永子の窓

趣味の世界

源氏物語を読んできて(386)

2009年05月14日 | Weblog
三十三帖【藤裏葉(ふじのうらは)の巻】

09.5/14   386回   その(14)

「御勢ひまさりて、かかる御住居も所狭ければ、三条殿に渡り給ひぬ。少し荒れにたるを、めでたく修理しなして、宮のおはしましし方を、改めしつらひて住み給ふ。昔おぼえて、あはれに思ふさまなる御住居なり」
――(夕霧は)地位が高くなり、ここ太政大臣邸内では手狭なので、故大宮が住んでおられた三条殿にお移りになります。少し荒れていましたのを立派に修理なさって、もと大宮のおられました所を、調度なども新しく設えてお住みになります。昔のことを思い出されてなつかしくも結構なお住まいです――

「前栽どもなど、ちひさき木どもなりしも、いと繁き陰となり、一群薄も心に任せて乱れたりける、繕はせ給ふ。遣り水の水草も掻きあらためて、いと心ゆきたる気色なり」
――庭の小さな木々であったものが、今は大きく繁って陰をつくり、ひとむら薄なども生え放題で乱れていましたものを手入れなどおさせになります。遣り水の水草も取り払ってきれいになさったので、淀みなく流れ、満足なご様子です――

 風情のある夕暮れどき、夕霧と雲井の雁は、

「あさましかりし世の、御をさなさの物語などし給ふに、恋しきことも多く、人の思ひけむ事もはづかしう、女君は思し出づ」
――御仲を割かれて辛かった当時の思い出をおはなしになっておられますと、恋しい事も多く、また女房たちにとやかく言われたことなども恥ずかしく女君は思い出していらっしゃる――

 昔から居りました女房たちで、今もお仕えしている者たちも参上してきて、一同心から喜び合うのでした。夕霧の歌、

「なれこそは岩もるあるじ見し人のゆくへは知るや宿の真清水」
――宿の真清水よ、お前こそこの家を守る主人だが、昔の家の主人である亡き大宮の行方を知っているか――

 女君(雲井の雁)の歌、

「なき人のかげだに見えずつれなくて心をやれるいさらゐの水」
――祖母君の影さえ映さず、小さい井の川の水は知らぬ顔で流れています――

 しみじみと、愛情深かった昔の大宮を偲んで尽きぬ夕べです。
  
◆絵:三条邸の夕霧と雲井の雁  wakogenji



源氏物語を読んできて(高麗楽・2)

2009年05月14日 | Weblog
高麗楽(2)

篳篥(ひちりき)

アシの茎を切って舌(=芦舌(ろぜつ))とし、管の上端にさし込み、縦にもって演奏する。
演奏の前には芦舌を渋茶に浸して湿らせ、使わないときは檜製の烏帽子をかぶせて 先端を保護する。

風俗博物館