永子の窓

趣味の世界

源氏物語を読んできて(388)

2009年05月16日 | Weblog

09.5/16   388回

三十三帖【藤裏葉(ふじのうらは)の巻】その(16)
   

 十月二十日の頃、冷泉帝の六条院への行幸がありました。紅葉の美しい季節という趣深いお出ましということで、朱雀院にも帝からお誘い申されました。お二方が共に行幸されるということで、

「世にめづらしくあり難き事にて、世人の心をおどろかす。あるじの院方も、御心をつくし、目もあやなる御心設けをせさせ給ふ」
――またとない珍しいことだと世間の人々も驚いております。主人側の六条院でも、趣向を凝らして、目もさめるほどのご準備をなさいます――

 「巳の時に行幸ありて、先づ馬場殿に、左右の司の御馬ひき並べて、左右の近衛立ち添ひたる作法、五月の節にあやめわかれず通ひたり」
――巳の刻(午前十時頃)に帝が六条院へ行幸され、先ず馬場殿(うまばどの)に御成りになります。左右の馬寮(めりょう)のお馬をずらりと引き並べて、左右の近衛の武官が立ち添うている作法は、五月の節会さながらです――

 午後二時過ぎる頃、帝は南の寝殿にお移りになります。

「道の程、反橋、渡殿には錦を敷き、あらはなるべき所には軟障をひき、いつくしうしなさせ給へり」
――お通りになる反橋(そりはし)や渡殿(わたどの)には錦(にしき)を敷き、あまり見え過ぎる場所には軟障(ぜじょう・ぜんじょう)の幕の類を引き、いかめしく設えさせております――

「東の池に船ども浮けて、御厨子所の鵜飼の長、院の鵜飼を召し並べて、鵜をおろさせ給へり。小さき鮒ども食ひたり。わざとのご覧とはなけれど、過ぎさせ給ふ道の興ばかりになむ」
――東の池に船をいくつか浮かべて、宮中の御厨子所(みずしどころ)鵜飼の長と、六条院の鵜飼を共に召して、鵜をお使わせになります。鵜は小さい鮒などをくわえてきます。ことさらご覧に入れる為ではありませんで、馬場寮から南の御殿へお移りになる途上のほんの余興に催しただけにすぎないものでしたが――

◆御厨子所(みずしどころ)=内裏の後涼殿の西廂にあって、内膳司に属し、帝の御膳部を調進するところ

写真:六条院の春の御殿へお着きになった冷泉帝(中央)と朱雀院(左)、
   源氏(左)。
   行幸=(ぎょうこう、みゆき)天皇が内裏よりお出ましになるときに使う言葉。

ではまた。