三日坊主日記

本を読んだり、映画を見たり、宗教を考えたり、死刑や厳罰化を危惧したり。

平松令三『親鸞』

2010年11月05日 | 仏教
平松令三『親鸞』を読む。
初めて知ったことがいろいろあって、へえーと思った。

親鸞は『教行信証』で、法然の主著『選択集』の書写を許されたこと、そして法然の肖像を図画することも許してもらった感動を述べている。
『選択集』は理解が進んだ一部の門弟にだけ伝授されたらしい。
どうして一部の弟子にだけ書写を許したかというと、誤解されるのを防ぐためということがある。
平松令三師はそれだけではないという。
外部からの弾圧を心配する必要のない時期に秘書扱いにしたのはなぜか。
「それは法然がこの書を書写を通じて教団の重要な門弟との間に特別に強い師弟の絆を結んでおこうとしたからではないか、と私は考えている。言うなれば、とくに信頼の置ける人物に対して、師弟関係を確認するために、『選択集』を利用したもの、と考えたい。それは一種の教団統制策だった可能性がある。親鸞が「選ばれた一人」であることを知って、歓喜しているのを見ると、法然のこの施策は有効に機能していたことがわかる」
ええっという指摘だが、肖像画の模写に法然に賛銘を書いてもらったことについても、平松令三師はこう言っている。
「既成の肖像画を貸出して模写させ、それに自筆の賛銘を書き加えて与えるという方法は、それまでの日本にあったのだろうか」
「このような多くの肖像画を制作させた人物は、それまでの日本の祖師の中にはなかったのではないだろうか」
「これが『選択集』の伝授と同じく師弟の絆を確認する手段であったことは、もはや言うまでもないだろう」
今でいうなら、教祖の写真を拝ませる宗教とどう違うのかという話になる。

そして、親鸞の名前だが、ある先生が、鸞は天子の乗り物なのに、それを自分の名前に使うものかという疑問を呈されていた。
平松令三師によると、「成人には実名と仮名とがあり、これを使い分けていた。日常生活で呼び交わされる名は仮名で、俗名とも字名とも呼び名ともいわれた。それに対して実名は諱名ともいわれるように同輩や目下の者から呼ばれることを忌み憚かる名前だった。そして当時、浄土教教団の出家者たちは、実名のほかに、房号を持ち、これが呼び名(仮名)となっていた」
たとえば法然は房号で、源空が実名である。
親鸞の場合はどうなのか。
平松令三師は、善信房が房号で、親鸞が実名であり、法然の門下に入って、善信房綽空と改め、さらに法然の真影に賛銘を書いてもらったときに親鸞という名前を書いてもらい、善信房綽空から善信房親鸞に改名したと言う。
ところが、一楽真『親鸞の教化』に、「正像末和讃」の初稿本には撰号が「愚禿親鸞」となっているのに、文明本では題号の下に「愚禿善信集」とあるから、「房号を撰号にするとは考えにくい」「「綽空の字を改めて」と言われる名のりが「善信」だと考える」とある。
文明本は蓮如が開板したものだから、親鸞が「善信」と書いたかどうかはわからないと思うが、どうなのだろう。
先日聞いた本多弘之先生の講義では法然につけてもらった名前が親鸞だと言われてた。
また、寺川俊成先生も「真宗」11月号に親鸞の名を法然からもらったと書いている。
善信派は断然旗色が悪いようです。
寺川俊成先生が引用しているが、『歎異抄』には「善信房の信心も如来よりたまわらせたまいたる信心なり」、『恵信尼文書』にも「善信の御房」とあって、善信が房号だという説のほうが正しいように思う。
では、親鸞の手紙に、弟子の名前に蓮位房とあったり真仏坊とあったりするのだが、房と坊は同じか違うのだろうか。
また弟子たちには唯円房○○というような別の実名があったのだろうか。

これもびっくりしたのだが、越後から関東に入ってすぐのころ、親鸞は佐貫で三部経千部読誦しようとした。
水害に苦しむ(干ばつという説もあるが)人々を見た親鸞は三部経を千部読誦しようとするが、途中でやめる。
このことについて平松令三師は、親鸞は善光寺聖であり、勧進聖は一団を組んで行動する、水害にあった村人に懇願されて、何人かの仲間と三部経千部読誦をした、と言う。
「この千部読誦も善光寺の勧進(募金)を兼ねての法要」なんだそうで、祈祷というか呪術というか、そういうことを村人から頼まれるままに親鸞はしたわけだ。
私は、苦しむ民衆を見た親鸞が何とかできないかと思って個人的に三部経の読誦したのだと思っていた。
善光寺聖として村人から頼まれたというのなら、公開の場で読誦したわけであり、途中でやめることは村人の信頼を失うことになったのではないかと思う。

750年前に死んだ人だからすでに研究しつくされているのかと思ってたら、新しい発見、新しい見解が次々と出てくるのだから、世の中面白いものだと思う。
コメント
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