おじさんの映画三昧

旧作を含めほぼ毎日映画を見ております。
それらの映画評(ほとんど感想文ですが)を掲載していきます。

ナイロビの蜂

2021-08-02 07:43:18 | 映画
漏れていた「と」だったので、紹介が続きました。
今日から「な」になります。
前回は2019/11/26の「ナイル殺人事件」からでした。
興味のある方はバックナンバーからご覧ください。

「ナイロビの蜂」 2005年 イギリス


監督 フェルナンド・メイレレス
出演 レイフ・ファインズ
   レイチェル・ワイズ
   ユベール・クンデ
   ダニー・ヒューストン
   ビル・ナイ
   ピート・ポスルスウェイト

ストーリー
ジャスティン・クエイルは英国出身の高等弁務官で、ケニアのナイロビに駐在していた。
職務の最中、妻テッサが旅先の湖で亡くなったことを同僚のサンディから聞かされる。
テッサと同行していた知人で医者のアーノルドの仕業と見ていたが、彼は行方知れずだった。
テッサの所持品などが葬式の最中に警察当局によって押収されたことを知り、彼はサンディとともに荒らされた内部をまとめていたところ、そこでジャスティンが見つけたのはサンディのテッサへの恋文だった。
ジャスティンはテッサと関わりのあるキオコという男児に会いに行った。
ジャスティンはそこで製薬会社が非合法的に治験を行っていることを知る。
イギリスに戻るや否や、上官のペレグリンにテッサの死の原因を追求しないように警告され、更にパスポートを取り上げられてしまう。
彼はテッサの調査を引き継いでナイロビに戻るため、テッサのいとこで弁護士のハムに会うことにした。
ハムに用意してもらったパスポートと身分証明書を携え、一度ドイツに入国、テッサと連絡を取り合っていた製薬会社の監視団体とコンタクトをとることにした。
しかし本部は荒らされ、生命の危機を感じた代表の女性は情報をあまり多く語らなかった。
製薬会社の差し金であろう男たちに暴行を受けたが、彼はあきらめずナイロビへと移動した。
ジャスティンはペレグリンの右腕ティムから英国に帰還するよう説得されたが断った。
ペレグリンと製薬会社それにケニア政府が結託して国民をないがしろにしているのがはっきりと分かってきた。
ジャスティンは治験の書記に関わっていたロービアという白人医師を訪ね、例の薬が危険であることを聞き、それを証明するレポートを受け取った。


寸評
ケニアに住むガーデニングが趣味の英国外務省一等書記官ジャスティンと、アフリカ救援活動に取り組むテッサは夫婦なのだが、オープニングから間もなく、そのテッサが死んでしまう。
テッサとの愛に満ちた幸せな日々を回想するような形で、物語の随所に挿入される。
そこだけを見ていると死んだ妻と遺された夫の愛の物語と思えるのだが、実はメロドラマなんかじゃなくて、国際的な陰謀が渦巻くスケールの大きいサスペンスなのだと判明してくる。
始めの頃に描かれたシーンが再度挿入されたりして、後半になるにしたがって面白くなり目が離せなくなる。
その分、前半は少しまどろっこしいところがあり、主人公夫妻の愛の物語も深みに欠けていると感じる。

後半は俄然面白くなる。
アフリカの内部に入り込み、手持ちカメラを中心にしたドキュメンタリータッチの映像によってスリルに加えて怪しさも高まっていく。
テッサが体と引き換えにサンディから重要な書簡を手に入れる場面などは怪しさ感たっぷりだ。
彼女はハニー・トラップという女の武器を使って証拠の品を手に入れるしたたか女だったのかと思わせる。
そうだとしたら外交官のジャスティンに近づいたのは妻となってアフリカに行きたいが為だったのかとの疑問が湧いてくる構成もニクイ。
さらに、サンディからの愛の手紙を発見してしまっては、ジャスティンならずともテッサを疑ってしまう。
夫婦関係に関してはたいしたドラマじゃないのに、挿入される回想形式の映像処理の力によって「やっぱり二人の間には確かな愛があったんだ」と思わせる描き方は上手い。
サスペンスが盛り上がっていくのと同時並行で、アフリカの現状が次々と描かれていく。
アフリカが抱える貧困、内紛、難民問題がリアルに描かれることで、サスペンスも深みを増していく。
貧困は言うまでもないが、別の部族が村を襲ってきて虐殺と子供たちの誘拐を行う様子が描かれる。
国連を初め支援者たちは、その事に無力で助けることはできない。
子供は国連の飛行機から降ろされ、運が良ければ難民キャンプにたどり着ける道を選ぶ。
最初は何となく頼りないジャスティンだったが、現実問題に触れることによって徐々に変化を来たし、この頃には鬼気迫る表情を見せるようになっているのも、ありきたりとは言え印象的である。

そしてついに、貧しいアフリカの人々を食い物にする製薬会社の非道が明らかになっていく。
製薬会社は人道支援と言いながら税金対策の為に使えない薬を寄付している。
こうなってくると、企業の慈善活動も疑ってしまうなあ。
新薬の開発には長い年月と巨額が必要だが、企業は開発にかかった費用を回収し利益を上げなけれならない。
製薬会社も営利企業である以上、その宿命に抗うことが出来ないのだろうが、人の命を預かる業態だけに利潤追求のみに目が行くのは問題で、政府も絡んでいるとなれば尚更だ。
製薬会社は新薬の治験をアフリカで行っている。
アフリカでの治験理由は、もともと死亡率が高いとか、副作用が生じた場合は再研究よりも安くつく買収による隠ぺいがやりやすいというもので、利益追求のみを目指すための身勝手な理屈は許せない。
その糾弾だけは出来ているし、ラスト処理も上手くできている。