さ ぶ  山本周五郎 長編小説全集 第三巻

2013-08-01 16:26:58 | 日記

新潮社刊

本書は抜粋で一部読んだことはあるが、通読したのは初めてだと思う(多分…?)。
読後、尽々思ったのは「栄二」の内省に終始していること。一方、「さぶ」にはそれが見られない。もちろん、周囲の人達が己の過去を語る所はあるが、内省までには至っていない。作者の狙いは彼の内省を柱に、ひとりの若者が自己を確立していく過程にあるのだろうから、それで構わないのだけれど少し片手落ちではないか、という気がしてならなかった。というのも、「さぶ」には「さぶ」の内省があった筈で、それとの葛藤も必要ではなかったのか。勿論、そこは読者が察するべきだと言われれば、そうですねと納得するしかないのだが……。
もうひとつは、彼の挫折の原因となった金襴の件だが、後半ぎりぎりで「さぶ」の仕業とまず分かる(但し、その動機は何も書かれていない)。しかし、そのすぐ後で真犯人は私だと「おすえ」に告白される。しかも、詳しいことは話させないで「栄二」は許してしまう。このエンディングが端折りすぎているような気がする。本来の流れで言えば、ここでも彼の内省が一言二言あっても良かったのではないか? どうも、最終場面の雰囲気を壊さないために急ぎ過ぎたとしか思えない。


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