おじさんの映画三昧

旧作を含めほぼ毎日映画を見ております。
それらの映画評(ほとんど感想文ですが)を掲載していきます。

警察日記

2021-01-30 11:58:51 | 映画
「警察日記」 1955年 日本


監督 久松静児
出演 森繁久弥 三島雅夫 三國連太郎
   十朱久雄 小田切みき 伊藤雄之助
   宍戸錠 二木てるみ 杉村春子
   東野英治郎 飯田蝶子

ストーリー
東北地方の田舎町の警察署には頑固な石割署長(三島雅夫)、金子主任(織田政雄)、赤沼主任(十朱久雄)、人情家の吉井巡査(森繁久彌)、純情な花川巡査(三國連太郎)、剣道自慢の署長の相手役藪田巡査(宍戸錠)、倉持巡査(殿山泰司)等がいる。
刑事部屋は毎日様々の人で大にぎわいで、今も窃盗容疑の桃代(小田切みき)、神社荒しの容疑者としてお人好の岩太(伊藤雄之助)が取調べを受けている。
駅前では戦争で子供達を失くしてから頭が変な元校長の村田老人(東野英治郎)が交通整理中である。
ある日、中年のお人よしの吉井巡査は六つ位のユキコ(二木てるみ)と赤ん坊の姉弟の捨子を発見した。
預ける所もないので、赤ん坊は料亭の内儀ヒデ(沢村貞子)が、ユキコは自分が引きとった。
若い花川巡査がもぐりの周旋屋に引っかけられた娘(岩崎加根子)を出発寸前に押さえ、その娘から家の苦境を聞き同情を寄せる。
またこの周旋屋の女(杉村春子)を巡って所長が職安の紅林(多々良純)とやりあうことに。
万引きを行った女(千石規子)は子供の空腹を満たすために無銭飲食で再び警察の厄介になる。
好いた女に振られた気のいい馬車屋は自衛隊に入隊し、村人に見送られて旅立っていく。
捨て子が料理屋の女将に引き取られた後、実の母(坪内美子)が現れたが、子供を引き取って三人で心中しようと思っていたと語り、吉井巡査は子供に会わさず女を連れて警察署に向かう。
料理屋の女将に可愛がってもらっている我が子のことを知り、母親は自分が育てるより料理屋で育ててもらった方が子供たちの幸せにつながると別れを決意する。
様々な人の思いを乗せ、村田老人の「バンザイ!」の声に送られ汽車は駅を出発していった。


寸評
会津磐梯山を望む福島県下の田舎町の警察署を中心に様々に繰り広げられる人間模様が描かれる。
ある時は滑稽に、ある時は風刺的に、ある時は哀しく描かれるのでエピソードごとに楽しめる。
当時の世情と風景が描かれ、同時に当時は存在したであろう人情も描かれて感動する。
始まるとすぐに岩田が恋していた女性が花嫁姿でバスに乗り嫁いでいく。
父親は車内で乗客に祝いの酒を振る舞い、バスの運転手も一杯飲んでいる。
完全な飲酒運転なのだが、当時はその程度は許されていたのかもしれない。
三國連太郎の若い巡査は借金に苦しむ娘にポケットマネーから3000円を渡してやり、警察署長は無銭飲食の女性一家に出前の丼ぶりを食べさせ、生活の足しにしろと金を渡しているのだが、今のご時世ではそんな警官はいないだろうと思ってしまう。
沢村貞子の女将は捨て子を引き取って育てるのだが、確かに僕の子供の頃には捨て子が少ないとはいえ珍しくはなかったし、女将のような人もいたのだろう。
僕も幼稚園の時は昼食を自分の家でとるよりも、可愛がってもらっていた3歳上の兄貴分の家で頂く方が多かったことを思うと、そんな人間関係、人情が普通に存在していたのだと思う。

岩田が愛する女性の嫁入り道具を馬車で運んでいく話は滑稽な場面も用意されているが切ないものがある。
闇で人材派遣をやっている杉村春子をめぐって、警察、監督署、職安が縄張り争いを行うのも滑稽に描かれ、最後は職安の多々良純が自らの不始末からスゴスゴと引き上げていくという顛末で締めくくっている。
大臣のお国帰りでは、お偉いさん方が大層なお出迎えをしているのに対し、村の老人たちが「なんだ、どこそこの三男坊じゃないか」と見下していて権威に媚びていない。
滑稽さを描きながらも人生における悲哀であるとか、官僚組織の縦割り行政に対する皮肉、権力批判などを描き込んでいるのが単純なドタバタ喜劇とはせず、どこか文芸作品のような雰囲気を出している原因のように思う。
三國が援助した娘から3000円の郵便為替が届き、モミジが同封されていたシーンにはホロっとさせられた。

市井の様子や人々を描いているので、この年代の映画になってくると風俗史的な趣もある。
バスには車掌がいるし、村の一番高い建物として火の見櫓があってそこには半鐘が吊り下げられている。
巡査とすべての村人は顔見知りで、村の娘の結婚相手も皆が知っている村の者だ。
凄く狭い社会を形作っているが、それだけに人情も安全も確保されていた。
僕には記憶の片隅にある光景であるのだが、それにしてはこの村には大事件ではないが、警察沙汰となる事件が多すぎると思うのだが、まあそれは映画の世界だからだろう。
森繁久彌や三國連太郎を除いて警官は狂言回し的な存在で、彼らを中心に巻き起こる騒動がメインの作品だが、中でも捨て子の話は涙を誘う。
特に当時6歳だったと言う二木てるみの演技には目を見張るものがある。
幼い姉が赤ん坊の弟を思う気持ちが十分すぎるほど伝わってくる名演技であった。
後年の活躍は約束されていたと言える。
署長から何かにつけて呼びつけられる警官の藪田を演じているのが若き宍戸錠なのだが、まだ整形手術を受ける前で、日活のアクションスターとしての宍戸錠を見てきた者には彼が宍戸錠だとは気が付かないだろう。