おじさんの映画三昧

旧作を含めほぼ毎日映画を見ております。
それらの映画評(ほとんど感想文ですが)を掲載していきます。

斬る

2021-01-06 08:54:45 | 映画
「斬る」 1968年 日本


監督 岡本喜八
出演 仲代達矢 高橋悦史 中村敦夫 久保明
   久野征四郎 中丸忠雄 橋本功 浜田晃
   地井武男 土屋嘉男 星由里子 岸田森
   香川良介 神山繁 東野英治郎 黒部進

ストーリー
天保四年。空っ風が砂塵を巻き上げる上州は小此木領下に二人の男がふらりと現われた。
ひとりは、二年前に役目の上から親友を斬り、武士を棄てた男、やくざの兵頭弥源太である。
もうひとりは、百姓に厭気がさし、田畑を売って武士になろうとしている男、田畑半次郎である。
二人が姿を現わしてから間もなく、野々宮の宿場で城代家老溝口佐仲が青年武士七名に斬られた。
小此木藩は城代家老溝口の圧制下で住民たちの不満が絶えず、つい最近、やくざまで加った一撲を鎮圧したばかりだった。
しかし、血気盛んな青年武士たちにとって、腐敗政治は許せるものではなかったのだ。
ところが、ひそかに機会を狙っていた次席家老鮎沢は、私闘と見せかけて七人を斬り、藩政をわが物にしようと討手をさしむけたのだ。
青年たちはやむなく国境の砦山にこもり、期待と不安を抱いて江戸にいる藩主の裁決を待った。
鮎沢はそれに対し、腕の立つ狼人を募り、砦山に向かわせたのだ。
半次郎は、武士にとり立てるという鮎沢の誘いに応じた。
しかし、源太は藩政改革を志す青年たちの味方になり、二人は敵味方に分れて戦うことになった。
一方、砦山に篭った青年たちも、その一人笈川の許嫁千乃が来たことから、美貌の彼女を間に対立する雰囲気が生まれてきた。
また討手の狼人たちも、鮎沢に見殺しにされる状態になったため、藩士と戦いを交える有様だった。
こうした情勢から、半次郎もようやく鮎沢の狡猾な政略を見抜いて怒った。
それは鮎沢の命を受けている藩士たちも同じ気持で、彼らはついに青年たちを討つことは出来なかった。
その頃、源太は鮎沢を斬っていて、藩政改革の騒動は終った。
源太、そして武士になる志を捨て“土の匂いのする”トミを連れ、それぞれこの地を去っていった。


寸評
黒澤明の「椿三十郎」は1962年に公開されたが、これは岡本喜八版の「椿三十郎」だ。
城代家老の腐敗政治を正すために若者が立ち上がる。
若者の一人の叔父がもう一人の一見頼りなさそうな城代家老で相手方に捕らえられてしまっている。
若者のリーダーには美しい許嫁(いいなずけ)がいる。
若者を見かねたヤクザ者(元は武士でスゴ腕だ)が助っ人として加わるなど共通点は多い。
こちらは岡本監督作品らしく、スピーディで西部劇風でもある。
高橋悦史の田畑半次郎(半次)と、仲代達矢の兵頭弥源太(源太)が、空っ風が吹き荒れる宿場町に現れるところなどは西部劇の始まりみたいだ。
このふたりの掛け合いは面白く、特に仲代の源太が普段の仲代と違って、ぼそぼそと核心的なことを呟くトボケた味を出している。

始まってすぐに青年武士が圧政の張本人である城代家老の溝口を襲うシーンがある。
ここでの乱闘はダイナミックに描かれている。
カメラの前から急にフレームインしてきて走り去ったかと思えば、男がカメラの前に倒れてきたり、カメラをまたぐように走り去ったりで、カメラの目の前を行ったり来たりする演出だ。
そこでは腕が切り落とされ、指が飛ぶなどのグロテスクなシーンも挿入されている。
この辺は岡本監督独特のカメラワークなのだと感じる。

設定は「椿三十郎」よりも複雑だ。
まず源太と半次が心を通わせながらも敵味方に分かれている。
二人は武士に嫌気がしたヤクザ者と、士分に取り立てられることを夢見る百姓上がりと対照的な立場である。
そこに今は女郎屋に身を置く、妻と決めた女性の身請けに30両を必要として追手に加わる岸田森の荒尾十郎太が絡む。
青年武士たちは正義感に燃えているが、その中には裏切り者がいる。
星由里子の千乃に恋する男が何人かいて、その恋の恨みが亀裂を呼び起こしたりもする。
あるいは酒に目のない男がいて、そのことでもひと悶着起こす。
清廉潔白で純情多感な若者たちという風には描いていない。
追手に加わる浪人たちの悲哀も組み込まれている。

悪役である城代家老の鮎沢(神山繁)は藩きっての剣客でもある。
源太が屋敷に行った時にその片鱗を見せていたのだが、それにしては最後の対決があっけない。
さんざん痛めつけられた源太の体が自由のきかないものになっていることは分かるのだが、それを逆手にとった工夫がもう少しあっても良かった。
源太と鮎沢の対決は最後の見せ場のはずだから、ここで一気の盛り上がりを見たかった気分は残った。
解放された女郎たちは生まれ故郷に帰るのだろうが、源太たち4人はどうするのかなあ。
まさか4人で旅するわけではあるまいに…。