道ばたに転がっている吸い殻をよく見ると、たいてい同じ場所に何本も種類の違ったたばこが落ちている。たいがいが側溝の細いすき間のあるふたか、ガードレールの植え込みの近くだ。無造作に捨てられている吸い殻を見ると、日本人のモラルの低さをひしひしと感じる。
私は禁煙を始めて、ようやく一年がたとうとしている。以前は煙の香りがすると、自分もポケットのたばこに火をつけて、煙をまき散らしながら、側溝にポイ捨てしていた。
しかし、自分がやめてしまうと、これほど嫌なものはない。今までいい香りだと思っていたあの煙のにおいが、遠くからにおってきても鼻につく。前を歩くおじさんが歩きたばこをしていると、速度をあげて追い抜きにかかる。最近では、たばこのにおいのする場所を避けるようにもなってきた。
禁煙としては大成功であろう。何で今まであんなものを口にしていたのか。たばこの麻薬性とでもいうのだろうか。副流煙が他人の健康に影響をおよぼすと指摘され、喫煙者は半ば犯罪者のように次第に隅に追いやられている。
人間とは勝手なもので、自分の都合で必要なものと不必要なものを選んで使っているが、たばこを吸う吸わないにかかわる考えや感じ方は、まさにそうだろう。
最近、近くのタバコ屋のおばさんがよそよそしくなった。販売機でたばこを買わなくなったのに気がついたのか。何となく遠慮しながら朝のあいさつをして通る。清々しい朝の空気をいっぱい吸い込んで。