ぼくは上陸している 上・下 ー進化をめぐる旅の始まりの終わりー

2011-09-08 15:03:50 | 日記
スティーヴン・ジェイ・グードル  早川書房刊

スティーヴン・ジェイ・グードルが2002年に死去していたとは、迂闊にも知らなかった。だからと言ってはおかしいが、タイトルをてっきり「海から最初に上陸した生物」を擬人化したタイトルと早とちりをして買ってしまった(タイトルの由来は本文を読んでください。ちょっと感動します)。
科学者というのは多芸多才な人が多い。いや、欧米の学者に限らず、我が国の寺田寅彦だって地球物理学者にして、俳人、映画評論家、そしてバイオリニストだつたのだから不思議はないのだが……。
本書は彼の博覧強記振りが十分楽しめるエッセイ集(おそらく彼の最後の本)。おかしい、なぜということを科学者特有の執拗さで突き止めて行くプロセスが面白い。
ところで、彼が本書の中で再三再四言及していることがある。それは「過去の学者の学説や知見を、現在の知見から批判してはいけない」ということである。その時代特有の制約(宗教、政治、学問の水準等)のなかでどこまで真実に迫ったのかを考慮しないと、その学者の業績や偉大さを正しく評価できないということである。
例えば、遺伝の法則を明らかにしたメンデル。今から思えばいくつかの間違いを指摘することができる。しかし、彼の時代には遺伝子という概念はなかった。つまり、最新知識もいずれは過ちを指摘される運命にある。DNAの構造を明らかにしたワトソンだってIP細胞を創れるとは想像もしていなかったかもしれないではないか。
本書の一言一句を理解する必要はない。人類の知の発展にはこういう経過があったのだと知るだけで、十分謙虚になれる。