おじさんの映画三昧

旧作を含めほぼ毎日映画を見ております。
それらの映画評(ほとんど感想文ですが)を掲載していきます。

Q&A

2021-01-02 08:20:01 | 映画
「Q&A」 1990年 アメリカ


監督 シドニー・ルメット
出演 ニック・ノルティ
   ティモシー・ハットン
   アーマンド・アサンテ
   パトリック・オニール
   リー・リチャードソン
   ルイス・ガスマン

ストーリー
殉職した模範刑事の息子で地方検事補アル・ライリーは、初仕事として、ベテラン刑事マイク・ブレナンによる麻薬売人射殺事件のQ&A(尋問調書)を、黒人のチャッピー、プエルトリコ人のバレンタインの2人の刑事と協力して作ることになる。
しかし目撃者の1人、プエルトリコ系麻薬ディーラーのボビー・テキサドールの証言は、正当防衛を主張するブレナンと食い違うものだった。
疑惑を持ったアルは、かつての恋人で今はテキサドールの愛人となっているナンシー・ボッシュから何とか真実を聞き出そうとするが、黒人の父を持ち、アルの人種差別的言動により去ったという過去にしこりを持つナンシーはそれを拒むのだった。
一方、ブレナンは重要な証人のオカマのロジャーを捜し出して口封じをしようとするが、機先を制したテキサドールがロジャーを連れ去る。
アルもその後を追い、そこでブレナンが麻薬組織と黒いつながりを持っていることを知るが、その直後にテキサドールとロジャーの乗ったヨットはブレナンによって爆破される。
アルの部下のチャッピーと、バレンタインを抱き込もうとするが失敗して、ついに追い詰められ逆上したブレナンはアルのもとに乗り込んでくるが、撃ち合いの末倒れる。
真の黒幕が自分の上役の検事課長のケヴィン・クインであることを既に知ったアルは彼を告発しようとするが、先輩検事のブレーメンフェルドは、検事総長に立候補しようとしているクインは全ての証拠をもみ消すことができる立場にあるから、そんなことをしても無駄だと忠告する。
しかしいつかきっと自らの手で真実を暴くという決意を胸に、ナンシーのもとへ結婚の申し込みに向かう。


寸評
警察の腐敗を描いた作品は数多く存在しているが、この作品では悪徳警官が誰であるかがまず示されているので、大抵の作品で描かれる誰がどのような悪事(大抵は麻薬関係)を働いているかの犯人探しと、そして多くの場合は悪徳警官のさらに上にいる高級官僚が暴かれ摘発されると言う筋立てではない。
「Q&A」は従来から描かれてきた腐敗モノとは微妙に違った視点で描かれている。
微妙に違っているから面白い。

主人公のアルは裁判を戦うための証拠固めを行う新人の検事であり、彼の亡き父は誰からも尊敬される刑事だったし、彼自身もかつてはいい刑事だったという経歴の持ち主である。
興味を掻き立てられるのは、彼が恋人のナンシーと破局していて、別れたナンシーが今回の事件に絡んでいる麻薬の売人の恋人になっていることだ。
彼がナンシーと破局を迎えたのは、ナンシーの父親を紹介された時に初めてナンシーの父親が黒人であることを知り戸惑いの表情を見せたことによる。
シドニー・ルメットはアメリカの抱える人種問題が根深いものであることを、声高に柵ぶものではない、ごく自然な出来事として描き込んでいる。
そしてアルのチームメイトとなるのが黒人のチャッピーとプエルトリコ人のバレンタインというマイノリティである。
チャッピーは事件のターゲットであるブレナン刑事と海兵隊で一緒だったので、職務に忠実ながらも戦友のよしみで自分がブレナンを逮捕することを拒絶している。
バレンタインがプエルトルコ人であることも上手くいかされており、人種問題が巧みに取り込まれている。
故郷であるプエルトルコを訪れたバレンタインが、テキサドールの手下が同国人であることで拳銃をテーブルに置き合う場面なども洒落たシーンとなっていて、人種問題の描き方は巧みだ。
事件の切り札となる目撃者が普通のチンピラでも良かったと思うが、ゲイというマイノリティを登場させて雰囲気を高めているのも見逃せない。

検察を巡る事件は日本でも起きていて、2010年には証拠を改ざんして厚生労働省元局長の村木厚子さんを犯人に仕立て上げたことが発覚し、障害者郵便制度悪用事件の担当主任検事、上司であった大阪地検元特捜部長、元副部長が逮捕された大阪地検特捜部主任検事証拠改ざん事件があったし、2020年には時の安倍内閣が検事総長人事に介入した黒川検事長の定年延長問題なども発生している。
この作品でもアルの上席検事が黒幕として登場している。
そのためアルは信頼できる先輩検事のブレーメンフェルドを相談相手としている。
しかし組織の実態を知り過ぎるほど知っている彼は、正義感だけではこの事件を解決できない事情をアルに言って聞かせるのだが、日本における検事総長人事問題の裏にあるものを十分すぎるほどうかがわせるもので、もみ消し行為はどの国、どの組織にもあるものなのだなあと思わせる。
腐敗をテーマにした作品において、明らかな敗北を描いている珍しい作品である。
くやしさで荒れ狂うアルが事務所のガラス窓を割りまくるが、心情を察するブレーメンフェルドが「修理を手配しておくように」と事務員に申し付けて去るのも粋な演出だ。
ラストは予想されたものだが結論を出していないのがいい。