おじさんの映画三昧

旧作を含めほぼ毎日映画を見ております。
それらの映画評(ほとんど感想文ですが)を掲載していきます。

寝盗られ宗介

2021-08-26 07:29:34 | 映画
「寝盗られ宗介」 1992年 日本


監督 若松孝二
出演 原田芳雄 藤谷美和子 久我陽子
   筧利夫 山谷初男 岡本信人
   佐野史郎 玉川良一 吉行和子

ストーリー
富士山をのぞむのどかな町で、客のざわめきをよそに北村宗介一座の宗介は、妻子もちの謙二郎と駆け落ちした一座の看板スターで女房のレイ子を待っていた。
レイ子の父親の留造や音痴の歌手ジミーらを前に、自ら駆け落ちを画策した宗介は「帰って来る!」というばかりなので、一座はやむなく幕をあけるが、イカサマ歌謡ショーに客は騒ぎはじめる。
高校生のあゆみが代役として間をつないでいるうちにレイ子が帰って来た。
そしてレイ子が舞台に立つや客は彼女に見とれ、ため息と涙の大合唱となった。
宗介は間男の謙二郎に田舎へ帰って運送屋をやるようトラックを買って送り出す。
続いてジミーが倒れ病院へかつぎ込まれた。
腎臓移植手術しか助かる見込みがないと聞かされた宗介は、一座を離れジミーの弟ユタカに腎臓を提供するよう頼み、その足で青森の実家を訪ね手術費用を工面してもらった。
建設会社をやっていて女グセが悪かった父親の大造は、病院で寝たきりでもう長くない。
会社をきりもりする弟の信二に、新しく建つ公民館のこけら落しを頼まれ、宗介は思わず「ついでに俺の結婚式でもやるか」と口走ってしまったが、照れからレイ子の前で断ってしまう。
やるせないレイ子の前に以前駆け落ちをし、今度は国へ帰るというマックが現れた。
宗介は小遣いをわたし、2人を温泉旅行に行かせた。
ついであゆみが一座を出て東京へ行くと言い出した。
ジミーの腎臓の一件もユタカが拒否したため、宗介が提供することになったが、それをきっかけにレイ子が荒れるようになっていった。
宗介は結婚を決意して打ち明けるが、うまくいかない・・・。


寸評
藤谷美和子はミスキャストだったと思う。
とてもじゃないがドサ回りの女優には見えず、ドサ回りの役者をイメージさせる安っぽさが無い。
一方で舞台での芝居は安っぽく、はっきり言って芝居が下手だ。
ドサ回りの役者はもっと芝居が上手いと思うし、「色気がある」と劇中で言われているが、そんな感じはしない。

レイ子はしょっちゅう男を作っては逃げ出している女であるが、宗介の父親である大造の後妻・志乃が言うように、強い力で奪われることを待ち望んでいるのだ。
宗介はそうすることにテレがあるのか、あるいはレイ子が寝取られても自分のもとに帰ってくることで、俺は争奪戦に勝ったのだという優越感を味わっているのか、惚れた女の浮気に寛容である。
宗介は自殺した亡き母を愛しており、そうさせた父親を憎んでいる。
異腹の兄弟が何人もいるようで、屈折した心の持ち主にも見えるが、実際は優しすぎる男である。
レイ子と駆け落ちしていた謙二郎に故郷で運送業が開業できるようにトラックを与え、嫁と復縁させるのを手始めに、以前駆け落ちしたマックと温泉旅行に行かせたり、一座の若手女優に金を握らせ東京へ送り出し、一座のジミーに自分の腎臓を提供し、そしてその男とレイ子の駆け落ちを認めてやるような男である。
このキャラクターは面白いと思うのだが、若松孝二演出は描き切れているとは言い難い。
一応は宗介とレイ子の恋愛が軸なんだろうけど、2人の複雑な心情が全くと言っていいほど伝わってこない。
男は妻の浮気を平然と許し、浮気男のセックスを応援したりする。
女は色んな男と浮気する一方で、夫の腎臓提供に大反対するなど男の独占欲を見せる。
風変わりな男女の形なのだが、それが不可解なままで終わってしまったのは残念だ。

つかこうへいの舞台劇として、こちらはドサ回りの世界を描いているが、映画界を描いたものとして名作の「蒲田行進曲」がある。
宗介のどれだけ相手に裏切られても信じ続ける態度は、「蒲田行進曲」のヤスを連想させ、一方で、父親や団員に悪態をつき、弟の会社でコーヒーをぶちまける姿には「蒲田行進曲」の銀ちゃんを連想させる。
一芝居打った父親の謀略で宗介はレイ子と結婚することになるが、最後に観客に深々とお辞儀するのは「蒲田行進曲」へのオマージュだろう。
若松孝二の作品としては特異な作品に入るのかもしれない。

北村宗介一座はデマカセ一座で、美空ひばりの隠し子だとか、越路吹雪の替え玉だとかを正々堂々と述べているのだが、コマドリ姉妹として柴田理恵が出てきたり、松島アキラの「湖愁」が歌われたりと、往年の歌謡曲ファンなら楽しめるエピソードも盛り込まれている。
最後で原田芳雄の宗介が「愛の賛歌」を歌うシーンがあるのだが、いいんだわあ~、原田芳雄の歌。
僕は歌手としての原田芳雄も大好きで、カセットテープ時代にはよく聞いていた。
独特の歌い方をする人で、このシーンでも女装した彼がしわがれ声で、それこそリサイタルにおける熱唱の感を与え、僕はこの歌を聞くだけでもこの映画を見る価値があると思う。
ユニークな役者さんが大勢出ているが、結局は原田芳雄の一人芝居だった。