黒王妃

2013-01-07 15:43:09 | 日記

佐藤賢一著   講談社刊

主人公はフィレンツェのメディチ家の出身で、フランス王アンリ二世の王妃となり、夫亡きあとの三人の息子、フランソワ二世、シャルル九世、アンリ三世の三人の王の後見を努めたカトリーヌ・ドゥ・メディシス。彼女がなぜ「黒王妃(ラ・レーヌ・ノワール)」と呼ばれたかは本文を読んで欲しい。
読後感から言えば、中世(本書で言えば16世紀)のヨーロッパは王妃・王女が主導権を持っていたのではないかと錯覚してしまう。敢えて言えば、著者は中世ヨーロッパに造詣が深いようだが、とてもではないが付録の系図ぐらいでは、ストーリーの人間関係を理解するには一般人には無理だ。せめて当時のヨーロッパの王国の地図と、もう少し詳しい系図を付けて欲しかった(著者なみの知識を持っている人はそう多くはないと思う)。
それはともかく、随所に挿入されている黒王妃の独り語りが圧巻である。著者が女性ではないかと思うくらい、女性・妻・母の心情を微細に著述している。「女ってそういうもの? 妻・母ってそういう風に考えるものなの?」と思わせられること屡々だった。その女性に関する洞察はかなりの経験に裏打ちされているのではないか。
余計なお節介だと思うが、この小説の背景には新教・プロテスタントと旧教・カトリックとの宗教戦争が横たわっている。これを承知で読まないと、本書の主題を見失ってしまうので要注意。


 


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