おじさんの映画三昧

旧作を含めほぼ毎日映画を見ております。
それらの映画評(ほとんど感想文ですが)を掲載していきます。

ソナチネ

2021-05-07 07:03:06 | 映画
「ソナチネ」 1993年 日本


監督 北野武
出演 ビートたけし 国舞亜矢 大杉漣
   渡辺哲 勝村政信 寺島進 
   矢島健一 南方英二

ストーリー
北嶋組幹部・村川(ビートたけし)は、組長から沖縄の友好団体・中松組が敵対する阿南組と抗争しているので助けてほしいとの命令を受けた。
村川の存在が疎ましい幹部の高橋(矢島健一)の差し金だったが、結局村川は弟分の片桐(大杉漣)やケン(寺島進)らを連れて沖縄へ行く。
沖縄では中松組幹部の上地(渡辺哲)や弟分の良二(勝村政信)たちが出迎えてくれるが村川らが来たことでかえって相手を刺激してしまい、抗争はますます激化。
ある者は殺され、ある者は逃げ出す。
生き残った村川、片桐、ケン、上地、良二の五人は海の近くの廃家に身を隠した。
ある夜、村川は砂浜で女を強姦した男を撃ち殺した。
それを見て脅えもしない若い女・幸(国舞亜矢)はいつのまにか村川と一緒にいるようになる。
東京に連絡を入れても高橋がつかまらず、イラつく片桐をよそ目に、海辺でロシアンルーレットや花火や釣りに興じる村川。
だが殺し屋などによってケンも片桐も上地も殺されてしまう。
やがて沖縄にやって来た高橋を村川は捕まえ、阿南組と組むために村川たちを破門にし、中松組を解散させようと企んでいることを聞き出して彼を殺す。
そして手打ち式の会場に襲撃をかけるが、生き残り、幸の持つ廃家へ向かう途中、村川は銃口をこめかみに当て自ら命を絶つのだった。


寸評
ソナチネとはクラシック音楽の形式の一つで、楽章数は2つないし3つでソナタより少ない小規模なものをいうらしいのだが、映画「ソナチネ」はそれになぞらえて小ネタを繰り返し描いている作品である。
その中で、ビートたけし演じる村川という男を死に魅了された男として描いている。
冒頭で寺島進のケンに「ヤクザやめたくなったな。なんかもう疲れたよ」と語っている。
またロシアン・ルーレット遊びに興じ、幸には「死ぬのを恐れすぎると死にたくなっちゃうんだ」と語っているのも、彼が死を意識している証であろう。

村川はヤクザ組織の幹部で沖縄の抗争に助っ人として派遣されるのだから、本筋はヤクザの抗争が描かれるべきものであるが作品の重心は大人の遊びに置かれている。
スナックでの襲撃場面以後は、何もすることがないからと遊んでいるだけの村川、ケン、良二を描き続ける。
彼らが行っている遊びは子供の遊びだ。
紙相撲に興じたと思えば、砂浜に海藻で土俵を作り相撲を倒しむ。
そこでも紙相撲よろしくふざける彼らである。
村川は砂浜に落とし穴を作り、そこに若いもんを誘い込んで楽しんでいる。
冷静な大杉漣までもが騙されて落ちてしまい笑いを誘うような小ネタがあちこちに出てくる。
花火合戦などは、まるで若者たちがキャンプで大騒ぎをしているようなものだ。
どれもが、いい大人が何やってるんだといった類のものである。
男はいつまでたっても子供なのだろうし、大人って社会生活の中で作り出された虚像なのかもしれない。

村川はヤクザ社会に居るが仕事人間なのだ。
片桐という頼もしい弟分もいるし、忠実な部下のケンもいる。
彼は組の為に必死で働き、北海道の抗争では手下を何人も死なせている。
片桐は普段は大人しい男なのだが、時として「お前んとこの電話機は貯金箱か!」と凄んだりする。
それでも村川や片桐はどこか疲れているように見える。
会社に縛られて必死に働いているサラリーマンが疲れているのと変わらない。
まるで自分の姿を見せられているようで、流石にそれを見せられてはこの映画がすこぶる興行成績が悪かったのも納得してしまう。

ヤクザ映画に付き物のように村川は組長の使い捨てに使われ、組長の裏切りを知る。
そして手打ち式の会場に一人で乗り込みマシンガンで皆殺しにする。
遊び相手もなくし、やることのなくなった村川は魅せられていた死へ向かうしかない。
ソナチネ同様、村川にとっては人と比べると短い人生だった。
村川は太く短い人生だったとも言えないが、生活の為に働くだけの細く長い人生がいいとは言えない。
僕は、いい人生だった、楽しかったと言って逝きたい。

渡辺哲やチャンバラトリオの南方英二は脇役として光っていた。