けむりの居場所

2012-03-10 08:37:21 | 日記

野坂昭如編  幻戯書房刊

肝心の本は、まだ読了していない。本書も気分転換に読んだ本(もっとも、私が持っているのは2006年の初版本なので、再版が出ているかどうかわからない)。
タイトルから分かるように、愛煙家32人のエッセイを野坂昭如が編纂したアンソロジーである。そこで、まずタイトルから。「けむりの居場所」はかつては男が集まる場所ならば、そこはそのまま居場所になった(大学の部室、雀荘、喫茶店、呑み屋等など)。しかし、喧騒と紫煙が当たり前だったビヤホールでさえ禁煙席がある当世、「けむりの居場所」は肩身の狭い思いをしているといっていい。
もうひとつ。昔は煙草は「呑む」ものであつた。何時頃からか「吸う」に変わった。それが今は「吹かす」だ。男も女も一服吸うと喉も通さず、天井に向かって煙を「ブハーッとフカす」。品がないですねぇ。「胸いっぱいに吸い込み、静かに吹き出しながら、紫煙の行方を追う」、なんていう風情は見たくても見られない。
こういう時代には、このアンソロジーは理解されないだろうな。深々と吸い込み、時に反省し、時に悩む。そして、静かに吐き出す紫煙の行方に視線を泳がす。一服の煙草に深く絶望したり、時には至福に身を委ねる。なんてこと、あるのだろうか?
このアンソロジーを読み返しながら、「居場所を失くしたけむり」に哀悼と同情を憶えてしまった。分かっていることは、この先「煙草に捧げるオマージュ(野坂昭如)」なんてアンソロジーは出て来ないのだろうな……。……嗚呼。