おじさんの映画三昧

旧作を含めほぼ毎日映画を見ております。
それらの映画評(ほとんど感想文ですが)を掲載していきます。

チェイサー

2021-05-28 07:30:21 | 映画
「チェイサー」 2008年 韓国


監督 ナ・ホンジン
出演 キム・ユンソク
   ハ・ジョンウ
   ソ・ヨンヒ
   チョン・インギ
   パク・ヒョジュ
   キム・ユジョン

ストーリー
デリヘルを経営している元刑事のジュンホは、店の女の子たちが相次いで失踪する事態に見舞われていた。
やがて最後に会ったと思われる客の電話番号が同じ事に気づくジュンホ。
そして、その番号は直前に送り出した子持ちのデリヘル嬢ミジンの客とも一致していた。
ほどなくミジンとの連絡が取れなくなり、心配したジュンホはミジンの行方を追う。
すると、通りで不審な男ヨンミンと遭遇する。
そして、男が問題の電話番号の持ち主であることを突き止めたジュンホは、格闘の末に男を捕縛、2人はそのまま駆けつけた警官に連行されていく。
「女たちは俺が殺した」と告白するヨンミンだが、自供のみで物的証拠はない。
そして右往左往する刑事たちに、ヨンミンはミジンがまだ生きていることをほのめかす。
ヨンミンの拘束時間はわずか12時間。
刑事たちが死体を捜すことに躍起になる中、ジュンホだけはまだ生きているはずのミジンを必死に探しまわる。
そして証拠があがらぬままヨンミンが釈放される。
ヨンミンの行く場所に必ずミジンがいる。
ヨンミンVSジュンホの決死の追撃戦がはじまった。


寸評
登場人物にすごくリアリティ感があった。
美男美女が登場する犯罪映画ではない(ミジンのソ・ヨンヒは美形だが)。
生々しい人間たちが動き回る。
韓国の街の雰囲気が映画とマッチして緊迫感を出すことに貢献していた。

官僚組織の権威主義やメンツ主義と警察の失態なども描かれるが、それらを告発する映画ではない。
たしかに元刑事で、いまは出張ヘルスを経営しているジュンホが警察のやり方を非難し自らミジンを探し回るが、その事は警察の無能ぶりを際立たせるのではなく、むしろジュンホ自身のバイタリティやキャラクターを際立たせていた。
彼は自分の経営するデリバリーヘルスの商品である女たちを取り返すために奔走していたが、やがてそれは元刑事の本能を呼び起されてミジンを探しているように思われてくる。
ミジンの娘の存在がそんな変化を補佐していたし、キム・ユジョンがそのしっかり者の娘好演していて後半を盛り上げる。
気の強いその少女が泣き叫ぶ車中のシーンは心を打った。

ハ・ジョンウが演じた犯人のヨンミンはどこか「羊たちの沈黙」のレクター博士を思わせるところがあって興味深かった。
婦人警官の生理を嗅ぎわけるその道の異常者振りを普通に演じていて不気味さを一層醸し出していた。
演出はスピーディでオープニングから一気にたたみかけて飽きさせることがない。
シーンごとのカット割りも素晴らしく音楽も効果を盛り上げる。
エンディングも実にいい。
絶望でもあり、希望でもある、余韻を残すエンディング処理だった。

実話をモデルとした連続猟奇殺人事件だが残酷シーンを直写して射幸心をあおるような安易な演出をしていないところが良い。
これがデビュー作だというナ・ホンジン監督の力量は並々ならぬものがある。
まさか、この一作で終わってしまう監督ではない事を祈って次回作を楽しみにしたい。