永子の窓

趣味の世界

源氏物語を読んできて(377)

2009年05月05日 | Weblog
三十三帖【藤裏葉(ふじのうらは)の巻】

09.5/5   377回   その(5)

 盃が回って程良い頃に内大臣は、

「春日さす藤の裏葉のうらとけて君し思はば我も頼まむ」と古歌をお謡いになりますと、頭の中将が、藤の花の殊に色の濃い房の立派なのを折って、夕霧の盃に添えますと、夕霧がその盃を持て余していらっしゃる。そこで内大臣は歌を、

「紫にかごとはかけむ藤の花まつより過ぎてうれたけれども」
――縁談のお申込みをお待ちしているうちに、月日が過ぎましたのは辛いことでしたが、それも娘の縁に託して我慢しましょう――

 内大臣のお歌に、夕霧は盃を持ちながら、ほんの形ばかりの拝されるさまが、まことに奥ゆかしい。夕霧の歌、

「いくかへり露けき春をすぐしきて花のひもとく折にあふらむ」
――今日のお許しにお会いするまで、幾たび悲しい春にあったことでしょう――
盃が頭の中将(柏木)に賜わられ、柏木の歌、

「とをやめの袖にまがへる藤の花見る人からや色もまさらむ」
――立派な男に添うて、女の色香もいっそう増すでしょう――

 こうして盃を回しながらお歌がそえられましたが、なにしろ皆酔っていますので、たいした歌とて無いようでした。

 「やうやう夜更け行く程に、いたうそらなやみして、『みだり心地いと耐へがたうて、罷でむ空もほとほとしうこそ侍りぬべけれ。宿直所ゆづり給ひてむや』と中将に憂経給ふ」
――ようやく夜も更けてゆくうちに、夕霧はひどく酔ったふりをなさって、「お酒を頂き過ぎまして、足もともおぼつかなく家まで辿りつけそうにもありません。泊まる所をお貸しくださいませんか」と柏木にお頼みになります。

 内大臣は、

「朝臣や、御休み所もとめよ。翁いたうゑひ進みて無禮なれば、罷り入りぬ」
――柏木よ、寝室のお世話をなさい。私は大そう酔いすぎて失礼して退き下がらせていただこう――

◆そらなやみ=仮病

ではまた。