『想いの軌跡(1975ー2012)』 『ローマの街角から』

2013-01-12 08:28:57 | 日記

塩野七生著   新潮社刊

流石だと思った。とくに「(地中海に囲まれた)イタリアの都市の玄関口は港である。港から見てこそ、その都市の表情が見えてくる」という指摘は新鮮だった(実際、著者はヨットで港からイタリア各都市に入っている)。日本で言えば、かつて大名領であった都市を訪れるには旧街道から入るということになろうか。観光バスでいきなり城の大手門で降ろされても、その城下町の表情は分からない。領主や領民がどんな想いでその都市を築き上げたのかは、想像も出来ないだろう。つまり、グーグルアースで見た地中海では、なにも分からないのだ。
もうひとつ、著者は執筆に合わせて白地図から自ら書き込んでオリジナルの作っているそうだ。その後、プロの地図製作者と何度か推敲を重ねて、あの地図が出来上がっているのだ。どおりで著者の著作の定価が高いはずだ。ついこの間、地図があったのならばどれほどわかり易かったのに、と思った本を読んだばかりなので尚更そう思ったのかも知れないが……。
と、ここまで蛇足を書いてしまったが、後半で「創造的作品には、解説を必要とするものと必要としない作品のちがいがある」という文章に出会ってしまった。解説を感想と置き換えると、このエッセイ集は「感想を必要としない」(だって、40年に及ぶ著者の「想いの軌跡」なのだから)ものに当たる。黙って心の中で反芻すれば良かったのかも知れない。一生懸命勉強している年長者には敵わないな。
どちらにしても、その努力と御歳を考えた時、御健勝であることを願ってやまない。