棋士関連・3冊

2020-06-28 08:56:28 | 日記

まず、『将棋指しの腹のうち』(先崎 学  文藝春秋刊)。著者の先崎氏は九段。なかなかのエッセイストなのは知っていた。うつ病を患っていたそうだが、復帰した第一作。タイトルどうり将棋とメシの話である。勿論、彼が奢ることが多いのだが、これがなかなか面白い。全部で42人が登場するが、なにしろ勝負師が主人公、期待できるシーンが次から次へとでてくる。女性棋士も登場する。楽しめます。
次は、『一門』(神田憲行著  朝日新聞出版刊)。「関西の名門」と呼ばれる森信雄一門の話である。サブコピーに “冴えん師匠”がなぜ強い棋士を育てられたのか? とあるが、師匠の森氏は七段、弟子には 故村山 聖九段を始めとして、八段二人、七段三人、六段三人、五段一人、四段二人、女流三段・初段・一級各一人いるのである。名伯楽とはこういう人をいうのだろう。なにか……考えさせられる話である。
最後は、『天才の考え方 -藤井聡太とは何者か?-』(渡辺 明・加藤一二三著  中央公論新社刊)。中学生で棋士なったのは、著者の二人の他には谷川浩司、羽生善治、藤井聡太の五人しか居ない。さて、藤井は天才か?これ以上は書かない。ぜひ一読を!

 


江戸の夢びらき  松井今朝子著  文藝春秋刊 

2020-06-21 09:12:57 | 日記

実は、もう一冊「市川團十郎代々  服部幸雄著  講談社学術文庫」もあわせて読んだ。
「江戸のー」は初代團十郎の一代記である。いわゆる「荒事」創始し、江戸歌舞伎の基本を確立したばかりではなく、歌舞伎界の宗家として「江戸随市川」と称される地位をも確立した役者だった。
ただ、史実に基づいた一代記に拘ったためか、初代の人物像の書き込みが物足りない。特に、役者として必要なさまざまな芸をどうして身に着ーつけたのか、といったところが物足りなかった。
しかし、市川團十郎家が歌舞伎界の宗家であり続けた理由については、「團十郎代々ー」が参考になる。今年、十三代を継ぐ海老蔵までを概略を知ることができる。あわせて読むと面白い。

 


タコの知性  -その感覚と思考-

2020-06-13 10:49:57 | 日記

池田 譲著  朝日新書

著者は現・琉球大学理学部教授。イカとタコのオーソリティ。
まずは、タコ。タコやイカは海の霊長類である(知っていました? 私は思ってもいなかった!)。しかも約250種、そのうち二割強が日本近海にいるそうである。
そこで、肝心の知性だが……。書くべきではないな…。とにかく面白い。読み終わった時、私は思わず蒸しマダコを一匹買ってきて解剖ししたいと思ったほどだ(私は生物部にいたので得意なのだ)。もちろんメスではなく、ナイフとフォークでだが……。
口絵の写真も素晴らしい。著者の研究室のスタッフが撮影したのだろうが、初めて見るタコがほとんどだった。
楽しめました! オビの「驚異の才腕!」が冴えている。


画家とモデル  -宿命の出会い-

2020-05-24 09:36:49 | 日記

中野京子著  新潮社刊

画家とモデルというと、男性画家と女性モデルを想像しがちだが、勿論それだけではない。肖像画家の場合ならば権力者である王や男性貴族であることもある。そればかりではない。他の理由で同性をモデルにすることもある。本書はそこに視点を当てた本。
こういうテーマで絵を観たことはなかったので新鮮だった。18人の画家のうち知っている、というか聞いた名前は5人、観たことのある絵は2点。まっ、私は絵には疎いので参考にはならないが…。いや、初めて聞く話ばかりだった。なかでもヴァラドンという画家は元モデルだったそうだ。こういう例が日本にあるのかどうか知らないが、私は初めて知った。この画家の話が面白い。
ぜひとも一読をお勧めする。


聞き書  緒方貞子回顧録

2020-05-03 09:49:09 | 日記

インタビー〔野村 健/納家政嗣〕  岩波現代文庫

本書は2015年に単行本として発刊されたもので、今回文庫本化するにあたって解説に、緒方氏と同じUNCR時代を体験している中満 泉氏(国際聨合事務次長・軍縮担当上級代表)が担当しているというので、改めて買った。
再読してつくづく思ったことがある。、想像されたとおり!現代の日本の政治家・政府のお粗末加減である。国際情勢なんてまるで関心ない。あるのは椅子取りゲームだけ!与党も野党も同じ。まるで幼稚園児、いや、それ以下。それにもまして、というか、これと相似なのがわが国に今現在国際主義団体が皆無だということ。悲しくなってしまう。
これは、日本の政界、政治家、教育界の、貧困さにある。内向き、安定志向、現状維持、これでは世界に目を向ける人達が出て来る訳がない。もし、まだお読みになっていないのならば、一読をお勧めする。
しばらくは新聞やテレビ、首相の顔を見たくなくなるかもしれないが……。


フェルマーの最終定理

2020-04-12 09:23:17 | 日記

サイモン・シン著  新潮文庫

本書は2000年1月に単行本として出版されている。その時も興奮して読んだのだが、今回、文庫化されたので改めて読み返した。というのも、何時の間にか単行本が書棚から消えていたので…。
実は、これがどれほど凄いか、これを証明したアンドリュー・ワイルズの努力、そしてこれに日本の数学者がどう関わっていたか、を書く予定だった。
ところが……、四月四日、朝日新聞に『数学の難問「ABC予想」証明  京大・望月(新一)教授』という記事が掲載されたのだ。ABC予想についてはネットで調べてください(フェルマーの最終定理、ポアンカレ予想に匹敵する、難問中の難問)。それを日本の数学者が単独で証明したのだ。これを解決するための新理論「宇宙際タイヒミュラー理論」を構築するのに10年以上かけ、証明。さらにこの論文の審査(査読)七年半。素晴らしい!!
因みに、この理論を使うと、かけ算だけで様々な計算が出来るそう。まるでわからないけれど……。朝日新聞では四月四日、四月九日に掲載されている。


GEOSCAPE JAPAN -地形写真家と巡る絶景ガイド-

2020-03-10 09:38:03 | 日記

竹下光士著  山と渓谷社刊

「地形写真家」というのは著者の造語だそうだ。山岳写真を地形を視点に撮影したのである。言って見れば、石や岩にポイントを当てたのである。
これが大成功、素晴らしい! 仏ヶ浦(青森)、谷川岳の一の倉沢、東尋坊、桃洞の滝(秋田)、大芦川の虎岩(栃木)……。どのページを開いてもいいのだが、これまで観ていた景色とは全く違うのである。多分、よく知っている人でもこんな所あったかな?と思う筈である。これは一見の価値がある。地形という視点がこんなにダイナミックなものだとは……。続編が待たれる。ちなみに、私は桃洞の滝が気に入った。コメントを読むまでわ・か・ら・な・か・っ・た!!


積読の山崩し!

2020-03-02 08:49:05 | 日記

体調を崩して筆不精になっていた。少々元気になったので、まとめて読後感を書くことにした。

『エリザベス女王』 君塚直隆著 中公新書 70年近く女王を務め、今なお現役であるエリザベス女王の伝記である。勿論、史上最長・最強の君主である。さすがだ! と思ったのは、1975年来日した時女王が次のように述べたそうである。「(君主とは)歴史に裁かれるのは私であると覚悟しております。この立場を分かって頂けるのは陛下(昭和天皇)しかおられません。自分が教えを受けられるのはこの方しかいないと信じて日本に来たのです」。在位23年の女王発言である。……だから今なお、尊敬され、君主なのである。

『マトリ 厚労省麻薬取締官』 瀬戸晴海著 新潮新書 麻薬や覚醒剤の怖ろしさは知っていたが、どうして絶えないのか、不思議に思っていた。というか、なぜ止められないのか、根絶できないのか。本書を読んでよく解った。これは国際的な犯罪産業なのだ。そして日本は、その覚醒剤の一大マーケットなのだ。そして……マトリの人数は悲しくなるくらい少ないのだ。そして……それに群がる馬鹿者は絶えない。マトリは蟷螂の斧を以て闘う戦士である。頑張って欲しい。

『「馬」が動かした日本史』 蒲池明弘著 文春新書 発想と視点は良い。それだけ!書かれている根拠は全てとは言わないが、大半は他者の研究の良いとこ取りで、自身が調査したり発掘したものではない。なにより、コジツケと当てずっぽうが多すぎる。ジャーナリストの悪い癖である。確かによく解明されていないことなのである。なぜ、武士が騎馬戦をするようになったのか、詳しく書かれた文献がない。私も知りたかった。それだけに裏切られた気が大きい。これから著者自身が研究する前文だと思えばいいのだろうけれど、これにミスミスお金を払ったのが゛悔しい。

『京都でお買いもん -御つくりおきの楽しみ- 入江敦彦著 新潮社刊』 少々京都贔屓が鼻に付く本。ほんとにほしいものは、職人にたのむ。値段を尋ねない、急がさない。これは京都人の専売特許ではない。そして、かなりの付き合いや紹介が必要なのも全国共通。まっ、京都にはそうゆう職人さんが多い、ということなのだろう。そして、確かに良い物が紹介されている。ただし、京都、京都、京都と煩い。京都の言い換えならば何通りもあるだろうに……センスの良いものを発想する著者にしては、手・抜・き!

『京都魔界紀行 西川照子 講談社現代新書』 本書はバリバリの京都本。要するに、京都の名所にはもうひとつ裏の貌があるということ。しかも、それはなかなかどうして…まがまがしい怨霊がカオを聴かせているらしい。まっ、当然だろうなと思う。京都の歴史は怨念と盛衰がセットになった古都だものなぁ。舞妓のだらりの帯の裏には鬼女が居たりするのが京都らしい。

『レバノンから来た能楽師の妻 梅若マドレーヌ著 岩波新書』 内戦を逃れて日本に来た著者が、能楽師・梅若猶彦と出会い、結婚。そして、一男一女の母となり、やがて能楽を海外に発信するプロデューサーとなった話である。これ以上書くことは出来ない。それがどれほど大変なことかはぜひ読んで欲しい。キーワードは能楽師という古典芸能と、内戦が絶えなかったレバノン。そして、跡継ぎを得なければならない宿命。それらを全身全霊で克服した女性が居るということだ。

『玉三郎 勘三郎 海老蔵 -平成歌舞伎三十年史- 中川右介 文春文庫』 オビの「勘三郎が突然、消えた。玉三郎は幽玄の境地に。海老蔵は團十郎証明へ。」 が全てを語っている。歌舞伎ファンならばこれで分かる筈だ。私としては、歌舞伎役者の子ではない玉三郎が独自の世界を築いたのは素晴らしいことだが、独り別の世界に行ってしまったようなのが残念でならないのだが……

『将棋指し腹のうち 先崎学著 文藝春秋』 著者の先崎氏は、かつてキレの良いエッセイストだったが最近みなくなったと思っていたら、うつ病で入院していたらしい(意外だった!)。もう九段だったのですね。その復活版。タイトルは食事の話に思えそうだが、実は呑む話ばっかり!将棋ファンならば頭に浮かぶ大抵の人たちが登場する。なかなか面白い。女性棋士も結構酒豪がいるようで、楽しく読める。

『東京のヤミ市 松平誠著 講談社学術文庫』 ヤミ市。もう知っている人は少ないだろう。終戦(1945・8)から1950年暮れまで東京のあちこちに出現した非公認の市である。食い物も無く、生活必需品も全く無い時の話である。新宿、渋谷、新橋、池袋、上野、そして銀座にもあった。勿論、仕切るのはヤクザである。子供もにはとても行けるところではなく、大人だって恐々行く所だった。でも……行かざるを得なかったところでもある。なぜか、私は知っているのだ!場所も、臭いも、売っているモノも。そこで買い物をしたことはないが。でも、覚えている、あの猥雑な五年間を………。

 

                                                                                                              

 

 

 

 


マーガレット・サッチャー -政治を変えた「鉄の女」-

2020-01-13 09:29:50 | 日記

冨田浩司著  新潮選書

久し振りで読み応えのある本だった。著者は現役の外交官である。しかもサッチャーが首相であるある時、在英日本大使館公使であり、政治問題担当だった人である。サッチャーの政治をリアルタイムで観て来た人でもある。
本書はサッチャーの首相時代の政治家としての功罪を論評している。彼女のプライベートな部分には触れていない(それは期待しないことだ)。なにしろ、サッチャーは私と同時代の人である。書かれていることは承知しているし、フォークランド問題の時は“流石、女王の国の女性首相”と拍手たくらいだったから……。
オビには「サッチャーは人間としての器においてはチャーチルには遠く及ばない。しかし……彼女が成し遂げたことの高みは……“良きにつけ、悪しきにつけ”という注釈付きであったとしても……チャーチルを確実に凌駕する」という個所が引用されているが、私は……
“愛されることを望まなかった”サッチャーの政治家としての資質を評価したインガムの言葉を引用した、著者の評価を支持したい(サッチャーは、桜を観る会などしなかった!)。というのも、著者の最後に「今日の社会においてーー指導者は時に“愛されない”覚悟を持って政治をしなければならない」とした結語が大きな意味をもってくるからだ。
いやぁー、一気に読了した、しかも二回も……。お勧めしたい!!

追記 今日のイギリスの政治状況、いわゆるEUからのブレグジット問題は、実は長い長い歴史のある英国の問題であったことを初めて知った。
なお、本書は山本七平賞を受賞した。

 

 


遺伝子 

2019-11-02 09:31:58 | 日記

NHkスペシャル「人体」取材班  講談社刊

実は……呆然としている。いや、それは以前から知っていた事なのだが。ただ、本書を読了したことで、その怖れが現実のモノになりつつあることを実感したショックのためだ。
それはともかく、まず、口絵のカラー写真に驚いた。DNAの二重らせんのリアルなCG画像である。なにしろこれまでは略図でしか見たことがなかったから。全然、予想とは違っていた。この口絵写真を見るだけでも価値がある!
本文の読みどころの第一は、、DNAの2%が遺伝子で、98%がジャンク遺伝子だということ。DNAって全部遺伝子だと思っていた人が大部分ではないかな? このスペシャルではジャンク遺伝子とは言っていない(かつてはそう言われていたのだが)。トレジャーDNAと言う。ここが人体にとって宝の山である事か分かったのである。ここは期待して読めます。
次に、ガンを抑えるDNAのスイッチが見つかったのである。これをON、OFする方法が開発されれば……。ここまでは、希望が持てる。
そして、問題のページ。プロデューサーの浅井健博氏と山中伸弥博士の対談。博士は「人類は滅ぶ可能性がある」と言うのである。つまり、DNAの研究のコントロールが野放しになれば……この先は書きたくない。そう、デザイナーベービー……。有り得るのだ。すでに中国の学者か手に染めていた。
ほんし