おじさんの映画三昧

旧作を含めほぼ毎日映画を見ております。
それらの映画評(ほとんど感想文ですが)を掲載していきます。

ダイナマイトどんどん

2021-05-13 08:37:12 | 映画
「ダイナマイトどんどん」 1978年 日本


監督 岡本喜八
出演 菅原文太 宮下順子 北大路欣也
   嵐寛寿郎 金子信雄 岸田森
   中谷一郎 フランキー堺 小島秀哉
   石橋正次 丹古母鬼馬二 田中邦衛

ストーリー
昭和二十五年、北九州一円ではヤクザ組織の抗争がエスカレートして、まさに一触即発の状態であった。
特に小倉では昔かたぎの岡源組と新興ヤクザの橋伝組がしのぎを削っていた。
この事態に小倉警察署長(藤岡琢也)は、ヤクザ抗争を民主的に解決するために野球大会を提案した。
岡源組、斬り込み隊長の加助(菅原文太)は野球でカタが気に入らず、割烹「川太郎」で飲んだくれていた。
加助は店のおかみ、お仙(宮下順子)にゾッコンまいっていた。
岡源組のシマを狙う橋伝組は、一気に決着をつけようと、札束にものをいわせ、全国から野球上手な渡世人を集めた。
一方、岡源組はシロウトばかり、わずかに戦争で片足を失った五味(フランキー堺)を監督に迎えただけだった。
ジョーカーズとの一回戦、あわや敗退かという時、途中から出場した加助の劇的な長打で逆転した。
勝利に酔う岡源組の前に、岩国の貸元から送られてきた、助っ人、銀次(北大路欣也)が現われた。
銀次の投げる魔球で二回戦は楽勝だった。
加助は銀次がお仙の惚れている男とわかって身を引くことにした。
橋伝組は、岩国に手を延ばして銀次を寝返えらせてしまった。
このことが加助の怒りを一層あおり、岡源組は一人一殺の殺人野球に活路を求めスパイクを尖らせ、バットに鉛を埋めた。
双方の応援団も盛り上がり、岡源組には小倉の芸者衆が、赤いけだしをまくってカンカン踊り、橋伝組には地元のストリッパーのラインダンスとボルテージは最高頂に達した。
サイレンの音とともに試合は始まったが、次々と両軍選手は負傷し、審判も例外ではない。
血みどろの試合展開となり、九回裏3点を追う岡源組の攻撃は二死満塁で加助がバッターボックスに…。


寸評
野球映画の一つではあるが中身はコミカルな内容である。
ヤクザが出入りの代わりに野球でカタを付けようというものだ。
ヤクザ同士の縄張りをかけた試合だけに内容はルール無視の喧嘩野球である。
もともと日本映画では本格的な野球シーンを上手く取り入れた作品が少ないだけに、むしろ完全に茶化したこのようなコメディ映画の方が新鮮である。
嵐寛寿郎親分が率いる岡源組が善玉で、金子信雄親分が率いる橋伝組が悪玉と図式は明瞭。
橋伝組が金に物を言わせてヤクザ組織の中から野球の上手い選手を集めるくだりも面白い。

12の組が参加した大会だが、当然決勝戦は岡源組と橋伝組の試合となる。
エースの銀次が橋伝組に寝返ったので、岡源組の連中はあの手この手の準備をする。
グローブの中の手には強力な金具をはめていて、それで相手を思いっきりタッチしてのしてしまおうとするものや、スパイクをやすりで研いで鋭くし、それで踏んずけようというものである。
その他にも足に鉄板を入れたり、バットに鉛を流し込んだりといった具合だ。
さらにはグローブに胡椒を入れて目つぶしをくらわす準備もしている。
予想通り試合は乱闘騒ぎばかりとなるのだが、残念なのは事前に用意されたそれらの武器が全く描かれていなかったことだ。
どうせならそれらのインチキ用具で相手をギャフンと言わせるシーンを入れてほしかったし、あれだけ紹介したのだから入れるべきだったと思う。

色模様はお仙の宮下順子が一手に引き受けているのだが、気風のいい姉御であり女将でありながら、一途に銀次を思う女を上手く演じている。
やくざ映画らしく殴り込みのための道行もある。
菅原文太は黒の着物で、白装束の小島秀哉が一緒するために待っている。
「昭和残侠伝」だと高倉健と池辺良の役回りである。
しっとりとくる雰囲気を感じさせておいて、コメディなので小島秀哉の留吉が菅原文太の加助の着ている着物に対して「えらいナフタリン臭いのう」とズッコケさせる。
それまでの菅原文太を真面目に描いていただけにこの一言に大笑いだ。

強制労働のために沖縄に送られた加助に仲間が決勝戦のホームランの話をするが、そこで元東急セネタースのピッチャーだった五味が語る最終戦の話は岡本監督らしい。
加助と銀次は王道のヤクザ映画ならわだかまりを解いて兄弟分となるはずだが、相変わらず敵対していることがわかるラストはこの映画らしいし、直前の五味の話が生きていたように思う。

ハチャメチャすぎる内容と、野球の試合らしさが全く出ていない点を受け入れられない人には駄作に思えるだろうけれど、僕は日本映画の中ではトップランクにあげられる野球映画になっていたと思う。