おじさんの映画三昧

旧作を含めほぼ毎日映画を見ております。
それらの映画評(ほとんど感想文ですが)を掲載していきます。

グランド・マスター

2021-01-19 07:46:54 | 映画
「グランド・マスター」 2013年 香港


監督 ウォン・カーウァイ
出演 トニー・レオン
   チャン・ツィイー
   チャン・チェン
   マックス・チャン
   ワン・チンシアン
   ソン・ヘギョ

ストーリー
1936年、中国。北の八卦掌の宗師《グランド・マスター》、ゴン・パオセンは引退を決意、跡継ぎに一番弟子のマーサンを指名する。
パオセンは南の佛山で引退試合を開き、自分に勝った“真のグランド・マスター”に、自分がやり残した南北統一の使命を任せようとするが、野望を抱くマーサンは南の各流派を潰しにかかり、怒ったパオセンに佛山から追い払われる。
パオセンの娘で、奥義六十四手をただ一人受け継ぐゴン・ルオメイも、父の反対を押して名乗りを上げ試合に勝つことしか頭になかった。
一方、南の武術界からは詠春拳の宗師・イップ・マンが送りこまれる。
佛山で最も有名な娼館“金楼”が闘いの舞台となり、イップ・マンはまずここで働く様々な流派の武術家たちと闘うことになり、八掛掌、形意拳、洪家拳の使い手である武術家たちを倒したイップ・マンに、パオセンは「あなたに後を託そう」と高らかに宣言した。
だが、ルオメイは父に黙ってイップ・マンを金楼に呼び出し、奥義六十四手を見事に決めて勝利する。
しかしその時、同じ高みを目指す二人の間に何かが芽生える。
1937年、日中戦争勃発し、1938年10月には日本軍が佛山に侵攻、イップ・マン邸は憲兵隊に奪われる。
日本軍への協力を拒否したイップ・マンは貧窮に苦しみ、さらには幼い娘の餓死という最大の悲劇が彼を襲う。
一方、ルオメイは列車の中で、日本軍に追われる八極拳の宗師・カミソリを助ける。
そんな中、マーサンは日本側につき、1940年に満洲国奉天の協和会長に就任した。


寸評
トニー・レオン演じるイップ・マンはアクションスターとして人気を博したブルース・リーの師匠ということである。
ブルース・リーはイップ・マンに弟子入りして才能を花開かせ、カンフー・スターとしての座を射止めたが早世した。
映画はこのイップ・マンの一代宗師と呼ばれた全盛期から抗日戦の時代を経て、香港でブルース・リーを弟子とするまでが描かれている。
トニー・レオンのイップ・マンは細かな手技で接近戦を得意とする詠春拳、チャン・ツィイーのルオメイは円の動きで正面を避け側面から攻撃する八卦掌、チャン・チェンのカミソリは一撃の強さに特徴があり接近戦を得意とする八極拳、マックス・チャンのマーサンは正面からの突進を得意とする形意拳ということで、それぞれの武術をよい動きで見せてくれているが、これらの流派が十分に描き切れているとは言えず、流派の特徴を生かした死闘という感じが出ていなかったのは惜しい。

曰くありげに登場したカミソリが本題に一切かかわらず、イップ・マンとも対決しないのでは何のために登場してきたのか分からない。
ルオメイと劇的な出会いをするが、数年後にカミソリがルオメイを発見した時には、カミソリもイップ・マン同様ルオメイに秘めた恋心を持っていたことが描かれると思いきや、ただ見送るだけで何も起きなかった。

ルオメイはイップ・マンと再会し、思いを打ち明ける。
それまで強気な女拳士だった彼女が、叶わぬ思いを胸に生きてきた女として描かれ、実際このシーンの彼女が一番きれいなのだが、それならイップ・マンとルオメイのラブ・ストーリーとして、もっと重点的に描いても良さそうだが、意外とあっさりしていて映画全体をラブ・ストーリーという風には感じない。

冒頭でのイップ・マンが大勢と対決するシーンを初め、カンフー対決は度々描かれるが、それは雨を効果的に使ったり、スローモーションや香港映画お得意のワイヤー吊りによるアクションを交えて心得たものである。
猿を連れたルオメイを守る老人が相手の衣服を切り裂き、中の綿を血しぶきのようにまき散らす演出効果もあって、狙い通りカンフーシーンは見所になっている。
しかし一方で、ルオメイとマーサンの対決シーンでは列車の長さは一体何メートルあるんだというようで不自然。
さらにアクション映画として見るなら、最後にイップ・マンと誰か大物とが対決して終わりを迎えるとはなっていないので、カンフー映画の活劇への期待は裏切っているといえる。

希望を失ったかに見えたイップ・マンだったが、彼の武術館に才能ある少年が入門してくる。
それが後のブルース・リーであったという終わり方だが、予備知識として前述のイップ・マンとブルース・リーの関係を理解していること、またブルース・リーが「燃えよドラゴン」でカンフー・ブームを巻き起こしたスターであったことを知っている人でなければ、少年のエピソードがピンとこないのではないかと思う。
カンフーは横か縦、負けたものは横たわり、勝ったものは立っているということで、イップ・マンは最後までたち続けていたということなのだろうが、何かもう一つ盛り上がりに欠ける作品だ。
原因はカンフーシーンと本筋のエピソードのバランスの悪さにあり、アクションシーンが少々くどかったように思う。