七七 ありがたきもの (90) 2018.9.28
ありがたきもの 舅にほめらるる婿。また、姑に思はるる嫁の君。物よく抜くるしろがねの毛抜き。主そしらぬ人の従者。つゆの癖かたはなくて、かたち、心、ありさまもすぐれて、世にあるほど、いささかのきずなき人。同じ所に住む人の、かたみに恥ぢかはしたると思ふが、つひに見えぬこそ、かたけれ。
◆◆めったにないもの 舅にほめられる婿。また、姑に可愛がられる嫁君。物がよく抜ける銀の毛抜き(当時は眉毛を抜き、一般的には鉄製。銀製は手に柔らかい)。主人の悪口を言わない従者。ほんのちょっとした癖や欠点もなくて、容貌、性質、姿形もすぐれていて、世間と交わっていくとき、少しの非難すべき点のない人。同じところに住んでいる人で(宮廷か)、お互いに相手を優れた者として遠慮し合っていると思う人が、ついに見られないのこそは、ほんとうにめったにないのだ。◆◆
■ありがたきもの=有難きこと。めったにないもの
■舅にほめらるる婿=当時は男が女の家に通った。
■姑に思はるる嫁の君=女は男を通わせた後、男の家に迎え取られることがあった。
■かたはなくて=「片端」なくて。不完全なことがなくて。
物語、集など書き写す本に墨つけぬ事。よき草子などは、いみじく心して書けども、かならずこそきたなげになるめれ。男も、女も、法師も、契り深くて語らふ人の、末までなかよき事。使ひよき従者。掻練打たせたるに、あなめでたと見えておこせたる。
◆◆物語や歌集など、書き写す元の本に墨をつけないこと。立派な綴じ本などは、非常に気を使って書くのだけれど、かならずと言ってよいほど汚くなるようだ。男も、女も、法師も、深い約束をして親しくしている人が、終わりまで仲のよいことはめったにない。使い良い従者。掻練を職人に打たせておいたときに、ああすばらしいと見えるほどに打って、こちらに届けて来ているの。(めったにない)◆◆
■法師も=男色関係か。
■掻練(かいねり)打たせたるに=練って柔らかくした絹。「打つ」は、砧で打って光沢を出すこと。
ありがたきもの 舅にほめらるる婿。また、姑に思はるる嫁の君。物よく抜くるしろがねの毛抜き。主そしらぬ人の従者。つゆの癖かたはなくて、かたち、心、ありさまもすぐれて、世にあるほど、いささかのきずなき人。同じ所に住む人の、かたみに恥ぢかはしたると思ふが、つひに見えぬこそ、かたけれ。
◆◆めったにないもの 舅にほめられる婿。また、姑に可愛がられる嫁君。物がよく抜ける銀の毛抜き(当時は眉毛を抜き、一般的には鉄製。銀製は手に柔らかい)。主人の悪口を言わない従者。ほんのちょっとした癖や欠点もなくて、容貌、性質、姿形もすぐれていて、世間と交わっていくとき、少しの非難すべき点のない人。同じところに住んでいる人で(宮廷か)、お互いに相手を優れた者として遠慮し合っていると思う人が、ついに見られないのこそは、ほんとうにめったにないのだ。◆◆
■ありがたきもの=有難きこと。めったにないもの
■舅にほめらるる婿=当時は男が女の家に通った。
■姑に思はるる嫁の君=女は男を通わせた後、男の家に迎え取られることがあった。
■かたはなくて=「片端」なくて。不完全なことがなくて。
物語、集など書き写す本に墨つけぬ事。よき草子などは、いみじく心して書けども、かならずこそきたなげになるめれ。男も、女も、法師も、契り深くて語らふ人の、末までなかよき事。使ひよき従者。掻練打たせたるに、あなめでたと見えておこせたる。
◆◆物語や歌集など、書き写す元の本に墨をつけないこと。立派な綴じ本などは、非常に気を使って書くのだけれど、かならずと言ってよいほど汚くなるようだ。男も、女も、法師も、深い約束をして親しくしている人が、終わりまで仲のよいことはめったにない。使い良い従者。掻練を職人に打たせておいたときに、ああすばらしいと見えるほどに打って、こちらに届けて来ているの。(めったにない)◆◆
■法師も=男色関係か。
■掻練(かいねり)打たせたるに=練って柔らかくした絹。「打つ」は、砧で打って光沢を出すこと。