おじさんの映画三昧

旧作を含めほぼ毎日映画を見ております。
それらの映画評(ほとんど感想文ですが)を掲載していきます。

チャイナ・シンドローム

2021-05-30 07:36:21 | 映画
「チャイナ・シンドローム」 1979年 アメリカ


監督 ジェームズ・ブリッジス
出演 ジェーン・フォンダ
   ジャック・レモン
   マイケル・ダグラス
   ダニエル・ヴァルデス
   ジム・ハンプトン
   ピーター・ドゥナット

ストーリー
キンバリーはロサンゼルスのKXUAテレビ局の人気女性キャスターで、ある日、彼女は、カメラマンのリチャードと録音係のヘクターをともなって、ベンタナ原子力発電所の取材に出かけた。
広報担当のギブソンの案内で取材を開始した時に突然震動が起こり、大騒ぎの制御室の中では技師のジャックが冷静に指示を与えていた。
やがて、放射能もれがわかって原子炉が緊急停止され、その様子をリチャードが秘かにカメラに収める。
しかし、プロデューサーのジャコビッチは、このニュースを流すことに反対した。
調査の結果、その後の発電所に異常が認められないため、運転が再開されることになるが、ただ1人、ジャックだけは不安な予感を抱いていた。
ジャックは、かすかな震動を感じ、原子炉を調べにいくと、やはりポンプの一つにもれがあった。
もう少し様子をみてから運転を再開すべきだというジャックの忠告に、所長は耳をかそうともしなかった。
クビを言い渡されたリチャードのフィルムを見た物理学者のローウェル博士は、もう少しでチャイナ・シンドロームになるところだったと断言した。
チャイナ・シンドロームというのは、原子炉の核が露出した時、溶融物が地中にのめりこんでいき、地球の裏側の中国にまで達するという最悪の事故のことだ。
事故の原因追求に悩みぬいた末、ジャックは世論に真相を訴える決意をするが、何者とも知れぬ者たちが動き出し、ジャックも命をねらわれたので、彼は残された1つの手段を決行することにした・・・。


寸評
原発事故をサスペンスを持ち込んで描いた作品だが、2011年3月11日に発生した東北地方太平洋沖地震により、東京電力福島第一原子力発電所で電源喪失が起こり冷却不能となり水蒸気爆発の可能性が高まったため、弁を開いて放射性物質を含んだ水蒸気を大気中に放出し、燃料棒も一部が溶解するメルトダウンを起こした事故を目の当たりにしているだけに、原発事故の恐ろしさをそれほど感じない内容となっているように思うが、 ジェーン・フォンダ、ジャック・レモン、マイケル・ダグラスと役者をそろえたエンタメ性豊かな作品となっている。

チャイナ・シンドロームはこの作品によって用いられるようになった造語であるが、原発事故においては度々使用されていて珍しい言葉ではなくなった。
核燃料が溶け落ち、その高熱により圧力容器や格納容器の壁が溶けて貫通し、放射性物質が外に溢れ出すことはメルトスルーとも呼ばれている。
米国の原子炉がメルトスルーを起こしたら、核燃料が溶けて地中にのめりこみ、地球の裏側にある中国にまで達する事態になるのではないかということから、チャイナ・シンドロームというネーミングになっているが、米国の裏側は中国ではないし、地球を貫くようなことは現実には起こらないのでジョークの一種と言える。

描かれたことは恐ろしい出来事なのだが、現実の原発事故ではもっと恐ろしいことが起きている。
この映画が製作された頃にはセンセーショナルだったかもしれないが、今見ると甘いものに見えてしまう。
制御室では暴走を始めたシステムに慌てふためくシーンが用意されているが、福島原発事故時の事務所の様子は僕の知りうる限りの報道においてもはるかに緊迫の度合いは高いものだったように思う。
本社や政府から飛び込んでくる間違った指示に対して、当時の吉田所長が電話応対で了承の返事をしながら、部下には適切な指示をしていた事実などはまさにそれだ。
手作業の操作が必要となり、放射線濃度の高い場所へ行かねばならなくなった時に、自らの命を懸けて向かった職員の存在などもその一端である。
水蒸気爆発を避けるためにベントを行うかどうかの判断も迫られていた。
文字起こしをするだけでも、映画で描かれた以上の緊迫感が伝わってくるのだ。
福島原発の事故を目の当たりにした後にこの作品を見ると、原子力発電の危険性そのものの恐ろしさと、そしてそれを隠そうとする「組織」の隠蔽体質の恐ろしさが、まさに現実のものとそっくりなのに驚いてしまう。
組織とは東京電力であり日本政府だ。
映画では娯楽的要素を盛り上げるために電力側は人殺しまで試みる。
現実がそこまでは行くことはないにしろ、とにかくどんな手を使ってでも自分たちにとって不都合・不利益な真相は揉み消したいという願望は映画も現実も似たようなものだろう。

電力会社の会長を初めとする経営陣、トップからの命令に従わざるを得ない組織人の発電所の所長、同じく会社人間の広報担当者などが、抗うことを忘れてひたすら事故の隠ぺいに走り出す。
組織と言う見えない魔物の恐るべき力だ。
会長はテレビカメラや記者たちを現場に入れるが、同時にSWATも要請しジャックを射殺させている。
この両極端を同時に行うアメリカという社会は、別の意味で恐ろしい社会のような気がした。