不死細胞 ヒーラ  ヘンリエッタ・ラックスの永遠なる人生

2011-06-25 14:53:19 | 日記
レベッカ・スクルート著  講談社刊

ヒーラ細胞というのをご存知だろうか。癌について詳しい人ならば、思い当たるかもしれない。子宮頚部扁平上皮癌に罹った、ある黒人女性(ヘンリエッタ・ラックス)の癌細胞の名称である。「不死」といわれているのは、この細胞が採取された1951年以来、今も生き続けていることに由来する。詳しい経過は本書に譲る。
さて、この細胞の存在が意味することを考えてみたい。まず、この細胞が存在することで癌に対する研究が大きく進んだことが挙げられる。なにしろ、世界中の病院、研究機関、医学者が所持しているのだ。細胞の小瓶=バイアル一個あたりたった25ドルで販売されているのだ。
次の問題点は、これが彼女の同意なしで採取され、培養されていることである。ただし、これは当時のアメリカにおいては違法ではなかった。いや、現在でも違法ではない。日本でも違法ではない。手術の同意書に、素人では分かりにくい表現で表記されている。
第3点は、わずか何ミクロンというこの細胞が並べると、地球を3週するほど出回っている(たった25ドルで)にも拘らず、彼女の親族には一文も払われていない(健康保険すら賄えないのに)ということである。
第4点は、当時はゲノム解析など思いもよらないことだが、今日ではゲノム解析で彼女の一族の病歴は勿論、遺伝形質まで分かってしまうことだ。特に、アメリカでは保険加入拒否されることさえありうる。
これらのことを、どう考えたらよいのだろうか。医学の進歩の前には眼をつぶっていなければならないのだろうか。それとも……。
ひとつだけ、指摘しておきたいことがある。日本でも、これは日常的に行われているらしい。手術を受ければ、その病因となつた細胞は採取され、冷凍されるか、培養されているのだ。
とんでもない本を読んでしまった。

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