おじさんの映画三昧

旧作を含めほぼ毎日映画を見ております。
それらの映画評(ほとんど感想文ですが)を掲載していきます。

ハード・ボイルド/新・男たちの挽歌

2021-08-29 07:17:42 | 映画
「ハード・ボイルド/新・男たちの挽歌」 1992年 香港


監督 ジョン・ウー
出演 チョウ・ユンファ
   トニー・レオン
   テレサ・モウ
   ウォン・チョーサン
   フィリップ・チャン
   ボウイー・ラム

ストーリー
ユン警部補(チョウ・ユンファ)=通称テキーラは腕利きの警官だが、その強引なやり方から拳銃取り引きの現場で乱闘となり、相棒のア・ロン(ボウイ・ラム)が殺されてしまう。
上司のチャン警視(フィリップ・チャン)が秘密捜査官として送り込んだ部下も命を落としてしまった。
数日後、図書館でひとりの男が殺された。
武器輸出を扱うマフィアのボス、ホイ(クワン・ホイサン)の右腕であるトニー(トニー・レオン)の仕事だったが、彼はその腕前ゆえ対立組織のボス、ジョニー(ウォン・チョウサン)からも誘いがかかる。
ジョニーはホイの武器庫を襲撃し、トニーはホイを裏切って彼を殺した。
その銃撃戦の現場に駆けつけたユンはトニーと激しく撃ち合うが、最後のところで何故かトニーはユンを殺さなかった。
トニーは実はチャンに送り込まれた裏刑事であり、より大きなジョニーの組織を壊滅するのが目的だった。
事情を知ったユンはトニーと反目し合いながらも、協力して秘密武器庫がある病院に侵入。
チャンや彼の秘書でユンの恋人でもあるテレサ(テレサ・モー)をはじめ警官隊も駆けつけ、大銃撃戦となる。
大勢の患者を人質に取られ、敵の凄腕の殺し屋(國村隼)によりボロボロになりながらも2人はジョニーを追い詰めていく。
トニーはジョニーの人質となってしまうが、トニーは自ら死を選ぶ。
彼の犠牲によりジョニーはユンによって射殺され、長い戦いは漸く終わるのだった。


寸評
潜入捜査官を描いた作品に「インファナル・アフェア」という作品があるが、同じ潜入捜査官を描いていてもこちらはすさまじいまでの銃撃戦がメインとなっている。
冒頭で描かれる飲食店での拳銃取引場面から銃撃戦全開である。
警察とマフィアの対決だが民間人も一杯犠牲になっていて、この映画のスタイルが明示された場面となっている。
その前のタイトルバックにもなっているユンによるジャズ演奏が曲もマッチしていて雰囲気が出ていたのだが、ユンがジャズ演奏するのがその後出てこなかったのは演出モレと思える。
冒頭で雰囲気を出していたのだから、エンディングでもそうして余韻を残して欲しかった。

香港の拳銃密売組織グループの対立が発端だが、一方のホイがジョニー側にいとも簡単に殺されてしまうのは拍子抜け感がある。
トニーは凄腕の殺し屋のような雰囲気で登場するのだが、彼がホイを裏切ってジョニーに加担する動機なりジレンマなりを全くと言っていいほど省略しているので、トニーがジョニーの組織に食い込んでいく過程がいとも簡単そうに見えてしまう。
この手の作品の常なのだが、トニーやユンは撃たれても死なないが、相手側の人間は銃撃戦で次々死んでいく。
そんなに弾が入っているのかと思ってしまうほど拳銃でも乱射しまくる。
ガラスが割れ、器物がどんどん破壊されていく。
物陰から飛び出したり、横っ飛びしながら撃ちまくるガン・ファイトは見ていて気持ちがいい。

銃撃戦に比べると人物描写は省略気味となっている。
チャン警視の人物像はトニーと語らう場面でのみ示されている風で、非情な警視なのか温情ある警視なのか、実力はどの程度なのかなど最後までよくわからなかった。
婦人警官と思われるテレサも結構重要な役だと思うが、彼女の存在が生かされていたとは言い難い。
ユンの恋人らしいが、二人の関係の深さはどの程度なのかは想像の範囲に収まっている。
病院での赤ちゃんの救出劇では、前半で例えば赤ちゃんを欲しがっている二人を描き込んで置くなど、二人の関係をもう少し生かした演出が出来たはずだ。
赤ちゃんの救出劇は作品中では唯一ヒューマニティに飛んだシーンとなっている。
テレサは白い花が届けられるたびにカードをチャン警視に届けているから、潜入捜査官の存在、カードが連絡暗号になっていることなどを知っていたと思うのだが、そのミステリー性はなかった。
その為に僕はテレサの存在を中途半端と感じてしまったのかもしれない。

病院での銃撃戦の迫力は特筆もので、これぞ香港映画と言った感じで、この作品における一番の見せ場だ。
しかしマフィア側が逃げる患者たちを上から狙い撃ちするのは何故なんだと思う。
大勢の患者たちが巻き添えを食うが、狙い打たれる理由はなかったのに見せ場の巻き添えを食った感じだ。
混乱の中でトニーは誤って仲間であるはずの刑事を撃ってしまう。
もう少し劇的に描いても良かったと思うが、銃撃戦の中の変化としては的確な演出となっている。
香港ノワールというより「ダイハード」の香港版と言った方がいい作品だ。