おじさんの映画三昧

旧作を含めほぼ毎日映画を見ております。
それらの映画評(ほとんど感想文ですが)を掲載していきます。

暖流

2021-05-23 10:41:41 | 映画
「暖流」 1957年 日本


監督 増村保造
出演 根上淳 左幸子 野添ひとみ
   小川虎之助 村田知栄子 船越英二
   清水谷薫 品川隆二 大山健二
   小杉光史 春本富士夫 丸山明宏

ストーリー
日疋(根上淳)は病床にいる恩人の志摩博士(小川虎之助)から病院の建てなおしを依頼され何年ぶりかで東京の土を踏んだ。
病院内は院長の息子泰彦(船越英二)の無能をよいことに、その腐敗は目にあまるものがあった。
日疋は看護婦の石渡ぎん( 左幸子)と知り合い、彼女から病院内の情報を手に入れることになった。
やがて日疋はぎんから愛情を寄せられるようになったが、彼は院長の娘啓子(野添ひとみ)に憧れに近いものを抱いていた。
啓子の婚約者笹島(品川隆二)の素行をなかば義務のように調べたが、その女性関係は乱脈をきわめていた。
日疋はそれを啓子にありのまま伝えたが、啓子はかえって日疋を軽蔑した。
そんな啓子も笹島の情事の現場に出あってから笹島の求愛を退けるのだった。
院長の死は病院乗っ取り派の連中にはもっけの幸だったが、日疋は関西の資本家を動かすことに成功、新院長も決定し、乗っ取り派を追放することができた。
病院が新しい組織と陣容で立ち直ったのを見た日疋は辞表を提出することに決めた。
病院をやめて派出看護婦となった石渡ぎんは、最後の機会にと啓子を呼び出したが、啓子も今では日疋に愛情を抱くようになっていた。
二人は互いに日疋との結婚を胸に秘めて、冷い空気の中で別れた。
志摩家を訪れた日疋は、陽の傾いた波打際で、啓子から愛情を打ち明けられたが、「あなたは僕のことなんか考えないで、どこまでもあなたの夢を育てなさい。今日あなたとこんな静かに会えるのは、きっと僕が、石渡君と結婚の約束をしたからなんですよ」こう語るのだった。


寸評
非常に有能な男が何不自由なく育った令嬢にひかれながらも、ひたむきな愛情を注ぐ下層の女性と結ばれると言う恋愛ドラマの王道のようなストーリーなのだが、受ける印象はまったく別なものである。
登場人物たちは皆、どこか嫌味のある者たちばかりである。
日疋は孤児だった自分を援助してくれた病院長に恩義を感じて志摩家の借財の整理と病院の立て直しに辣腕を振るうが、当人は自信過剰で感情を表に出さない男だ。
啓子は清楚な令嬢なのだろうがブルジョア娘のいやらしさがある。
石渡ぎんは病院で起きていることを嗅ぎまくるしたたかな女で、下品とも思える笑い声を発する。
病院長の妻は後妻で優柔不断、何事にもオロオロするばかりでまともな判断が出来ない。
院長の息子泰彦は見るからに道楽息子という感じで、義理の母をよいことに金をせびるダメ男である。
もちろん病院の乗っ取りを企む事務長や医師たちは論外だ。
それぞれのキャラクターは際立って強調されている。

中心は根上淳の日疋、野添ひとみの啓子、左幸子の石渡ぎんである。
この三人の性格は正三角形の頂点に居るような感じで、それぞれに際立った差異がある。
日疋は偶直なまでに感情をコントロールする男である。
自分が納得していないことでも金の都合をつけてやるし、志摩家に忠告はしても強要することはしない。
啓子に対する思いも顔に出すような所がない。
啓子も日疋と同じように感情を押し殺す女性だが、その時にとる態度は日疋とは全く別で自分の気持ちと反対の言動、態度を取ってしまう。
啓子とは逆に感情を思い切り表に出すのが看護婦の石渡ぎんである。
野心的なものを感じさせる女性で日疋に取り入っているように見えるが、それは純粋に日疋への愛ゆえだったのだとわかる展開に、僕は意表を突かれた思いがした。
同様に高慢だった啓子が日疋に愛を打ち明けるながら拒否されて去っていく展開も予想外だった。
どちらも僕の読みが甘いと言わざるを得ない。
スッキリしない感情を持ちながら見ていた作品だが、一番感動をもたらしたのは、去っていく啓子の後姿を映し続け、そしてそのあと義母とかわす一連のやりとりのシーンだった。
お嬢様としての清らかさと、自我を持った強い女性を感じさせた。
このシーンい出会って、僕はやっとのことで、この映画のヒロインは啓子の野添ひとみだったのだと改めて知らされた思いがした。
日疋は結局石渡ぎんを選ぶことになる。
この期に及んでの石渡ぎんはやけにしおらしい。
今迄の彼女と全く違う女の姿である。
強い! 雑草のような女である。
この後、彼らはどのような生活を送るのだろう。
平穏で幸せな家庭なのか、それともドロドロの人生になってしまうのだろうか。
ドロドロを連想させる描き方があっても面白かったかもしれない。