くことというのは、限りがあるものでございますし、私がお側にいられないときにも安心していられますように――
紫の上の言葉に源氏は、まあよく気がつかれたことよ、と、早速ことの次第を明石の御方におはなしになりますと、明石の御方は、
「いみじくうれしく、思ふ事かなひはつる心地して、人の装束なにかの事も、やむごとなき御有様に劣るまじくいそぎたつ」
――たいそうお喜びになって、常日頃の願いが叶った心地がして、女房たちの衣装やそのほかの事も、高貴な方の御有様に劣る事のないように準備なさいます――
祖母の尼君も姫君の行く末を見届けたい一念で、大事に長生きしてきましたので、ご入内前にもう一度お見上げしたいと思うのでした。
ではまた。