望遠ニッポン見聞録

2012-04-13 10:04:02 | 日記

ヤマザキマリ著  幻冬舎

もうすぐロードショーされる『テルマエ・ロマエ』の著者。17歳でイタリアに油絵修業のために留学、超極貧生活を送り、一時帰国。再びイタリアに行き、イタリア人と結婚し、夫の実家で暮す。それからシリア、ポルトガルと移住し、現在はシカゴ在住。異国歴十数年。日本にはたまに帰るだけ。勿論、旅行好き。アマゾンもインドもラサにも足を運ぶ。怖いもの無し。職業は漫画家(肝心の油絵はどうなっているのか、書いていないので分からない)。そんな女性が異国から、望遠鏡で見るように見た(つまり、外国を見るように母国を見ている)日本と外国との文明比較エッセイ。
本書を要約すると、こんな風になるか。トラベラーズと、その国で生活するということは、当たり前だけれどかなり違う。つまり、本書で語られていることは、「感想」ではなく「実感」なのだ。詳しい内容は書きません。しかし、膝を叩いて納得できる話のオンパレードです。

 

 


驚きの介護民俗学

2012-04-13 09:14:15 | 日記

六車由美著  医学書院刊

「介護民俗学」というのは、著者の造語。
現職は介護職員だが、本職は民俗学の研究者。
民俗学のフィールドに、特別養護老人ホーム内デイサービスという場を選んだのは慧眼だと思う。従来の民俗学は「ムラ」をフィールドにしていた。つまり『遠野物語』の世界。一方、介護センターでケアを受けている人たちは、大正から現座を生きてきた人達だ。彼等が著者に語ることは、日本の近世史の個人の記憶だ(それも庶民の)。三世代同居というシステムが崩壊した今日では、彼等が経験したことは次の世代に伝わっていないだろう。ここが大切だ。
日本の近世を「民俗学」という視点で研究できる、ぎりぎりのタイミングかも知れないからだ。
ただし、著者がこれを出来たのは、研究者であったこと、博士号を持ち、大学の准教授だったというバックボーンが大きいのではないか。著者は、民俗学を学んだ学生がこのフィールドに進出することを望んでいるが、これは、かなり現実離れしている。低賃金、慢性的な人不足、ハードな環境の中で「聞き取り」などは到底無理というものだ。唯一の方法は著者のようにデイケアセンターに就職し、尚且つ研究者であり続けることだが、可能だろうか? ハードルが高すぎる。
もどかしいのは、著者がそれまでのキャリアを捨てて、介護の世界に飛び込んだ動機が本書には書かれていないことだ。後書きに「大きな存在を失い、絶望なかでさまよい歩いた末にたどり着いた先」と書いているが、飛び込んだ時にこうした成果が得られるという予想はなかった筈だ。その辺も書いて欲しかった。