おじさんの映画三昧

旧作を含めほぼ毎日映画を見ております。
それらの映画評(ほとんど感想文ですが)を掲載していきます。

南極料理人

2021-08-10 07:38:59 | 映画
「南極料理人」 2009年 日本


監督 沖田修一
出演 堺雅人 生瀬勝久 きたろう 高良健吾
   豊原功補 西田尚美 古舘寛治 小浜正寛
   黒田大輔 小出早織 宇梶剛士 嶋田久作

ストーリー
1997年、南極。昭和基地から1,000キロ離れた高地にある南極ドームふじ基地では、8人の隊員が一年間の共同生活を送っていた。
その1人、西村(堺雅人)は隊員たちの毎日の食事を用意する調理担当だが、食材は冷凍、乾燥、缶詰が基本で、様々な制約を受ける中で、いかに隊員たちにおいしい食事を届けるかが彼の仕事だった。
西村は妻のみゆき(西田尚美)と娘の友花(小野花梨)、赤ん坊の航という家族を残してきている。
雪氷学者の本さん(生瀬勝久)の誕生日には、牛肉の丸焼きがテーブルに並ぶ。
時が経ち、次第に髪はボサボサ、髭も伸び放題、保存していた食材も次第に減ってゆく。
ラーメンがないと不満を漏らす気象学者のタイチョー(きたろう)。
仕事をサボって遊んでいた主任(古舘寛治)は、平さん(小浜正寛)に追いかけ廻される。
その騒動で揉み合う中、西村がお守り代わりに持ち歩いていた友花の乳歯がなくなってしまう。
フテ寝する西村だったが、自分で料理を作ろうと悪戦苦闘する隊員たちの姿を見て、再び厨房へ。
ある日、意を決した西村は、ありあわせの材料で手打ちラーメンを作る。
やがて帰国のときが訪れ、西村は食堂をきれいに片付け、包丁をしまってキッチンを後にする。
出迎えでごった返す空港で家族の姿を見つけた西村は走り出す。
そして、すべてがごく普通の日常へと戻っていくのだった。


寸評
南極を舞台にした物語といえば、シリアスな作品が多いが、こういうライトなコメディーは珍しい。
オープニングは過酷な勤務から逃げ出そうとしている隊員を別の隊員が励ますと思わせるシーン。
この時点ではシリアス作品とおもわせたのだが、次のシーンでは「麻雀のメンバーになりたくない」だけだったという話で、「ああなんだ、こういうタッチの作品なんだ」と知らされる。
男8人、まるで大学の男サークルの合宿風景みたいで、懐かしさを覚えると同時に楽しそうな彼等に羨望の気持ちが湧いてくる。
それもそのはずで、全編を通じて彼らの過酷な勤務状況は描かれない。
描かれているのは彼等の必死の作業ではなく、そこから逃れた自由時間の生活ぶりである。
これぐらいのバカをやらないと、とても男ばかりで生き物もいない極寒の地で1年半も過ごせないだろうと納得させられる。
そのバカぶりを南極での食事を中心に色んなエピソードでつないでいく。

南極料理人は、限られた食材なので同じ食材を工夫しながら別料理にするとかの話を耳にしたことがあるが、そのようなエピソードはなく、毎回違った料理が提供されてどれもが実に美味そうである。
日本国内の家庭で食べているものと違いはないのだと言いたいのか、家庭的な料理が多く登場してくる。
それでも信じられないような物も出てきて笑いを誘う。
伊勢海老のエビフライが筆頭だろう。
食材に前の調査隊が残していった伊勢海老があると判り、西村は刺身を提案するが隊員全員が「気分は皆エビフライだからね」と言ったためだ。
俺の体はラーメンでできていると言うタイチョウのラーメン騒ぎも笑わせる。

登場人物はユニークな風采の人間ばかりで、通信担当の黒田大輔やドクターの豊原功補なども、存在しているだけで笑わせる。
男ばかりで人目などを気にしなくていい状況なので、かれらの服装そのものが学生の合宿並みなのだ。
おまけに長期間家庭を留守にする彼らは家族にも見捨てられていて、西村は「お父さんがいなくてとても楽しいです」と言われるし、本さんは1分740円の電話を掛けても奥さんに「話したくない」と言われる始末である。
本さんがつぶやく「やりたい仕事がここにあるだけなんだけどなあ…」は男にとっては心に響く。
雪氷サポートの兄やんと呼ばれる高良健吾は究極の遠距離連来をしているが、彼女にフラれてしまう。
しかし帰るに帰れない。
それでも帰国すれば待ってくれていた人たちがいる。
本さんの奥さんは本さんにすがって涙を流すし、西村の家族も笑顔で迎えてくれている。
兄やんには国際電話受付担当の清水さんが迎えてくれた。
そんな愛情物語を描き込んでいたら、もう少し一本スジの通った作品になっていただろう。
しかし公開電話での西村と家族とのやり取りの終わり方を見ていると、意識的にそれらを排除したのだと思う。
そうすることで平凡な日常生活のありがた味を訴えたかったのかもしれない。
ドクターは言っていたとおり、非日常的なことをやっていたけど…。