おじさんの映画三昧

旧作を含めほぼ毎日映画を見ております。
それらの映画評(ほとんど感想文ですが)を掲載していきます。

日日是好日

2021-08-15 07:05:31 | 映画
「日日是好日」 2018年 日本


監督 大森立嗣
出演 黒木華 樹木希林 多部未華子 原田麻由
   川村紗也 滝沢恵 山下美月 郡山冬果
   岡本智礼 荒巻全紀 鶴田真由 鶴見辰吾

ストーリー
大学生の典子(黒木華)は、突然母親(郡山冬果)から茶道を勧められる。
戸惑いながらも従姉・美智子(多部未華子)とともに、タダモノではないという噂の茶道の先生・武田のおばさん(樹木希林)の指導を受けることになる。
美智子は商社での採用を勝ち取るが、典子は希望の出版業に正社員としての採用はかなわず、アルバイトとして働く日々。
先にお茶をやめた美智子はその後、結婚して田舎に引っ込んだ。
大学を卒業しても、いまだに就職もせずに30代に突入した典子は、大学を卒業して茶道をやめ、すぐに就職をし、お見合いをするために退職し、婚約をして子どもも生まれた美智子との間に遠い距離を感じていた。
典子は家を出て一人暮らしをしながらのフリーライターとして日々を過ごしていたが、気が付くとお茶の教室では古株になったにもかかわらず、お茶として工夫や進歩がないと先生に厳しい一言も受けてしまう。
憧れの雪野(鶴田真由)には遠く及ばず、ずっと下の後輩として入ってきた10代のひとみ(山下美月)の持つ素質に驚かされてしまう日々を送る典子。
10年間辞めずに続けてきた茶道を通して大切なことをたくさん学んだ典子はやっと出版社に面接をしに行くことになったがそれもダメで、ずっと付き合っていた彼氏とも別れて落ち込んでいた中、疎遠になっていた父親(鶴見辰吾)の死を知り、武田のおばさんと泣いた。
典子も先生も年を取って日々を過ごしていく中で、それでも、お茶を続ける典子は、やがて何でもない日々、お茶を楽しめる幸せを感られることの素晴らしさを改めて感じていく。


寸評
典子の20歳から40歳過ぎ迄の姿を茶道を通じて描いている。
美智子は商社を退職し結婚し子供も生まれるが、典子は結婚直前で男の裏切りで破談になっている。
典子は美智子の結婚式に出席しているが、友人の結婚式にも出席していたはずで、結婚と言うことに関しても徐々に取り残されていくのを感じていたはずだ。
しかしそのような典子の姿は描かれず、典子の短い独白で終わっていて、映画はあくまでもお茶の稽古にいそしむ典子の姿を追っていく。
僕の叔父も裏千家のお茶の先生をしていて、家元さんが開かれる初釜にも招待されていたから、その道では相当なものだったと思うが、僕は指導を受けたことがない。
したがって、茶道のことに関しては全く無知なので、樹木希林が説明する袱紗捌きを初めとする説明に、逐一へええそうなのかと感心するばかりである。
女優の宮本信子さんがNHKのドラマで合気道の師範役をやることになって、僕の知人の通う道場に教えを請いに来られたことがあったらしい。
道場の師範は「長年稽古を積んでいる君たちより呑み込みが早くて姿勢も良く、合気道の型も見事に決めていた」と告げられたと知人は言っていたが、俳優さんにはそのような天賦の才があるのかもしれない。
本作における樹木希林を初め、黒木華も多部未華子も一夜漬けのような特訓だったらしいが、僕には立派な先生に見えたし、二人の上達の様子も納得させるものがあった。
夏のお点前と冬のお点前があることも初めて知った。
十分な稽古を積んでいる人には物足りない部分もあったかもしれないが、素人の僕には楽しむことができる稽古風景が繰り広げられている。
言い換えればお茶の稽古風景ばかりで、大きなドラマがあるわけではない。
出来事は典子の独白で処理されているだけなので、物語としてみると物足りないものがある。
何をやってもうまくいかない典子のあせりと悩みのようなものは全く伝わってこないし描かれていない。
しかし、それを補って余りあるのが季節の移り変わりと共に繰り広げられるほのぼのとした空気感だ。

典子にとって一番大きな出来事は父親の死だ。
父親が近くまで来たので典子の家に立ち寄りたいと電話を入れるが、典子はそれを断る。
夜に電話を入れると父親はすでに休んでいてそのまま帰らぬ人となってしまう。
父親はその日、家族皆で筍ご飯を食べようとしていたらしいがそれもかなわなかった。
典子は悔やむが、同じような気持ちになったことがある武田先生の樹木希林が典子を慰める。
このシーンはすごくいい。
桜の花が舞い散り、黒木華の典子が「ぱっと桜が散るように逝ってしまいました」と言うと、樹木希林は少し間を置き「ぱっ」とつぶやき、そしてまた少し間を置き「一人でしょい込むことはないのよ」と慰める。
あの「ぱっ」は樹木希林のアドリブ演技だったと思う。
晩年の樹木希林はこのような一瞬の表情や仕草に素晴らしい演技を見せた。
「日日是好日」とは、あるがままを良しとして受け入れることのようだが、僕はなかなかその境地にはなれない。
ところで、典子は新しい恋に出会っているが、その彼氏とはいったいどうなったのだろう? 気になった。