おじさんの映画三昧

旧作を含めほぼ毎日映画を見ております。
それらの映画評(ほとんど感想文ですが)を掲載していきます。

誰も守ってくれない

2021-05-21 06:13:17 | 映画
「誰も守ってくれない」 2008年 日本


監督 君塚良一
出演 佐藤浩市 志田未来 松田龍平 石田ゆり子
   佐々木蔵之介 佐野史郎 津田寛治 東貴博
   冨浦智嗣 木村佳乃 柳葉敏郎

ストーリー
親子4人で暮らしていた船村家の幸福は、未成年者の長男が小学生姉妹殺人事件の容疑者として逮捕されたことで無惨にも崩れていく。
衝撃を受ける両親と沙織に群がるマスコミと野次馬たち。
一家の保護のため、東豊島署の刑事である勝浦と三島は船村家に向かう。
容疑者保護マニュアルに沿って船山夫婦は離婚、改めて妻の籍に夫が入ることで苗字が変わる。
中学生の沙織も就学義務免除の手続きを取らされて、同い年の娘を持つ勝浦が保護することになる。
皮肉にも勝浦の家庭も崩壊寸前の状況で、その修復のために娘の美奈が提案した家族旅行の予定もこの事件によって反故になろうとしていた。
マスコミの目を避けるため逃避行を続ける勝浦と沙織だが、どこへ逃げても居所をつきとめられる。
インターネットの匿名掲示板では、船村家に関する個人情報が容赦なく晒されていった。
心労のため保護の目をかいくぐって自殺してしまう母、そしてそれを知った沙織は、ますます錯乱する。
勝浦がたどりついたのは、伊豆のペンションだった。
主人である本庄圭介と妻の久美子のひとり息子は、3年前に勝浦が担当する事件で殺害された。
勝浦の失態は、自身と本庄夫婦の心に大きな傷を残していた。
秘密裡であるはずの二人の行動はネットに依存する野次馬たちの悪意に追跡されていた・・・。


寸評
導入部がシャープな映画はのめり込み安い。
この映画もオープニングシーンから緊迫感を映し出して一気に引きこむ。
背後に流れるテーマ曲が盛り上げて、手持ちカメラの多用によってドキュメンタリー性を醸し出す。
被害者家族と加害者家族という相反する家族に降りかかる苦悩。
本作は加害者の家族に焦点を当て、家族の絆を浮かび上がらせていく。

マスコミとネット社会の暴走にさらされる15歳の少女の姿を描きながら、暴走するマスコミやネット社会を強調しすぎる演出も見られるが、その非現実さをそれぞれの設定でカバーしている点が評価対象の一つだ。
ディテールの不自然さはあるが、わかりやすい展開にしてエンターティメント性を高めようとしているのだと思う。
「加害者の家族も同罪だ」と新聞記者に叫ばせているが、いくらなんでもそのような発言をする記者はいないだろうと思う。
ところが、この記者は子供が学校でイジメを受けて目下不登校になっている事情を抱えており、「学校はいじめられた側よりいじめた側を守った」とつぶやかせて、なんとか前言の不自然さを補っている。
ネット社会の異常性と信じられない行動に、「ネットでは情報に一番近い奴がカリスマだ」と叫ばせてフォローする。
そして主人公の勝浦が過去に出会った事件との絡みが深みをもたらしていて、自らもそうであることで一生追いかけられるという事を証明している。
相棒刑事の松田龍平はピアスにとっぴな髪型、おしゃれなコートと到底刑事には見えぬ風体。
一方、主人公を助ける木村佳乃などは、会話に意味不明なフランス語をまぜる奇天烈なキャラクターだ。
リアリティを追求する観客にとっては疑念を差し挟む余地のある映画だが、これは楽しませる映画なのだ。

カーチェイスなどもあり見どころを蓄えたよくできた脚本だと思うのだが、過去の被害者夫婦はダンナが切れる場面が有るとはいえ、少し立派すぎないか?
両親の離婚手続き、再婚手続きで姓の変更を行い、就業免除手続きを一気に行うあまりの手際の良さに本当なの?と疑ってしまう。
勝浦の家族の絆もかろうじて繋がっている状態なのだが、それを一切登場しない沙織と同年代と思われる娘の携帯電話による会話で示し、つなぎ止めるための小道具であるプレゼントが効果的に用いられていた。
徐々に痛んでいくパッケージを修復する姿は、家族を守り続ける姿の象徴でもあった。

最後に勝浦の手に渡されるのは映画として当然の成りゆきなのだが、なんとか彼の家族も修復をきたすことを願ってやまない気持ちにさせるラストも良かったと思う。
彼女は自分で自分を守らなければいけないが、しかしそれはけっして孤独だということではない。
どんなにひどい仕打ちを受け、傷つけられても、温かい手を差し伸べてくれる人がどこかに必ずいるはずだ。
そんなことを感じさせてくれる。
重いテーマながら見事にエンタティンメント化したいい作品だと思う。